前編 では、当社の転職データをベースに、最新の未経験エンジニアの採用動向をひも解きました。後編では、企業が未経験エンジニアに求める力を解説しながら、エンジニアへのキャリアチェンジを叶えるためのポイントを探っていきます。

企業が未経験エンジニアに求める4つの力

未経験エンジニアの採用を行う企業は、以下の4つの力を特に重要視している傾向にあります。

  • 論理的思考力
  • アウトプット力
  • 自己学習力
  • コミュニケーション力

個人の知見とその知見を求める企業をさまざまな方法でマッチングするグローバルなナレッジプラットフォームを運営しているビザスクは、この4つの力を特に重視して未経験エンジニアの採用に踏み切り、採用に至った実績があります。

今回はこれらの中でも特に重要だと考えられる、論理的思考力とアウトプット力について、ビザスク社の未経験エンジニア採用を例に解説します。

ビザスク社は未経験エンジニアを採用するにあたって、「こういうものが作りたい。そのためにはこの技術が必要。この技術はこう学ぶと効率が良さそう」と、自ら筋立てて考えることができているかを重視していたそうです。言い換えると、論理的に物事を考えることができる人は、未経験であったとしてもキャッチアップが早い傾向にあります。

さらに、ビザスクVPoE喜多氏は「興味のある分野の勉強をする、コードを独学で書いてみるにとどまらず、実際に学んだことを生かしてアウトプットを残すことができているかという点に着目していま。実務経験、実績がない未経験だからこそ、アウトプットは「学びの痕跡」であり、成長の過程や活躍の可能性を示す重要な要素の1つとなり得ます」と語っています。アウトプットが残せる人は、経験の有無に関係なく、実際の仕事でも最後まで責任を持ってやり遂げる傾向にあると言えるでしょう。

未経験エンジニアとして転職した2人の事例

未経験エンジニアとしてビザスク社に転職した倉光さんは、これら2つの力を兼ね備えていました。

倉光さんはエンジニアとしての実務経験こそないものの、メーカーで通信・インフラ系の開発を担当しており、コードの仕組みに疑問を感じるなど、技術分野にも興味を持っていました。そんな倉光さんは必要な技術を見極め、独学で好きなアーティストの楽曲について書き込めるプラットフォームを制作。ビザスク社は、倉光さんの今後の成長と、活躍イメージを持つことができたため、採用に至ったのでしょう。

また、クラウド開発を得意とするSORICHに未経験でエンジニアとして転職した方も、同様のケースです。彼は、エンジニアに転身する前は、音楽業界で音楽データの編集を行っていました。

エンジニアへの転職を決めたきっかけは、社内で使用していたWeb システムに触れる機会があり、プログラミングに興味を持ったことだそうです。そのWebシステムのコードを自ら書き換えることでプログラミングを学び始め、趣味にとどめることなく、当時の仕事を効率化するためのスクリプトやWebシステムを一から開発したといいます。開発にあたっては主に書籍で独学し、困った時には社内のエンジニアにヒントをもらうなどして、実務に近い実績を自ら作り出しました。こうした実績が評価され、未経験ながらSORICH社の創業メンバーとしてリファラル採用で転職を決め、今ではフルスタックエンジニアとして、幅広いエンジニアリング業務に携わっています。

お二人の事例を聞いて、どう思いましたか?未経験からエンジニアに転身するのはハードルが高いと感じた人も多いのではないでしょうか。実際に、未経験からエンジニアになることは決して簡単なことではありません。しかし、言い方を変えると、「学ぶ力」と「やり切る力」が備わっていれば可能性はあるということになります。

「学ぶ力」とは、手あたり次第に注目されている技術や言語を学ぶのではなく、自らの興味・関心を形にする術をロジカルに考え、スキルを身に付けていくことです。まずは、自身が興味のある分野を探求してみてはどうでしょうか。

「やり切る力」とは、たいそうなものを作るという意味ではなく、学んだことを何かしらの形に残すということです。SORICH社のエンジニアさんのように、周囲のエンジニアからアドバイスをもらってやり遂げてもよいですし、プログラミングスクールに通い、終了後に副業を紹介してもらいアウトプットを残すのもよい手でしょう。

未経験エンジニアが日本のIT人材不足を救う?

エンジニアの未経験採用が徐々に増えてきているものの、いまだ経験者採用に重きを置いている企業が多い状況下では、素質や意欲、「学びの痕跡」があったとしてもエンジニアへの転身は簡単なことではないのが実情です。

一方で、日本全体として圧倒的なIT人材不足が叫ばれる中、工夫次第で未経験からでもエンジニアとしての成長フィールドを提供し、結果としてエンジニアが強い製品を創り出している企業が多いのも事実です。個人と企業、それぞれが未経験からでもエンジニアを目指すことができる土壌を作り上げることができれば、リスキリングやキャリアチェンジの可能性が広がることに加え、IT人材不足という課題解決のための糸口にもなり得ます。

前述したように個人は、キャリアチェンジの機会を逃さぬよう、「学びの痕跡」をしっかりと形にして残す。一方で企業は、経営・現場・人事の3者間で、「実務経験必須」は本当に必須なのか、再度協議する場を設けてほしいと思っています。「実務経験3年以上」はよく求人票に書かれる文言ですが、3年と規定している理由は何なのか。2年では何故いけないのか。そもそも、その期間の何に期待しているのか。その部分が曖昧であれば、大学でプログラミングを学んだ人、独学で実績を残してきた人、すなわちポテンシャル人材にまで間口を広げてもよいのではないでしょうか。

個人は「学びの功績」を残し、企業は間口を広げる。こうした土壌作りが成功した暁には、諦めずにエンジニアを目指す人が増えていく。言い換えると、日本のIT人材が満ち足りた未来につながるのではないでしょうか。