7月24日に「過労死防止法(過労死等防止対策推進法)」に基づく対策大綱が閣議決定されました。大綱の中で政府は、事業主が責任を持って、過労死が発生することのない健康的な職場づくりに取り組んでいくことを求めています。長時間労働対策は人事担当者の重要な役割の一つです。今回は、過労死防止法に関する基礎知識をおさらいしましょう。
法制度化の背景
過労死防止法は「過労死」を「業務の過重な負荷が原因の脳・心臓疾患による死亡」「強い心理的負荷が原因の精神障害による自殺」と定めています。こうした原因による労災認定件数は、1999年度には59件だったのに対し、2013年度には196件と大きく増加しています。また、警察庁の統計によると、「勤務問題」が原因とされる自殺者数は、2014年には2,227人に上り、労災と認められていない潜在的な過労死も多々あることが推察されます。日本の「過労死」は、国際社会でも問題視されており、国連から日本政府に対して対策を強化するよう勧告が出ていました。
こうした背景の下、充実して働き続けることのできる社会の実現を目的に、過労死防止法が制定されました。今年の7月に閣議決定された過労死防止対策大綱は、法律に基づいて、より具体的な対策を定めたものです。過労死の現状に関する調査研究や発生を防ぐための啓発、相談体制の整備、民間団体の活動に対する支援を行うとしています。大綱は、将来的に過労死ゼロを目指し、2020年までに週労働時間60時間以上の従業員の割合を5%以下に、年次有給休暇取得率を70%以上にすることを目標に掲げています。
死に至るリスク
厚生労働省は、「過労死」を労災認定する際、「発症前の1カ月間に約100時間の残業」または「発症前の半年間に1カ月あたり約80時間超の残業」という基準を設けています。この数字に近い残業があった場合、過労死との関連性が強く疑われることとなります。
長時間労働による疲労や短い睡眠時間は、心臓や脳の血管に強い負荷をかけます。また、睡眠不足は仕事を非効率にするだけでなく、思考をネガティブにし、うつ病や不安障害などを発症させる可能性を高めます。厚生労働省の統計によれば、50代・60代は脳・心臓疾患などによる突然死が、40代以下は過労が原因の自殺が多い傾向にあります。
このように、過労は大きな健康リスクを生じさせます。充実して働き続けるためには、組織も本人も、労働をきちんと管理していく必要があるというわけです。
人事担当者が果たすべきこと
過労死防止対策大綱では「働き盛りの年齢層に加え、若い年齢層にも過労死などが発生していることを踏まえて取り組みの推進に努める」ことを事業主に対し求めています。
労務管理面では、勤務時間の把握はもちろんのこと、持ち帰りの仕事といった実体労働が過大になっていないかも注視する必要があります。労働時間が長時間化している社員がいた場合は、何らかの手を講じなければなりません。
労務管理と同様に、従業員の健康管理も重要です。やむを得ず長時間労働させた場合は、事後対応として産業医による面接指導の機会を提供しましょう。また、産業医や保健スタッフといった専門家が対応できるような体制の整備が望まれます。
過労死対策法では、毎年11月を「過労死等防止啓発月間」と定めています。昨年は、厚生労働省による過重労働解消キャンペーンが実施され、長時間労働削減に向けた啓発が行われたほか、過重労働が行われていないか監督調査が実施されました。監督の対象となったのは、離職率が高い事業場や、過労死の労災請求が行われた事業場など、法令違反の疑いのある企業です。不適切な労働時間管理が見つかった場合は是正指導が、重大・悪質な違反があった場合は書類送検がされることになります。
過重労働対策は今後さらに強化されると考えられています。労働時間管理を厳密化していくとともに、業務の生産性向上・効率化についても今一度見直しましょう。