中途採用市場では年々、IT人材の需給バランスの崩れが深刻化しています。そして昨今では、これまでIT人材をメインで採用してきたSIerに加え、事業会社もDX(デジタルトランスフォーメーション)推進やデータ利活用に向け、業務を効率化するだけでなく、システムやサービスなどに付加価値を与える技術を有するハイスキル なIT人材の獲得に力を入れています。その結果、企業のIT人材の獲得競争はかつてないほどに熾烈を極めています。
本稿ではパーソルキャリアが有する転職データなどを用いて、IT人材の需給バランスの崩れを解説するとともに、ハイスキルIT人材の獲得にあたって実際に企業が行っている工夫を紹介します。
IT人材の転職求人倍率は9.12倍。IT人材不足が止まらない
経済産業省が行った「IT人材需給に関する調査」によると、IT人材の需要と供給のバランスは、2018年頃から崩れ始めているといいます。そして最悪のシナリオでは、2030年には約79万人ものIT人材が不足すると試算されています。
さらにIT人材不足を深掘りしていくと、パーソルキャリア独自の指標で、dodaの会員登録者(転職希望者)1人に対して、中途採用の求人が何件あるかを算出した中途採用市場における需給バランスを表す「doda転職求人倍率」からも分かるように、IT人材の転職求人倍率は、全体と比べて非常に高い水準で推移しているのが見て取れます。
コロナ禍でもそれは変わらず、2020年4月に発令された第1回緊急事態宣言を受け、同年7月に底を打ったものの高い水準を維持したまま(全体:1.08倍、エンジニア【IT・通信】:4.99倍)、その後は上昇トレンドに。新型コロナウイルスに伴うテレワークの普及といった後押しもあり、デジタル改革を推し進める企業の動きがさらに顕著になった結果、2021年7月時点で全体の1.98倍に対して、「エンジニア(IT・通信)」の転職求人倍率はコロナ禍前以上となる9.12倍をマーク。ITエンジニアの需給バランスの崩れは、ますます深刻化しているといえるでしょう。
ハイスキルIT人材の獲得競争が勃発
IT人材の需給バランスが崩れる中、昨今ではこれまでSIerに開発を受託してきた事業会社でも、DX推進やデータ利活用を行う動きが活発化し、ハイスキルを有するIT人材の採用を強化しています。この動きはコロナ禍の後押しもあり、さらに加速する傾向にあります。
しかしながら、ハイスキルIT人材も、IT人材と同様に不足しています。2016年時点ですでに経済産業省の「IT人材育成の状況等について」において、2020年には4.8万人の不足が起こることが試算されており、さらに経済産業省は2030年までに55万人不足すると見込んでいます。
こうした事態を受け、IT人材を採用する際の年収にも変化が表れ始めています。上の図は、doda人材紹介サービスの新規IT職種求人における、年収の中央値を帯域ごとに表したものです。2018年度は、年収帯600万円未満の求人が半数以上を占めていたのに対し、2021年度は年収帯600万円以上の求人が半数以上になっていることが分かります。
そもそもIT人材が不足しているため、年収を上げないと人材を確保できません。加えて、新型コロナウイルスの影響で、IT・通信業界では特に即戦力採用の流れが強くなったこと、事業会社ではDX担当のようなスキルレベルの高い求人が増加したことが相まって、2020年度以降は高年収帯といえる求人の割合が増加していると考えられます。しかしながら、年収帯は上がっているものの、IT人材自体が不足しているため、企業側が一方的に高いスキルを持った人材を求めている状況に陥っているというのが実情です。
このように、IT人材とハイスキルIT人材の需給バランスの崩れにより、今、ほぼ勝ち組なきIT人材の争奪戦が繰り広げられています。しかしながらこのような状況下でも、工夫を凝らしハイスキルIT人材の採用を推し進めている企業が存在します。それはどのような企業で、どのような工夫をしているのでしょうか。次回はそうした企業の例として、bluecode(ブルーコード)とログラスを紹介します。