人気急上昇の「ITパスポート試験」とは?
2009年度から「ITパスポート試験」が始まっている。
ITパスポート試験は、多くの人が共通に備えておくべきITに関する基礎的知識を測定し、ITリテラシー不足といわれる日本の国民のIT知識を一定レベルにまで引き上げることを目的に実施している試験である。
これまでにも独立行政法人情報処理推進機構(IPA)によって、国内最大規模の国家試験といわれる情報処理技術者試験が行われているが、これらは高度試験、ミドル試験、基礎試験とされ、ITパスポート試験は、いわばさらにエントリーレベルの試験に位置づけられるものだ。
情報処理技術者試験は、これまでに応募者総数約1,500万人、合格者数約170万人を誇るが、2002年度の年間80万3,109人の応募者数をピークに、6年連続で減少傾向にあった。それが今年春から開始したITパスポート試験の応募者数が加わったことで、試験全体の年間応募者が61万3,831人に増加。前年から一転してプラスに転じたのだ。
ITエンジニアの共通キャリア・スキルフレームワーク
ところで、IT産業には、ITエンジニアを対象にした業界共通のキャリア・スキルフレームワークがある。情報処理技術者試験およびITパスポート試験を認識する上では、この共通キャリア・スキルフレームワークの概要を理解したほうがわかりやすい。
もともとキャリアフレームワークには、2002年からスタートし、主にITベンダ/ITサービス企業のITエンジニアを対象にした「ITSS(ITスキル標準)」と、ユーザー企業のITProを対象にJUAS(社団法人日本情報システム・ユーザー協会)が実施してきた「UISS(情報システムユーザースキル標準)」、さらに、日本が得意とする組み込み技術を対象にした「ETSS(組込みスキル標準)」があったが、この3つのレベルを判定するフレームワークを共通化、スキルレベルを7つに分類し、高度IT人材の育成/評価基準として活用できるようにしている。
このうち、レベル1となる最低限求められる必要な知識を持つ「エントリー」から、基本知識・技能、応用知識・技能能を持つ「ミドル」、そして、高度な知識・技能を持つ「ハイレベル」までのレベル4までの領域は、情報処理技術者試験の合否で認定。レベル5の企業内のハイエンドプレーヤー、レベル6の国内のハイエンドプレーヤー、最上位となるレベル7の国内のハイエンドプレーヤーかつ世界で通用するプレーヤーという高度IT人材は、成果や経験などを通じて判定されるという仕組みになっている。
※情報処理技術者試験の新制度についての詳細記事はこちら
「日本人すべてが受けてくれるような試験にしたい」- 西垣理事長
こうした共通キャリア・スキルフレームワークの入口に設定されているのが「ITパスポート試験」ということになる。
IPAの西垣浩司理事長は、「ITパスポート試験は、日本国民が持つITに関する知識レベルを上げることを目的としたもの。日本におけるITの利活用を促進するためには、ITスキルのレベルを一段上げることが必要であり、これがすばらしい社会を実現することにつながる。社会のIT利活用を考えた場合、どうしてもリテラシーの低い人にあわせた形でシステムを考えなくてはならなくなる。このレベルが上がれば、効率性が高い、新たなシステムが出来上がる。漢字検定のように、日本人のすべてに受けてもらえるような試験にしたい」とする。続けて、「情報セキュリティひとつをとっても、スキルがあがれば、少なくとも、ウイルスを他人にばらまくといった、迷惑をかけない、セキュアな社会が出来上がる」とする。
ITパスポート試験は、100問の出題のうち、経営一般のストラテジー系が35問、ITマネジメントに関わるマネジメント系が25問に対して、ITテクノロジーは40問となっており、技術だけに片寄らない点も特徴だ。「読み書き、計算力、英語力とともに、IT力が国民ひとりひとりの基礎的素養として認識されることを期待する」と、IPAでは語っている。
IPAは、経済産業省と連携し、ITパスポート試験を日本の社会に広く普及させることを目的に、「ITパスポート試験普及協議会」を、9月28日に発足した。発起人には、経団連、経済同友会、日本商工会議所、全国商工会連合会などの経済関連団体のほか、情報サービス産業協会、電子情報技術産業協会、コンピュータソフトウェア協会、日本コンピュータシステム販売店協会などのIT関連業界団体が名を連ねた。
西垣理事長は、「受験者を増やしていくことが、社会全体の力をあげることにつながる」と、この協議会を通じた普及に期待を寄せる。
第1回目となったITパスポート試験の春期試験の応募者数は4万6,845人。合格者は2万8,540人。10月18日に行われる秋期試験の応募者数は7万1,856人と急増している。そしてこれからは、ITパスポート試験普及協議会による業界をあげた普及活動も本格化することになる。これからどんな形で応募者が増加し、普及していくのか注目したい。