ネットブック市場が縮小しているという統計数字が発表されている。

BCNがまとめたノートPCの台数別構成比によると、2009年5月におけるネットブックの比率は33.3%と、3台に1台を占めていたが、それが2009年12月には18.0%と、20%を割り込んで以降、10%台のシェアで推移。最新データとなる2010年5月の集計では12.3%にまで落ち込んでいる。

実際の販売数量を示す販売指数で見ても、ネットブックが減少していることがわかる。2008年1月のネットブックの販売台数を1とした場合、2010年5月は5.23と、実は5倍以上の販売台数となっているが、2009年3月には約14倍、同5月には13倍となっていたことに比較すると、大幅に減少していることがわかる。

いまでは量販店の間からも、「ネットブックの販売台数は、前年比3割減から4割減」という声が聞かれている。

ネットブックのシェア下落を表す数字はたしかに存在しているが……左はBCNがまとめたシェアの比較、右は同じくBCNによる販売台数指数の変化

理由のひとつとしてあげられるのがCULV(Consumer Ultra Low Voltage)への移行が進展したことだ。

たしかにCULVの構成比は上昇している。BCNでは、CULVをスタンダードモバイルを表現しているが、この領域のPCがノートPC全体に占める構成比は、2009年5月の集計では、わずか2.0%。その後も2%前後を推移していたが、2009年11月には7.9%へと一気に拡大。その後、1桁台で推移を続けている。

CULVが9.4%のシェアを獲得し、最も高い構成比となった2010年2月には、ネットブックの19.4%とあわせると、28.5%となり、落ち込み具合が低いことがわかる。ここまでをみると、CULVがネットブックの落ち込みをカバーしているようにみえる。

もうひとつの理由が、スタンダードノートPCの価格下落によるネットブック離れだ。

Windows 7の発売以降、ネットブックの構成比が低くなる一方、スタンダードノートPCのシェアが上昇。2009年5月には65.0%だったスタンダードノートPCの構成比は、Windows 7が発売となった2010年10月には70%を突破。2010年4月には78.5%と、この1年で13ポイント以上も上昇している。

背景には、スタンダードノートPCの価格下落の進展が激しく、ネットブックを購入していたユーザーが、スタンダードネットブックを購入するという動きに転じたことがあげられる。

量販店の間からも「ネットブックに搭載されているAtomは、性能的に課題があるのではないかとする来店客が、スタンダードノートPCの価格を見て、購入していく例が増えている」とする。

実際、スタンダードノートPCの平均単価は、2009年5月には10万4,200円だったものが、2010年5月には9万3,500円と、1万円以上も下落している。そして、そのほかにもネットブックが主要ターゲットとしていた初心者ユーザーの購入が一巡したという見方や、次期Atomを搭載したネットブックの登場を待っているための買い控えが、構成比を減少させているのではといった見方も出ている。

だが、これらの見方はどれも的を射ているとは言い難い。

たとえば、CULVへの移行については、2010年5月のデータではネットブックとCULVをあせても18.2%となり、2割を割り込んだ結果となっている。実は、5月の集計にはiPadの発売があり、それを含んだ「ノートその他」のカテゴリが、8.2%と急増したことも影響しているが、それでもiPadが含まれない4月の集計においても21.5%と、ネットブックとCULVを足した構成比は着実に減少しているのだ。

つまり、CULVの移行がネットブックの市場を浸食したとは言い難い状況にあるともいえる。

また、スタンダードノートPCへの移行についても、ネットブックの販売台数が3割から4割減少しているという落ち込みを、カバーしているほとの成長はない。

初心者ユーザーの一巡という見方も、まだそう言い切るには早い段階にあり、次期Atomを待つユーザーも、ネットブックの主要ユーザー層から考えると、ごく一部のユーザーの話だといえる。

では、ネットブックが市場を縮小しているとされる、この現象をどう捉えたらいいのだろうか。

実は、PCメーカーに取材をすると、量販店などで指摘されるほどネットブックの落ち込みは激しくはない。つまり、ネットブックは前年割れの傾向にはあるものの、ネットブックの終焉とされるほどの状況ではないのだ。

取材をしてみると、新たなルートでネットブックが販売されていることがわかる。それが、携帯電話ショップなどでの販売なのだ。

もともとネットブック普及の原動力となったのは、イー・モバイルのデータ通信端末と連動させた割賦販売モデルだ。その販売の原点ともいえる携帯電話を取り扱う携帯電話ショップでの販売が増加しているのである。

携帯電話ショップにとっても、販売制度の変更などを背景に、携帯電話端末の販売が減少。新たな商材を求めており、そこにネットブックを戦略的商品のひとつとして位置づけ、新たに取り扱いを開始する店舗が増えたのだ。

残念ながら、携帯電話ショップにおけるネットブックの販売動向を集計する手法がないために、どの程度の数量がこれらルートに流れているかは推測の域を出ないが、業界関係者の間からは、「携帯電話ショップルートでの販売を加えれば、ネットブックの出荷台数は、それほど減少していないのでは」との声も聞こえる。

ネットブック市場の縮小の実体は、既存のPC販売ルートを視野に捉えた場合の話であり、日本国内全体という見方をすれば、実は、それほど大きな縮小は見られていないというのが本当のところのようだ。

量販店での販売台数が減少したからといって、ネットブック市場全体が縮小していると見るのはやや早合点かもしれない。いまや販売ルートはひとつではないのだ