読者のみなさんは、DMPというキーワードを一度は聞いたことがあるかと思います。日本では、2014年の後半から2015年の前半にかけ注目を集めましたが、何やら凄そうなツールである印象を受けると同時に、何ができるのかよく分からないといったモヤモヤ感を抱える方も少なくないのではないでしょうか。

本連載では、DMPに関する基礎知識を習得したのち、「何を実現することができるのか」を知っていただきたいと思っています。

DMPをきちんと理解しよう

まずは、言葉の定義を明確にしましょう。

DMPとは「Data Management Platform」の略で、主にマーケティングへの活用を目的としたオーディエンスデータを管理するプラットフォームのことを指します。みなさんもご存知の通り、近年のコンピュータ技術の進歩により、多様なデータを大量に処理することが可能になりました。そこで、データを一括して分析・管理することで収益化を図るため、DMPが誕生しました。

DMPにはいくつか種類がありますが、そもそもデータ(Data)という言葉が抽象的で意味が広いため、一口にDMPと言ってもカバーする領域や得意な分野は異なります。では、具体的にどのような種類・特徴をもつDMPがあるのか紹介していきます。

まず、DMPは目的によって大きく2種類に分類されます。1つはメディアサイドのDMP、もう1つはクライアントサイドのDMPです。一般的に、前者はパブリックDMPと呼ばれ、後者はプライベートDMPと呼ばれます。

―― オーディエンスデータを保有・販売する「パブリックDMP」

媒体社は、自社メディアのオーディエンス属性を理解するため、Webページのアクセスログや会員データを分析・管理しています。これらデータを扱うプラットフォームがパブリックDMPです。

ここに集約されるデータはセグメント化され、広告主やDSP(Demand Side Platform)ベンダー、アドネットワークベンダーに提供される場合があります。この販売されるデータを、「3rd Party Data」と呼びます。

この取引により媒体社は、広告ビジネスの付加価値向上を図ることができ、広告主は、自社にない豊富な外部データを利用してインターネット広告の配信を行うことが可能になります。

―― マーケティングに活用する「プライベートDMP」

先ほど、媒体社から広告主などへ提供されるデータを「3rd Party Data」と言いましたが、広告主はこのデータ以外にも、自社の購買データや会員データ、公式Webサイト・LP(Landing Page)のアクセスログ、広告配信データなど独自のデータを多数保有しています。これらのデータを「1st Party Data」と呼びます。

プライベートDMPは、「3rd Party Data」と「1st Party Data」を統合・分析し、自社のマーケティング活動に活用することを目的としています。たとえば、自社サイトの購買データから過去に購買履歴があるものの、最近アクセスがない休眠顧客に向けた新商品のメール配信や、会員ユーザーに対しディスプレイ広告やSNS、メールなどチャネルを横断した一貫性のあるコミュニケーションの実現を目指します。

オーディエンスとパブリックDMP、プライベートDMPの関係図

プライベートDMPを活用するための3つのポイント

―― DSP市場がオーディエンス配信へパラダイムシフト

弊社ではここ最近、プライベートDMPにて「3rd Party Data」を利用し、DSPによるインターネット広告の配信を行うケースが増えているなと感じています。例えば、自動車に興味のあるオーディエンスにカー用品や自動車保険を、旅行に興味があるオーディエンスにトラベルグッズやツアー情報を配信するケースです。

今から3年前の2013年ころ、アメリカのDSP市場では、ターゲティング手法がリターゲティング配信からオーディエンス配信へ遷移し、さらにチャネルがディスプレイ広告からメール・SNSなどをまたがったDMPをハブとするクロスチャネルへ進化してきました。

日本における近年の動向も、このアメリカ市場の動きとほとんど変わりません。日本においても今後、リターゲティング配信からオーディエンス配信へ、そしてディスプレイ広告からクロスチャネルへ変化する時代がくると予想されます。つまり、企業がプライベートDMPをマーケティングのハブとして活用する時代になると考えています。

しかし、プライベートDMPの活用は簡単なことではありません。データの整理や、それを活用した広告配信を行うチャネルの準備など、大掛かりな取り組みになります。では、プライベートDMPをマーケティングにうまく活用するため、広告主企業のマーケターは、どのようなことに気をつけていくべきでしょうか。3つのポイントを紹介したいと思います。

【1】オーディエンスデータ
1つ目は、保有・活用するオーディエンスデータの"質と量"です。一般的に、オーディエンスデータには実データと推定データの2種類があり、前者は質が高いものの量が少なく、後者は量が多いものの質が下がる傾向にあります。オーディエンスデータはマーケティングのコアになるため軽視することはできません。ただ、良いオーディエンスデータを選べばそれで良いというものでもなく、それを活用するための最適なチャネルやメッセージを選択する必要があります。

【2】チャネル
2つ目は、オーディエンスとのタッチポイントをどのようにデザインできるかです。タッチポイントは、ディスプレイ広告やメール、SNS、オウンドメディアなどさまざまあります。それぞれのチャネルには特徴があり、オーディエンスに適したチャネルでコミュニケーションすることが大切です。

【3】キャンペーン戦略におけるPDCAの実行力
最後は、キャンペーン戦略におけるPDCAを継続する力で、3つのポイントの中で最も大事だと考えています。DMPは、導入して終わりではなく、導入後に施策のPDCAを回し続けることで価値を高めていくことができるものです。ここが疎かになると、質と量が良いデータと最適なチャネルを用いたとしても、宝の持ち腐れで終わってしまう可能性があります。そうならないために、結果の確認と評価、次の施策の実行を継続的に実施することが重要なのです。


さて、今回はDMPの基礎知識をまとめました。次回は、データを活用したマーケティング方法にフォーカスし、これまでのマーケティングにおける課題と、DMPの活用によるこれからのマーケティングについて、例に挙げつつ紹介していきます。

執筆者紹介

京セラコミュニケーションシステム 高橋 樹理

2012年3月、京セラコミュニケーションシステムに入社。現在は、インターネットメディア事業本部 技術開発部に所属し、デジタルマーケティングソリューション「KANADE」で展開する広告配信サービス「KANADE DSP」や、データマネジメントプラットフォーム「Rocket Fuel Origin DMP」などの研究開発 / 商品開発を担当する。