ブラザー、キヤノン、デル、エプソン、日本HP、レックスマークのプリンタメーカー6社が参加する、家庭用インクジェットプリンタの使用済みインクカートリッジ共同回収事業「インクカートリッジ里帰りプロジェクト」が、2008年4月にスタートして以来、2年半を経過した。
日本郵政グループの協力を得て、現在、3,639局の郵便局に回収箱を設置。全国各地を網羅する郵便局のインフラと、郵便事業会社が持つ物流の仕組みを活用して、効率的な回収スキームを実現しているのが特徴で、回収実績は2008年度に約70万個、2009年度は130万個。この2年間での回収実績をもとに効果を算出すると、約82万トンのCO2排出量に達し、杉の木で約5,900本分のCO2吸収量に当たるという。
そして、2010年度上期(4 - 9月)には、約67万個の使用済みインカートリッジを回収。年賀状シーズンが終わる年明けに回収数が増加することを考えると、前年実績を上回る回収量になるのは間違いないだろう。同プロジェクトでも、今年度は200万個の使用済みインクカートリッジの回収を目標に掲げている。
回収されたインクカートリッジは、参加各社ごとに仕分けされて、リユースや製品の再資源化の用途など、マテリアルリサイクルされる。仕分け作業は、障害者雇用施設のエプソンミズベに委託。障害者の雇用促進という点でも社会貢献をしている点も見逃せない。関係者は、「回収数が増えれば、それに対応する仕分け作業のために障害者の雇用を促進できる」とする。
さらに6社は2010年4月、共同回収活動を通じて、国連環境計画(United Nations Environment Programme: UNEP)への支援を開始することを発表。回収したインクカートリッジ1個につき3円を掛け合わせた金額を、6カ月ごとに集計し、UNEPに寄付するという活動を開始してきた。
その寄付金贈呈式が、10月29日、名古屋市瑞穂区のブラザー コミュニケーションスペースで行われた。寄付された金額は200万円。上期に回収された約67万個をベースに決定したものだ。この寄付金は、UNEPが行う森林保護や生物多様性の保全などの活動に使われることになる。「国連環境計画への寄付を通じた環境保全活動を展開することで、さらなる社会貢献を進めていく」と、6社を代表して、ブラザー販売の片山俊介社長は語る。寄付金贈呈式には、過去10年間に渡ってUNEP親善大使を務めている歌手の加藤登紀子さんが参加。自らの活動内容などを説明。さらに、国連環境計画/アジア太平洋地域事務所のヤン ウー・パク所長に、寄付金200万円が、片山社長から手渡された。
寄付金贈呈式が行われた名古屋では、2010年10月11日から29日まで、「生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)」が開催。これに併催される形で屋外展示会「生物多様性交流フェア」が行われていたが、インクカートリッジ里帰りプロジェクトはそこにブースを出展。来場者に同プロジェクトの取り組みや意義について訴求した。
現在、家庭用インクジェットプリンタのインクカートリッジは、日本だけで年間2億個が使用されると推定されている。同プロジェクト以外にも、量販店での回収、ベルマーク制度を利用した学校での回収などが行われているが、その多くが一般ゴミとして捨てられており、同プロジェクトが想定している今年度の回収見通しによって、ようやく1%に当たる200万個に達するというレベルだ。
これまで日本郵政グループとの協力で窓口を増やすことに力を入れ、全国規模への展開と、多くの人が集まる郵便局での設置強化などに取り組んできた。多くの人が訪れる場所に回収箱を設置することで、日常生活のなかで手軽に回収に協力してもらうという環境を作りたいという狙いがあったからだ。
同プロジェクトでは、その考え方を一歩進め、昨年から自治体との連携を積極化させている。
2009年7月には北九州市が、自治体として初めて参加したのを皮切りに、東京都庁をはじめ、全国29の自治体で回収箱を設置。「新たに51自治体、737カ所から賛同を得ており、今後、全国80自治体、約900カ所に回収箱が設置されることになる」(片山社長)という。
ブラザーの地元である愛知県も新たに賛同を表明した自治体のひとつ。これにより、名古屋市内16カ所、県内105カ所の郵便局で行っていた回収に加えて、2010年9月からは愛知県庁舎内や県民センターなど6カ所で回収箱を設置。さらに県内17市町村が参加に賛同しているという。「東海地区におけるブロジェクトの認知度が高まり、回収が進むことを期待している」と片山社長は期待を寄せる。
10%の回収率が視野に入り始めたこと、そして、全国の自治体がこのプロジェクトに関心を寄せ始めたことで、注目度はさらに高まることになりそうだ。