"猫も杓子も"クラウドコンピューティング

クラウドコンピューティングが花盛りだ。

この半年ほど、クラウドをテーマにした会見が相次いでおり、決算発表や経営方針のなかでも、クラウドの話題に言及することがたびたびである。

富士通によると、クラウドサービス市場は、2008年度には1,538億円であったものが、2015年度には2兆5,280億円へと、現在の16倍の市場規模に拡大すると予想。実に、IT市場全体の20.1%を占めると見ているのだ。

クラウドコンピューティングとは、クラウド(雲)で表現されるインターネットを介して、ネットワーク上のサービスを活用する仕組みを指す。SaaSやグリッドコンピューティング、ユーティリティコンピューティングといったサービスも、このクラウドコンピューティングのなかに含まれて表現されることが多く、いわば「ネットの向こう側」を利用したコンピューティング形態を総称するものだといえる。

プロバイダやベンダなどが提供するクラウドサービスを「パブリッククラウド」と呼び、企業内や業界内といった閉じられた環境のなかで利用するクラウドサービスを「プライベートクラウド」と呼ぶ。企業のなかには、これらを連動させた形で利用する「ハイブリッドクラウド」を選択する例も出ており、主要ベンダ側においては、パブリック、プライベート、ハイブリッドという3つの観点からサービスを提供する体制を構築しようとしている。

二大国産ベンダの気になる動向

クラウドコンピューティングでは、Hewlett-PackardやIBMが、概念やコンセプトの提示を含め、この分野で先行していたが、今年に入ってから、国内大手ベンダも相次いでクラウドに関する事業戦略を発表。具体的な取り組みについても、方針を明らかにしている。

富士通は、今年4月にクラウドに関する基本方針を発表。10月には、企業内クラウドのインフラを支える製品群を順次提供すると発表。同時に、クラウドコンピューティングに関する営業体制を強化。クラウド利用サービスから、企業内クラウドの構築までに対応するワンストップ型の営業支援体制を敷いた。

富士通は、2012年度までの3年間で、クラウド事業を約3,000億円の事業規模にまで拡大させる考えで、2015年度には、国内クラウド市場全体の20 - 30%のシェアを獲得したいとする。

企業内クラウドの構築で一気にシェアを拡大したいとする富士通。狙うは"残り8割"のオンプレミス市場だ

一方、NECは、今後の成長戦略の柱のひとつとして「C&Cクラウド戦略」を打ち出し、同社が推進するITとネットワークとの融合により、企業内のシステム統合などに対応する「エンタープライズクラウド」、次世代ネットワークサービスを実現する「キャリアクラウド」、公益基盤サービスを支える「ソーシャルクラウド」の3つの市場を対象に、クラウドサービス事業とクラウド環境構築事業の2つの観点から事業を推進する姿勢を示している。C&Cクラウドによる中期的な事業目標は1,000億円としており、これを中核に、サービス事業全体で早期に5,000億円の事業規模にまで拡大する考えだ。

NECの「C&Cクラウド戦略」では3つの市場をターゲットにする

両社が異口同音に語るのは、メインフレーム時代から培ってきたミッションクリティカルの事業経験がクラウド事業にも生かすことができるという点だ。

NECでは、NTTドコモ向けをはじめ、90年代から開始したオープンアーキテクチャ環境でのミッションクリティカルシステムの稼働実績を強調。これらのノウハウが、99.9999%の可用性を求められるクラウド環境においても威力を発揮すると語る。

また、富士通でも、「クラウドコンピューティングにおいては、基幹システムの膨大なデータ処理やセキュリティ、信頼性に対する不安をユーザーが持っており、さらに、いままで培った技術や文化、作法などの連続性に対する技術的課題などが指摘されている。こうした点を解決できるのは、ミッションクリティカルにおける長年の蓄積が必要」と同社の経験の強みに胸を張る。

そして、もうひとつ注目すべきなのは、2015年度には約2割がクラウドサービス市場であるのものの、裏を返せば、依然として約8割はオンプレミス型の市場であるという点だ。ここに、企業内ITシステムにおけるクラウド活用という新たなビジネスチャンスがあるともいえ、ベンダ各社の関心もここに集まっている。

11月には、Microsoftが米ロサンゼルスでPDCを開催し、同社のクラウドサービス「Azure」の詳細な内容について公表することが明らかになっており、これを受けて、来年早々に日本で開催されるTech Days JAPAN 2010では、日本向けサービスの取り組みが明らかになる予定だ。

クラウドコンピューティング市場の拡大はまさにこれからが本番だ。