テックファームは、サービスの付加価値を高めるために「健康職場」づくりにフォーカスしているIT企業である。具体的な取り組み事例についてテックファームホールディングス 代表取締役社長 CEO 永守秀章氏へのインタビューを引き続きお届けする。

「無縁社員」を生まないオフィスの工夫

――社員の健康管理をする上で、ITの仕組みの導入などはされているのでしょうか?

テックファームホールディングス 代表取締役社長 CEO 永守秀章氏

今は健康を管理するというやり方はなるべくしないようにしています。「ノー残業デー」など大きな枠組みは作りますが、「君のBMI値はこうだからこうしなさい」とまで細かく管理することは、自発性・自律性をスポイルすることになってしまうからです。今年は、立候補した社員から成る、会社を"盛り上げる"ことがミッションの有志チーム、通称「アゲ隊」を立ち上げました。彼らが社員の健康意識向上のきっかけになるような視点でイベントも考えています。例えば、少し運動をするイベントで、「思ったより動けなくなってるな」と身体の変化に気づきを与えるきっかけを作るところに意識を向けています。

――大きな枠組みだけ作って、そこから生まれたものを育てていくようなイメージですね。

ITの仕組みではありませんが、オフィスには工夫を凝らしています。IT開発会社ですので、出社してから極限られた人とのみ話して一日を終えるということがあります。こうした「無縁社員」が増えると精神衛生上とても不衛生です。こうなると困ったことを全部抱え込むようになったり、周囲も変化に気づきにくくなるため、メンタルヘルスにも悪影響があります。これはいけないと、2013年にオフィスを移転した際に会話が生まれるような仕掛けをあちこちに施しました。

――どういった工夫をされたのでしょうか?

いくつもありますが、例えば、引き出しの付いた袖机をあえて無くして、代わりに個人用のロッカーを設置しました。そうすると、出退社時など荷物を出し入れする際に隣り合わせになり、会話が生まれるわけです。それから、通路にもテーブルとホワイトボードを置いて、「こんな打ち合わせをしているんだ」と周りから分かるようにしています。人がコミュニケーションをとりやすい打ち合わせ場所もいろいろな用途に合わせて多く設けています。

また、「ガゼボ」というランチスペースを用意しました。これは西洋風あずまやという意味で、公園の中でお茶をする時などに使われる施設の名前です。落ち着ける非日常感を演出するために、琉球畳を使ったり、居酒屋風の照明にしています。ガゼボは食事だけでなく、みんなでスポーツの試合を見たり、勉強会の実施や子供参観日に利用するなど、さまざまな場面で活用されています。

オフィスを作る上で一番工夫したポイントは、発想が固定化されないようにしたことです。決まった席・決まった視界で働いては、考えも決まりきったものになってしまいます。そこで、イスも机も植木まで全てモバイルにして、変化できるようにしました。

ロッカー

通路スペースにあるMTG用のテーブル

イスや机にキャスターがついており、自由に移動させることができる

交流と健康を生む「食」

――制度面では、どのようなことをされているのでしょうか?

今は「てっく茶屋」と題して、日本全国の銘菓を取り寄せるということをしています。毎月くじで対象の都道府県を決め、出身やかつて勤務地だったなど、その地域に縁のある社員がオススメの銘菓を推薦して、会社から支給し、皆で会話を楽しみながら食べます。「出身」や「前職」などもまた、コミュニケーションを生むきっかけとなり、精神面での健康向上に貢献しています。今後はこの場を生かしてより健康にフォーカスしたものを毎月提供していきたいと思っています。

昨年、「エンジニア健康向上委員会」という組織を社員が自発的に立ち上げたのですが、この「てっく茶屋」をただのお菓子ではなく、健康食品にシフトしようとしています。その第1弾の取り組みとして、昨年よりダノンビオの健康プロジェクトに参画しました。プロジェクトでは、腸内検査とヨーグルトを社員に無償提供し、お腹から社員の健康管理を実施しています。その結果、休憩時間にみんなでヨーグルトを持って休憩室に行くような光景も目にするようになりました。

冷蔵庫にたくさん用意されているダノンビオ

これからは女性的な感性が付加価値につながる

――御社はエンジニアの男女比が7:3で、業界の中では女性の割合が多いと聞きました。

2010年初頭から女性エンジニアを増やすようにしています。というのも、世の中のITサービスを使う方の感性が、女性的になっていると考えたからです。これは女性をターゲットにするという意味ではなく、男性も、柔らかい色使いの見た目やきめ細やかな使い勝手など、丁寧なサービスを求めるようになってきたということです。

エンジニアといえば、長時間労働で男性社会の色彩が強くありましたが、テックファームは、結婚や子育てをしながらも時短で働いて、女性としての感性でサービスをつくることを奨励しています。これまでに産休・育休を取った女性社員は18人いるのですが、1人を除いて全員が復帰しています。しかも、職種を変えたわけでなく、時短ではありますが、最前線で働いてもらっています。

――女性エンジニアが増えて、何か変わったことはありますか?

ママさんエンジニアは、お子さんを保育園に迎えに行かなきゃいけない時間が決まっているので、効率的に働くなと思います。それでいて視界は広く、責任を持ってやりきるので、非常にお手本になりますね。月に一回、月間MVPを発表しているのですが、時短のママさんがMVPを取ったこともあります。時間が少ないにもかかわらず、誰しもが認める成果を上げたということです。

――健康経営や女性が活躍できる職場づくりついて、しばしばそのコストが議論されますが、御社の場合は「サービスの付加価値を向上させる」ことにフォーカスした結果として、そういった職場が生まれたように感じます。

IoTの発達にともなって、これからITのアプリケーションはますます発展していくでしょう。そうした中で高い価値を持ち、かつ繊細なサービスを提供し続けるために、社員には男女問わず健康でいて、いろいろな人生経験を得て、ITを通してユーザーの"心のひだ"に触れていけるサービス創出を提供していきたいと思います。