前回は、DMPの概要やプライベートDMPの活用にあたってのポイントを簡単に紹介しました。
この連載をご覧いただいている方々の多くは、現在、何かしらの形でマーケティングに携わっているかと思います。特に、プロモーション関連の部署の方にとっては、ROIやブランド・ロイヤルティの向上が求められているのではないでしょうか。
今回は、具体的なWebマーケティング施策を例に、プライベートDMPを活用することによるメリットを説明したいと思います。
パーチェスファネルに沿ったWebマーケティング
マーケティングの目的は、一言で表現すると「知ってもらうこと」だと弊社では考えています。知ってもらうことで、商品を購入してもらえたり、サービスを利用してもらえたりするためです。ただ、「知ってもらう」と言っても「何を知ってもらう必要があるか」は、対象となる消費者や商材によってさまざまです。
例えば、商品を買ったことがない潜在顧客には、なぜその商品を買う必要があるのか、自社の商品は他社と比べて何が優れているかを知ってもらう必要があるかもしれません。また、すでに何度も購入している既存顧客に対しては、新商品などの案内が効果的でしょう。
こういった消費者の意識遷移をモデル化した一つに、「パーチェスファネル」という考え方があります。マーケティングでは、こういった消費者の行動や心理のプロセスを唱えたモデルを参考に、消費者の立場に立ったコミュニケーションの設計を行うことで、プロモーションの効果を上げていくことができます。
では、パーチェスファネルに沿った施策とは、どのようなものになるでしょうか。ここでは、「インターネット広告」「LPO (Landing Page Optimization)」「メールマーケティング」を例に挙げ紹介したいと思います。
▼インターネット広告
ここでのインターネット広告とは、純広告やリスティング、アドネットワーク、DSPなどを包括した「Web媒体に出稿するタイプの広告全般」を指します。インターネット広告の活用によってアプローチできるパーチェスファネル層の消費者は、過去に商品を何度も購入している人やカートページや申込みページで離脱してしまった人、商品名を検索している人といった「顕在層」と、商材に興味を持っている人や購入している人と近い行動を取っている人などの「潜在層」となります。
▼LPO
LPOとは、消費者が検索結果や広告などからサイトに訪問したとき「最初に閲覧するページ(ランディングページ)」を最適化すること。訪問者が会員登録や商品購入など収益につながる行動をおこす可能性を高めるための施策となります。そのため、ターゲットは商品やサービスに興味・関心を持った人となります。
具体的な施策内容としては、検索キーワードなどに応じてコンテンツをパーソナライズすることや、消費者の求めている情報を掲載すること、デザインを見やすくすること、ボタンやメニューなど導線を分かりやすくすることなどがあります。
▼メールマーケティング
メールマーケティングは、メールを活用したプッシュ型コミュニケーションです。大前提として、消費者のメールアドレスを取得し、配信許可を得る必要があります。ここ最近は、消費者のコミュニケーション手段がメールからLINEやFacebookなどのSNSへ移っていますが、SNSのメッセージ配信機能は一斉配信が多いことから、しばらくは消費者とのOne-to-Oneコミュニケーションの手段としてメールが主流だろうと言われています。
メールを活用したOne-to-Oneコミュニケーションの方法としては、商品をカートに入れたまま放置している消費者にフォローメールを送信し購入するよう働きかけたり、購買したときにお礼メールを送り、エンゲージメントの向上を図るほか、新商品や在庫切れだった商品が入荷したタイミングでお知らせメールを送信し再度サイトに訪問するようアプローチするなどが考えられます。
プライベートDMPの登場
これらマーケティング手法は、それぞれの領域で独自の発展をしてきました。その大きな要因の一つとして、これらチャネルを統合するITリソースがなかったことがあります。つまり、ハードディスクの容量の問題から、必要最低限なログのみの収集で終わってしまうことや、ネットワークやCPUの速度の問題から、各領域で収集したログの統合や分析に時間がかかりすぎてしまうことが課題としてあり、チャネルをまたいだデータの活用は現実的ではなかったということです。
また企業の組織体制として、各施策をマーケティング部門や広報、開発など異なる部門が担当するケースが多く、データの規格が統一されていないことや部門間の調整が必要なことなどから、統合が進んでこなかったという現状があります。
しかし、近年のIT技術の発展により、大量のログの収集や多様なログの統合、迅速な分析が可能となっただけでなく、それらデータや分析結果を受けて、次の施策へリアルタイムに反映していくことができるようになりました。この実現に貢献したのが、「プライベートDMP」というわけです。
昨今の消費者は、買ったときに得られる「モノ」の価値だけでなく、その「モノ」を買うプロセスそのものの「体験 (顧客経験価値 : Customer Experience)」を買うようになってきていると言われています。そのため、企業は消費者に対し最適な購買プロセスを提供する必要があり、それはつまり、消費者に対する理解がこれまで以上に求められているということではないでしょうか。
企業が消費者を理解するために、企業はどうしたら良いのでしょう。弊社は、プライベートDMPによる自社内の1st Party Dataの統合と、1st Party Dataと社外の3rd Party Dataの統合が必要となると考えています。さまざまなデータを統合することで、消費者像をより正確に捉えることができるだけでなく、チャネルを横断・一貫したOne-to-Oneコミュニケーション(パーソナライズ化された顧客体験)を実現することができるためです。
では、具体的にはプライベートDMPの活用として、どのような施策が考えられるのでしょうか。次回はその点にふれつつ、顧客データを扱う上でポイントとなる個人情報保護法改正、そしてスマートフォン普及による消費行動の変化について説明します。
執筆者紹介
京セラコミュニケーションシステム 高橋 樹理
2012年3月、京セラコミュニケーションシステムに入社。現在は、インターネットメディア事業本部 技術開発部に所属し、デジタルマーケティングソリューション「KANADE」で展開する広告配信サービス「KANADE DSP」や、データマネジメントプラットフォーム「Rocket Fuel Origin DMP」などの研究開発 / 商品開発を担当する。