大林組とTOWINGは2022年2月7日、共同で月の模擬砂と有機質肥料を用いて植物の栽培の実証実験を実施し、みごとに作物の栽培に成功した、そんなプレスリリースを発表した。

このプレスリリースの重要な点は、月の砂を植物栽培が可能な土壌とするための技術を開発したことだ。では、大林組とTOWINGはなぜこのような取り組みを実施しているのだろうか、今回はそんな話題について紹介したいと思う。

  • 月の模擬砂から製造した多孔体を用いた植物(コマツナ)栽培

    月の模擬砂から製造した多孔体を用いた植物(コマツナ)栽培(出典:大林組)

月の砂で植物を栽培するメリットは?

近年、宇宙ビジネスでホットな話題の1つに月が挙げられるだろう。

理由は、NASAが主導となって、アポロ計画以来おおよそ50年ぶりとなる人類の月面着陸を目指すという「アルテミス計画」だ。もちろん、人類の月面着陸で終わらない。未来に向けた月面の有人活動についても準備が進められている。

月面の有人活動においては、初期のフェーズでは、もちろん地球からの物資を輸送することが必要だろう。しかし、中長期的に考えれば、月の資源を有効活用することが必須となる。そのため、大林組とTOWINGは、月の砂を利用した作物の栽培を視野にいれて検討を進めているのだ。

読者の中からは、植物工場でいいじゃないか、そんな声も聞こえてきそうだ。もちろん、その解も正解だろう。しかし、植物工場を作るとなると、植物を栽培するためのシステムをすべて地球から輸送する必要があり、その輸送コストが課題となる。そこで、大林組とTOWINGは、月の砂を植物栽培が可能な土壌とするための技術を開発したのだ。

開発した月の砂を植物栽培が可能な土壌とは?

では、大林組とTOWINGが開発した月の砂を植物栽培が可能な土壌とはどのようなものだろうか。

まず、大林組とTOWINGの技術を確認しておきたい。

大林組は、月の砂をマイクロ波やレーザーを用いて建材化する技術開発をJAXAなどと実施している。

そして、TOWINGは無機の微細な穴を有する多孔体を設計する技術を持っている。さらに、農業・食品産業技術総合研究機構が開発した人工的に土壌化を行う技術を活用することで、有機質肥料を用いた人工土壌栽培を可能にするノウハウももっているのだ。

これらの技術を活用することで、月の模擬砂から多孔体を設計・製造し、それを土壌化することに成功したのだという。

  • 月の模擬砂から製造された多孔体

    月の模擬砂から製造された多孔体(出典:大林組)

そして、この月の模擬砂から多孔体から作られた土壌によって、コマツナの栽培に成功している。

実は、この土壌のすごいところはこれだけではない。それは、人間から排出される糞尿や食品残渣(ざんさ)などの有機性廃棄物を有効できる人工土壌であること、土壌由来の微生物を利用するなど土壌で育てる条件に近いため根菜類や大きな作物などの栽培も可能であるということだ。

いかがだっただろうか。この土壌は、月に行った際は、月のレゴリスをマイクロ波で加熱焼成し、製造することになるだろう。月に大量にあるレゴリスの有効な利用技術がまた増えた、そんなすごいニュースだ。