AppleのiPadが、発売以来、依然として品薄が続いている。オンライン直販のApple Storeでは現時点でも、出荷予定として「7 - 10営業日」と表記されており、1 - 2週間待ちという状況は覚悟しなくてはならない。
もちろん出荷数量を絞り込んでいるわけではない。Appleでは最新データとして、今年6月までの累計出荷が327万台に達したと発表したが、徐々に販売地域を拡大するなど、さらに出荷ペースに加速がついているのは容易に想像できる。実際、米国のアナリストによると、7 - 9月のiPadの出荷台数は、Macの出荷台数を超え、400万台に達するとの予測も出ている。
日本においても、iPadの勢いは留まるところ知らない。BCNの調査によると、2010年7月におけるPC全体の機種販売台数シェアでは、iPadが1位から3位までを独占。4月には4.8%だった市場シェアが、5月には11.0%、6月には15.0%、7月には13.8%と10ポイントも上昇しているのだ。
こうしたなか、Appleは明確なメッセージを発信しようとしている。それは、マスコミ報道などで語られる「電子書籍=iPad」というイメージの払拭である。
もともとiPadは発売当初から、Amazonが発売する「Kindle」や、Barnes & Nobleの「NOOK」といった電子書籍と比較されることが多かった。その影響もあり、電子書籍という観点で捉えられる場合も多かった。だが、Appleでは、多機能端末という位置づけを改めて強調しようとしている。
Appleでは次のように指摘する。
「米国での調査によるとiPadの主な用途として、8割以上の人がネットサーフィンをあげ、続いて、メールのチェック、アプリケーションを楽しむ、動画を見る、となっており、5番目に電子書籍を読むという順番になっている。電子書籍はひとつの機能であり、その点で電子書籍端末といわれる他社の製品とは異なる」
実際、iPadの魅力は、App Storeで提供されるアプリケーションの豊富さにある。
現在、App Storeで提供されているアプリケーションは22万6,000種類。iPadの画面サイズに最適化されたアプリケーションは1万1,500種類にのぼるという。しかも、ここ数か月は毎月2万種類ずつアプリケーションが増加しているというから、この数字もすぐに古いものになってしまうだろう。
当然のことながら、このなかには電子書籍のカテゴリに含まれるアプリケーションもある。しかし、それは明らかにごく一部なのだ。
しかも、ここにきてビジネスシーンでのiPad利用も増加しはじめている。
たとえば、みずほ銀行では、店舗のロビーにiPadを設置して、待ち時間にこれを利用してもらう試験運用を開始したほか、将来的には帳票の電子化やネットバンキングサービス「みずほダイレクト」を提供するといった取り組みも視野に入れている。そのほかにも、アパレル大手のニューヨーカーが店舗で利用する端末として導入。画面上で服を組み合わせたりといった使い方ができるほか、大塚製薬では1,300台のiPadを導入し、MR(医薬情報担当者)がこれをもって製品説明などを行うという。こうした使い方もiPadならではの多機能性が背景にある。
とはいえ、電子書籍市場の開拓はiPadが切り札になるとの認識は業界内に共通したものだ。日本では、まだ電子書籍のコンテンツ数が少ないが、電子書籍普及のきっかけがApp Storeにあると見ているからだ。
Appleは、かつて音楽配信事業において、当初は5レーベル20万曲という規模でiTunes Storeを米国でスタートした。だが、これが現在では1,200万曲にまで拡大しており、リアルの店舗を含めて、世界で最も楽曲を販売しているサイトに成長している。この成功がそのまま電子書籍にもつながるとの見方は多くの人に共通したものだ。
Appleでは、電子書籍はひとつの機能とするが、iPadが電子書籍普及に向けた台風の目になることは間違いない。