経口摂取型電子デバイスをご存知だろうか。口から体内へ飲み込むことができるデバイスで、体内の消化器官の病理診断や治療に活用できるとても小型な機器だ。

では、その経口摂取型電子デバイスを大幅に進化させた「可食ワイヤレス生体情報センサ」はご存知だろうか。

慶應義塾大学の尾上弘晃教授らの研究グループは、完全に体内で分解でき、ワイヤレスでバッテリー入らずの経口摂取型電子デバイスを開発した。

体内でしっかり消化され、機器が排出されず体内に残ってしまうというリスクもないのだ。では、この「可食ワイヤレス生体情報センサ」はどのようなものなのか、どのような用途に使われるのか、今回はそんな話題について紹介したいと思う。

「可食ワイヤレス生体情報センサ」とは?

可食ワイヤレス生体情報センサとは、経口摂取可能で体内で分解されるデバイス。

体内の消化器官の病理診断や治療に活用できるとても小型なもの。ただ、デバイスといっても、わたしたちが飲む薬のカプセルといったほうがイメージがつきやすいかもしれない。

では、この可食ワイヤレス生体情報センサとはどのようなものだろうか。以下の画像をご覧いただきたい。

  • 可食ワイヤレス生体情報センサ

    可食ワイヤレス生体情報センサ(出典:JST、慶應義塾大学)

大きさはおおよそ2cmくらい。外側の赤いカプセル、一番内部に可食アンテナ、その可食アンテナを保護している内カプセルで大きくは構成されている。そして、外側の赤いカプセルは腸溶性、内カプセルは、腸内細菌で分解するシートでできている。

では、この可食ワイヤレス生体情報センサは、どのように生体情報を送るのだろうか。

実は、この“カプセルが溶ける”という事象が関係している。

上述を思い出してほしい。内カプセルは、腸内細菌で分解するシートでできている。つまり、腸内細菌があるかないかについての情報を得ることができるのだ。

この可食ワイヤレス生体情報センサ内の可食アンテナに向けて数GHzの電波を送信すると、腸内細菌で分解するシートが溶けている場合と溶けていない場合で可食アンテナから送信される電波に違いがあるというのだ。

今後は、ビフィズス菌の量や活性の差が検出可能かどうかなどの研究開発を進めていくという。また、ある細菌で溶けるというカプセルがあれば、選択的にその細菌の存在や量、活性も調べることができることを意味しているのだ。

  • 「可食ワイヤレス生体情報センサ」が細菌に分解される様子

    「可食ワイヤレス生体情報センサ」が細菌に分解される様子(出典:JST、慶應義塾大学)

また、慶應義塾大学の尾上弘晃教授による可食ワイヤレス生体情報センサの紹介動画も是非ご覧いただきたい。

慶應義塾大学の尾上弘晃教授による「完全に体内で分解する可食ワイヤレス生体情報センサ」の説明

「可食ワイヤレス生体情報センサ」で未来はどうなる?

この可食ワイヤレス生体情報センサのすごいところを整理すると、まず、小型で経口可能であること。そして、体内で溶けてくれるため、体内に滞留するというリスクがない。

また、ある細菌で溶けるというカプセルがあれば、選択的にその細菌の存在や量、活性も調べることができる点が挙げられる。

他にもバッテリーが不要であることが挙げられる。バッテリーがなくても可食アンテナは、LRCの共振回路と等価であるため、外から電波を送信することで共振する電波を可食アンテナが送信し返してくれるのだ。

このようなメリットを活用するとどのような未来が考えられるだろうか。慶應義塾大学の尾上弘晃教授らの研究グループらは、こんな未来を述べている。

例えば、スマートフォンによる検知が可能となれば、家庭で消化器官の定期診断や簡易な一次診断が簡単にできるようになる。

他にも、この可食ワイヤレス生体情報センサと薬物を組み合わせて、適切なところで溶け出して薬を投与できるような未来も可能かもしれない。

いかがだっただろうか。他にも、薬品メーカ、生体機器メーカ、動物病院や動物園、水族館などでも活用できそうだ。可食ワイヤレス生体情報センサには、見た目、機能性能の両面から非常に“スマートさ”を感じた。