この連載では、人事の仕事に携わりはじめたあなたに、働く上でのヒントを提供していきます。

第一回となる今回は「そもそも人事の仕事とはなにか?」について整理したものをお伝えします。

ヒトに関わるすべての仕事

どんな会社も、「ヒト(人的資源)」「モノ(原材料や生産設備)」「カネ(資本)」という3つの経営資源によって構成されています。いずれも必要不可欠な要素ですが、特に「ヒト」がいなければ、企業活動は一歩も前に進むことができません。

この「ヒト」に関わるすべての業務を担うことが、人事の役割です。人材を集め(採用)、適切な役割を担ってもらい(配置)、働きやすい環境をつくり(給与や社会保険の管理・人事制度の構築)、育てる(研修)など、驚くほど多岐にわたる仕事があります。

代表的な人事業務

それでは、人事の主な仕事を順番に見ていきましょう。

会社が必要とする人材を社外から確保することが、採用業務です。正社員だけでなく、契約社員や派遣社員、パートタイマー、アルバイトなど、さまざまな雇用形態がありますが、今、会社がどんな人物を求めているのか? 必要なスキルは何か? どんな時期に合わせて採用すべきか? など、会社の方針に基づいて、戦略的な採用を進めることが求められます。

入社した社員は、会社組織の「全体最適」を実現させるために、各部署に配置されます。こうした異動の対応も人事担当者の役割です。勤務場所が変わる転勤や、外部の会社に赴く出向、さらには昇格や降格なども異動に含まれます。

給与計算は人事が行う基本的な仕事です。基本給や手当てといった支給金額から、社会保険料などの控除金額を差し引いて手取り額を計算し、金融機関に振り込む一連の業務を、毎月決められた時期に、ミスすることなく遂行する必要があります。もし、給与がいつ振り込まれるか分からなかったり金額が間違っていたら、安心して仕事に集中することは難しいでしょう。給与計算は、社員が仕事をするための最も重要な土台づくりであると言えます。

労働環境を整備することもまた、重要な土台づくりです。厚生労働省によると、2014年に発生した労働災害の死傷者数は11万9,535人にも上ります。安全衛生管理や健康管理をすみずみまで行き渡らせることが、こうした労働災害の発生を防ぐことにつながります。

企業はそれぞれの使命や掲げている目標を達成するために、社員一人一人に対して、能力を磨くことを求めます。社員の教育には、先輩から指導を受けながら実践を通じて仕事の方法を学ぶOJT(On-the-Job Training)と、通常業務を離れて特別な研修やセミナーを受けるOff-JT(Off-the-Job Training)の2種類があります。人事担当者の役割は、こうした教育・研修の仕組みを整え、円滑に回していくことです。

また、社員が仕事によって成し遂げた成果を評価し、給与や賞与、等級に反映させていく人事制度は、組織的な経営に欠かせません。こうした制度を設計し、運営することもまた人事の大切な仕事です。

いずれの業務も、非常に機密性の高い情報を扱います。情報漏洩は会社経営を揺るがしかねない大きなリスクです。たとえ親しい友人や家族であっても、機密をしゃべらないということは心得ておきましょう。

人事担当者の理想像

以上のように、人事は「ヒト」に関わる多種多様な業務を行いますが、実は、すべての業務に共通する目的があります。それは、「一人一人の社員に最大限のパフォーマンスを発揮してもらうこと」です。

そのために安心して仕事ができる環境を整え、適正を見極め、スキルを高めていくわけですが、人間が潜在的に持つ実力を発揮してもらうには、それだけでは足りません。なによりも「やる気」を引き出す必要があります。健康で、ほどよい高揚と緊張に包まれていて、視界が広がっているときにこそ、「良い仕事」ができるものです。活力に満ちていれば、働く時間が同じであっても、得られる成果は桁違いに向上します。それは、働く本人にとっても 会社にとっても、望ましい状況であると言えます。

ですから、人事担当者の理想像は会社によってさまざまでしょうが、ここでは「ヒトの可能性を引き出すプロフェッショナル」であることを、理想の一つとして提案します。もしあなたが、あなたのままその場にいるだけで、職場に活気があふれ、組織の生産性がぐっと上がり、企業が使命を果たせるならば、それはきっと誇れることでしょう。

それこそが、人事担当者の仕事なのです。