デルが、大きな方向転換を発表した。これまでデルの直販モデルの特徴のひとつとしていたBTO中心の事業モデルから、スペックを固定した事業モデルを中軸とする方針を明らかにしたのだ。
これまでデルのPCの特徴いえば、スペックを自由に組み合わせることができるBTOであり、その組み合わせは、数億通りに及ぶものとなっていた。PCに詳しいユーザーはそれを利用することで自らが欲しいスペックにPCを仕上げることができ、企業ユーザーでもそれぞれの業態に最適化したPCを選択できるようにした。企業が低価格でPCを入手したい場合にもこのBTOの仕組みを利用することで、標準モデルに搭載されている余計な機能を省くことができ、結果として低コストで導入ができるという環境を実現することができた。
それは、デルが創業以来取り組んできた仕組みを転換するという大規模なものといえる。
デル日本法人のジム・メリット社長によると、今回の方針転換により、「ある製品に関しては、これまでは何100万通りもあったコンフィグレーションを、99%以上削減する」とした。ノートPCのLatitudeでは、ビジネスレディ・コンフィグレーションというモデルを用意。スペックを固定することで、すぐにPCを出荷できる体制をとった。また、コンシューマ向けPCのInspironについても、今後、スペックを固定する方向にシフト。XPSやStudioといったモデルでコンフィグレーション対応を行うというスタイルにする。
メリット社長は、「構成を自在に組み上げるよりも、低コストで、簡単、シンプル、そして短納期の製品を欲しているユーザーが増加している。今回の新たな仕組みは、そうした顧客の需要変化にあせたものになる」と位置づける。
納期優先への対応では、「デル特急便」という仕組みを用意した。スペックを固定したことで、受注した翌営業日に納品できるというのが「デル特急便」の特徴で、すでに98%の製品でデル特急便を利用できるという。「中堅・中小企業向け事業においては、クライアントPCの10%、なかでも中堅・中小企業向けとするVostroシリーズでは20%がデル特急便を利用したものである」という。
メリット社長が指摘するように、需要の変化にあわせた新たな仕組みであることには間違いないが、それ以外にもいくつかの理由がある。
ひとつは、パートナー経由のビジネスモデルを加速している点である。
これまでデルの特徴は、メーカー直販であったが、ここにきてパートナー経由の販売が増加している。とくに、中堅・中小企業向けビジネスや、コンシューマ向けビジネスでは、パートナーや量販店経由の販売比率が増加している。
「中堅・中小企業向けビジネスの約3割はパートナー経由のものになっている」(メリット社長)というほか、量販店の取り扱い数も1000店舗を突破している。これにあわせてデルでは、量販店モデルのラインアップを拡充しはじめている。こうしたパートナーモデルの促進は、スペックを固定した標準モデルの拡大が不可欠となるのだ。
そして、もうひとつの大きな理由が利益追求モデルへの転換だ。
最近、デル関係者から聞かれているのが、「利益優先」という言葉だ。メリット社長も、「コンシューマ事業ひとつをとっても、従来は、シェアは追うことを優先したところがあったが、中価格帯、高価格帯の製品の売り上げを伸ばすことで、収益性の改善に注力している。これまでとは違った戦略が始まっている」とする。
今回のBTO中心のビジネスモデルからの脱却は、バリューチェーン全体の改革にも波及し、「設計、計画・プライシング、調達・組立・配達、販売、サービス・サポートのすべてのサプライチェーンの見直しにより、コスト競争力を高めることができた」とする。こうした取り組みは、製造部門における41%ものコスト削減という成果にも直結している。
米デルの第2四半期(5 - 7月)の業績は、大幅な改善を示すものとなった。売上高は前年同期比22%増の155億3,000万ドル、純利益は6億2,900万ドルと大幅に改善。調査会社の調べによると、4 - 6月のデルのPC出荷台数は1,054万台となり、Acerの1,019万台を抑えて、デルが2位に返り咲いた。
また、日本における第2四半期の売上高は前年同期比5%増、粗利益は58%増となっており、利益の回復が先行していることがわかる。
デルのBTOからの脱皮は、デルのビジネスモデル全体を大きく変革させ、シェア追求から、利益優先という大転換を促すものになる。そして、それは業績の回復にも寄与しはじめているようだ。