三菱電機の「シーエアリアル」をご存知だろうか。とてもユニークで、三菱電機の技術力の高さ、そして何よりも発想力の豊かさ、頭の柔らかさに驚く製品だ。
このシーエアリアルとは、海水を空中に放出して噴水のような水柱を作ることで電波を送受信できるアンテナだ。
では、このシーエアリアルとはどのようなものなのか、どのような利活用ができるのか、今回はそんな話題について紹介したいと思う。
アンテナの概念を覆す海水アンテナ「シーエアリアル」とは?
三菱電機が開発した海水アンテナ、シーエアリアルは、以下の図のようなシステム構成になっていて、とてもシンプルなことに驚く。
ポンプは電源で駆動し、海水を放出し、水柱を噴水のように作る。
水柱は、高周波ケーブル介して送受信装置に接続される構成。絶縁ノズルは、海側へ電流が流れるのを断ち切って、水柱のほうへ電流を流すものだ。
「え、これだけでアンテナになるの?」と驚かれた方も多いことだろう。
少し、一般的なアンテナについておさらいしておきたい。アンテナは、電波の波長によって、アンテナのサイズが決まる。そのため、低い周波数(長波調)では数mから数十mの高さのアンテナになることが一般的だ。
このようなアンテナは、巨大なアンテナ構造とこれを支える基礎を含めた大規模構造物になってしまうのが普通だ。
しかし、シーエアリアルは、このような一般的なアンテナの概念を覆している。
アンテナとして機能する水柱は、利用する電波の周波数に応じて大きくなる可能性もあるが、海があればいつでもどこでも作ることができるし、一般的なアンテナのように大型重量構造物のようにならずに済む。
上記図のようなシンプルでコンパクトなシステム構成なので、海岸もしくは海上のどこでもアンテナを作ることができ、また船などへ搭載して可搬アンテナとしても利用できるのだ。
海水アンテナ「シーエアリアル」開発時の2つの課題
シーエアリアルを開発するにあたって、2つの課題があったという。
その2つの課題に共通するのは「海水」だ。
シーエアリアルは、なぜ海水を利用したのだろうか。それは、海水が導電性だからだ。実は、海水は3~4%程度の塩分を含む導体で、電気を通す性質をもっている。しかし、その性質が仇となり、開発に苦労したというのだ。
1つ目の課題は、水柱に効率的に電流を流せなかったというもの。それが、「絶縁ノズル」の開発で解決できたという。噴き上がる水柱をアンテナとして動作させるには、高周波電流を流す必要がある。しかし、水柱に電流を流そうとしても、電流が海中に逃げてしまうという課題があったのだ。この「絶縁ノズル」には高周波電流の特性を利用した独自のアイデアが詰まっているという。ノズルの長さを波長の4分の1程度にすることで、海中への電流の流れを断ち切り、水柱に効率的に電流を流すことができたのだ。
2つ目の課題は、海水の導電率の低さだ。海水は導電性があるといったが、金属と比較すると導電率が低い。
つまり、アンテナとして機能する水柱は、導電性の低い海水で作るのだが、受信する電波が通り抜けてしまうのだ。その海水の導電率の低さを補うために、水柱の太さを研究。徹底的にシミュレーションして、最適な水柱の太さを割り出すことに成功したという。
シーエアリアルは、さまざまな電波を送受信可能だ。
シーエアリアルの水柱の高さは電波の4分の1波長で、この水柱の高さを変えることでさまざまな周波数の電波を送受信可能となるのだ。
絶縁ノズルのサイズは、使用する周波数で決定されてしまうが、絶縁ノズルも長さを可変可能な構造とすれば、さまざまな周波数に対応できる。
三菱電機は、シーエアリアルを2013年度に発案。開発をスタートさせ、2015年度に「シーエアリアル」のデモ機完成。そして、2016年に地デジの受信実験に成功し、たった約3年間の開発期間で完成させている。
海水アンテナ「シーエアリアル」の利活用アイデアとは?
では、シーエアリアルはどのようなシーンで利用できるだろうか。災害時の通信手段、イベントの際の臨時アンテナなどが考えられるだろう。
小型、大型を問わずに船舶の非常用通信システムもありうるだろう。海水をアンテナにするというユニークなアイデアと、それを実現した高い技術力がさまざまな方面で注目を集めているという。
いかがだっただろうか。シーエアリアルは、とてもユニークな製品だということがお分かりいただけただろうか。
実はもう1つ興味深いエピソードがある。それは、同製品の着想だ。三菱電機の研究者が、飲み会で飲み物を吹き出してしまった方を見たときに「アンテナの形に似ているな〜」と思い発案されたものだというのだ。
読者の皆さんはどのような感想を持たれただろうか。三菱電機の技術力の高さ、そして何よりも発想力の豊かさ、頭の柔らかさ、そして自由な企業風土と、興味深いエピソードからなぜか親近感をも感じたのはわたしだけだろうか。