アジアを制するものが世界を制する

ソフトバンク 孫正義社長

ソフトバンクの孫正義社長は、2009年度第3四半期連結決算の席上、同社の中国市場に関する取り組みについて、多くの時間を割いて説明した。

ここ1年ほどは、iPhoneへの取り組みなど、携帯電話事業に関して説明に時間を割くことが多かったが、「リーマンショックから1年以上経過し、ソフトバンクの経営不振説も吹き飛んだので」と冗談を交えながら、「今回は久しぶりにインターネット事業への取り組みを話す」と、決算意見で説明を行った。

孫社長には、「モバイルを制するものがインターネットを制す」という信条とともに、「アジアを制するものが世界を制する」という信条がある。アジアナンバーワンのインターネットカンパニーとなることが、そのまま世界ナンバーワンのインターネットカンパニーになることと同義語だと捉えているからだ。

それにはいくつかの理由がある。

ひとつは、2010年には、名目GDPで日本を中国が逆転して世界第2位に浮上。今後、さらに拡大を続け、日本との差を広げようとしているおり、経済成長が継続的に見込まれること。そして、2つめには、中国のインターネット人口がすでに米国を抜き去り、圧倒的な世界ナンバーワンの利用者数を誇っていることだ。

2009年の調査では、米国におけるインターネット人口は2億3,000万人。普及率は74%と高い。これに対して、中国のインターネット普及率は29%とまだ低いが、それでも3億8,000万人の規模を誇り、この数はこれからも増えていくことが見込まれている。

「1998年には、全世界で約1億9,000万人のインターネット人口があり、そのうち米国が50%を占めた。だが、2015年には、全世界で26億人のインターネット人口が予想され、そのうちアジアが50%を占め、米国は12%の構成比となる。米国を制するものがインターネットの世界を制したが、これからはアジアを制することがインターネットを制することになる。インターネットの中心はアジアになる」と、孫正義社長は断言する。

インターネットの中心はもやは米国ではなくアジアなのか!?

日本市場とはケタが違う中国市場の大きさ

その中核が、中国市場ということになる。

ソフトバンクは中国市場において、33%を出資するアリババグループホールディング、同じく35%を出資するOPI(オーク・パシフィック・インタラクティブ)がある。

アリババグループホールディングには、企業間電子商取引を行うアリババ・ドット・コム、オンラインマーケットのタオバオ、オンライン決済サービスのアリペイ、インターネットポータルのヤフー中国、クラウドコンピューティングのアリババ・クラウド・コンピューティングがある。

ソフトバンクの中国市場における展開

中核となるアリババグループ

アリババ・ドット・コムには、約4,500万件の企業が登録。「これは日本の全企業数の約420万件の10倍規模にあたる」(孫社長)という数だ。また、タオバオは、中国におけるオンラインマーケット取り扱い高の78%を占めており、すでに3兆円規模の取扱高に達しているという。掲載商品数は約4億件に達し、「日本の最大規模のオンラインマーケットである楽天の約4,800万件と比べても圧倒的な商品数になる」とする。ネックレスでは、楽天の5倍となる約200万件、本/雑誌/コミックでは約20倍となる約5,900万件、レディースファッションでは約30倍の約3,370万件にも達しているという。

また、アリペイは、2億7,000万人のユーザーを持ち、中国国内のクレジットカード発行枚数を超えており、その決算には、中国の名だたる銀行が名乗りをあげている。「中国工商銀行は、世界の上場銀行の時価総額ランキングで世界1位。ほかにも、世界で3位となる中国建設銀行、世界6位となる中国銀行と提携している」とするほか、「貸し倒れがない決済サービスの仕組みを提供していることも、高い評価を得ている理由」とする。

一方、OPIは、中国最大級のSNSである人人(レンレン)およびカイシンを運営。95%以上の大学生がほぼ実名で利用しているというネットワークサービスを提供している。

これらの投資先の利用者を合計すると、現在、ソフトバンクグループには、中国市場において、6億人を超えるユーザーがいるという。「トヨタ、ソニー、パナソニック、資生堂が中国に6億人のユーザーを持っているだろうか」- 孫社長は、中国で最大の顧客基盤を持っている日本の企業が、ソフトバンクであることを強調する。また、会見の端々には、アマゾンやグーグルの名前を出し、経営体質でソフトバンクが優れていることも強調してみせた。

もともと孫社長の経営手法は、タイムマシン経営と呼ばれ、米国のインターネットの成長にあわせて得た利益を、日本のインターネットの成長に投資。ここで得た利益を、今度は中国市場に投資するという形で事業を拡大してきた。日本でのソフトバンクグループの形成とともに、急速な勢いで中国におけるソフトバンクグループの基盤を構築している段階にある。

お得意の"タイムマシン経営"は中国市場でも通用するのか

孫社長は、かねてから、「ソフトバンクは、日本で3番目の携帯電話会社と見られているが、そうではなく、アジアナンバーワンのインターネット企業を目指している会社である」と語ってきた。アジアインターネットナンバーワンの企業を目指すソフトバンクは、中国での成功をバネに、世界ナンバーワンのインターネットカンパニーを目指す。その青写真は、だんだん我々の目にもわかるように、色づき始めてきたといえる。