本連載は、Suica、電子掲示板、車内の電子広告、インターネットを用いた座席予約など、JR東日本におけるIT活用について取材を交えてお届けする。最初のテーマに選んだのはJR東日本の代表的なIT活用と言える「Suica」だ。前回に続き、今回もSuicaのメリットを整理しておきたい。
Suica導入のメリット(3) さまざまな場所で利用可能な電子マネー機能を装備
Suicaは電子マネーの機能を備えているが、鉄道の乗車時に限らず、さまざまな場所で利用できるようになった。これがSuicaをはじめとするICカード乗車券の利用を後押ししているのは間違いない。駅構内の売店や駅ナカ店舗だけでなく、市中のコンビニエンスストアやスーパーマーケット、家電量販店などで電子マネー機能を用いて支払うことが可能だ。
面白い利用場所としては、ガーラ湯沢スキー場が挙げられる(JRグループだから当然と言えば当然だが)。売店やレストランのみならず、レンタルやスクールの受付でもSuicaによる決済が可能で、これが実際に使ってみるとなかなか便利だ。というのも、いちいちスキーウェアから財布を取り出さなくても、チケットホルダーにSuicaを入れておいて「ピッ」とやれば済むからだ。
Suica電子マネーの利用はJR関連の会社・サービスにとどまらない。写真は、Suicaによる支払に対応したコインパーキングの精算機だ。
Suica導入のメリット(4) 紛失時の再発行が可能
安全性という点でもICカードならではのメリットがある。具体的には定期券や記名式Suicaがこれに該当するが、紛失時に届け出ることで、紛失したカードを無効化して使用不可能にしたうえで、同内容のカードを再発行することができる。これは個々のカードを個体識別できるICカードの専売特許であり、紙の乗車券では実現不可能な芸当だ。
この機能を応用すると、(理論上は)カードごとの利用動向を追跡することも可能だ。もっとも、プライバシー保護との兼ね合いがあるし、利用者の反発を買ってしまっては意味がなくなるので、慎重に事を運ぶ必要はある。
在阪民鉄各社が導入しているPiTaPaのようにポストペイ(後払い)方式を導入する場合、利用額に応じた割引などの特典をつけることもできる。事前にチャージする方式で割引を設定するのは難しいが、代わりにポイント制度を導入している例もある。ただしこれは、クレジットカードと一体化したSuica、あるいは携帯電話に組み込んだモバイルSuicaといった具合に、利用可能なシステムは限られる。
Suica導入のメリット(5) その他もろもろ
Suicaにはまだまだメリットがある。ICカード乗車券はチャージによって繰り返し利用を行えるため、ゴミが出ない。紙の切符であれば1回限り、磁気式プリペイドカードであれば使い切った時点で使用不可能になるが、ICカードは再利用によって省資源化を図れるというわけだ。
また、紙の切符や磁気カードと比較すると、自動改札機の構造を簡素化できることは事業者側にとっての大きなメリットだ。無線通信を用いることから可動部分がなくなり、構造を簡素化できる分だけ信頼性が向上する。また、切符が詰まって出てこなくなるトラブルも回避できる。自動改札機に切符が詰まってしまったために駅員を呼んだ経験がある人、あるいは故障した自動改札機の蓋を開けて点検している光景をご存じの人は少なくないだろう。
また、イベント会場に近い駅で、帰りの切符を先に買っておく必要もなくなった。事前にICカード乗車券に十分な金額をチャージしておけば、そのまま改札機を通れるからだ。それゆえ、最近では自動券売機の設置台数を減らす傾向にあるばかりか、イベント会場用の臨時改札口を使用しないケースも出てきている。利用者、事業者の双方にとってメリットがある話だ。
このように、鉄道系のICカード乗車券は、利用者と事業者の双方に対してさまざまなメリットをもたらしている。その点が、冒頭で引き合いに出したICテレホンカードとの差になったと言えるだろう。ICテレホンカードは利便性の面で磁気式テレホンカードとの大きな差がなかったからだ。次回は、そのICカード乗車券を支えている、ICカードと自動改札機のメカニズムについて解説していこう