インテルの3代目のCEOを務めたアンディ・グローブ氏は、「アンディ・グローブの不況時のルール」というコメントを残している。

厳しい不況にも必ず終わりがくる。投資抑制は、不況脱出後には弱体化を招く。戦略的な投資を行った企業が、不況から抜け出したときに、さらに競争力を増す。

2009年は、リーマンショックに端を発した経済環境の悪化に伴い、企業のIT投資は削減傾向に向かった。

社団法人日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)によると、2009年における企業のIT予算は、平均して約10%削減されており、そのうち30%以上も予算を削減したとする企業は22%を占めたという。なかでも注目されるのが、IT予算減少の対象に「新規投資の削減による中期計画の見直し」「設備の新規導入、更新の中止/延期」などがあがっている点。将来に向けた戦略的投資が減少されている点が気になるところだ。

09年度のIT予算の伸びは前年割れ必至

売上高が大きいほどIT予算減少の影響が深刻に

マイクロソフトは、2009年6月末まで、Save Money.キャンペーンを実施してきた。これは、企業のIT投資抑制が顕在化したことに対する緊急措置的なキャンペーンとして実施したものだった。

ネーミングからすると投資抑制に向けた施策のように感じられるが、実は、Hyper-Vを活用することで、サーバやクライアントPCといった既存資産を有効活用する仮想化テクノロジの提案、分散した複数のサーバの統合、ITプラットフォームの標準化によるコスト削減、プロジェクト管理による業務の標準化および効率化などを提案するものであり、いわば新規IT投資の提案を盛り込んだものだ。

さらに7月からは、「Save Money.キャンペーン」と、従来から行ってきた、ソフトの力によって、社員力強化を支援する「People ready business~社員力を、経営力に。」の取り組みを統合する形で、「社員にチカラを、ITで企業力を~Because IT's everybody's business」キャンペーンを展開。コスト削減とビジネスの成長という2つのビジネス課題に対して、デスクトップ最適化、サーバー最適化、統合コミュニケーションという3つのIT技術基盤の強化をもとに、具体的な8つのシナリオから、ITソリューションの提案を行っている。

マイクロソフトの樋口泰行社長

マイクロソフトの樋口泰行社長は、自らが日本固有の大手小売り企業の社長を務めた経験からも、「日本の企業はコストダウンというと、切り詰めることしか考えないケースが多すぎる」と語る。そして、「大切なのは切り詰めたあとに、そこで捻出した予算を次の戦略的投資に回すことができるのかどうかという点」と続ける。これは、経済環境が悪化したなかでも、戦略的な新規投資を視野に入れた取り組みが必要であるという観点からも、「アンディ・グローブ氏の不況時のルール」とも合致した考え方だといえよう。

そして、樋口社長はこうも語る - 「欧米の企業は、最後までIT投資を守ろうとするが、日本の企業は、上から3番目にIT予算の削減をあげている」

ここに日本の企業の、IT投資における問題点がある。IT投資予算の削減は、新規投資の削減に直結するのは明らかだ。ただでさえ、新規投資が3割程度に留まり、あとは既存システムの運用、保守に割かれている日本の企業のIT投資構造を考えると、景気低迷のこの時期に、新規IT投資の削減を率先して行ってきた日本の企業のツケは、これから数年後、大きな差となって表面化する可能性がある。

日本の企業は、次の成長時代において国際競争力を維持できるのか。それは疑問でしかたがない。