身の丈など知らなくてよいのが若者

本サイトの運営母体である「毎日コミュニケーションズ」が若手社会人と2011年4月入社予定の学生に調査したところ、「出世したくない」という若者が48.1%に上り、「身の丈にあった自分なりの幸福を実現できればそれで満足を感じるため、出世意識も低くなっている」という結果を発表しています。20年近く続く不況が「希望を知らない世代」を生み出したことに同情しますが、しかし、私は敢えてこう言いたい。

「若者の"身の丈"は大きくなる」

身長の伸びが止まっても、体重は……もとい、精神的、社会的な成長に限りはありません。そもそも、出世などテレビゲームのRPGにおける「レベルアップ」にすぎず、いたずらに怖がることはありません。

出世を打診されたなら経験値が貯まったということで素直に従い、「失敗」したなら責任の半分は出世させた上司や会社にあると開き直るぐらいでちょうど良いのです。それに若手に想像できる"身の丈"などタカが知れており、反面、若い時の自分では想像もできなかった未来に辿り着くほうが多いでしょう。

「必ず泣ける映画」は出演者を見ただけで誰が死ぬかがわかりますが、人生という喜劇の「オチ」は想像できないものです。学生時代に反省文しか書いたことがない私が「マイコミジャーナル」で連載をしているように。

第一、起業すれば、その日から社長です。そして、"身の丈"を知らない0.2な社長はたくさんいます。

フランチャイズにはメリットがたくさん!?

F社長はレンタルビデオ、ビリヤード、漫画喫茶、雑貨リサイクルと、各種「FC(フランチャイズ)」店を経営しており、数年前には各店の粗利総額が1億円を超えました。FCと言えば「コンビニ」が有名ですが、宅配寿司に学習塾、クリーニング業など、さまざまな業態があります。

FCに加盟すると運営ノウハウが提供されるので、事業の迅速な立ち上げが実現できるのが魅力です。また、POSシステムなど常に最新の機能が提供され、日々の売上や在庫の管理、さらに財務管理、給与システムまでアドバイスしてくれます。

そのほかにも「認知度」と「スケールメリット」という利点があります。著名コンビニの看板を上げれば、客に店舗の説明は不要ですし、商品ごとに業者や問屋から仕入れるよりも「本部」が一括して仕入れたものを、グループの配送網で配達させるほうが便利です。

何より、すでにビジネスモデルがあることから商売の仕組みを学びやすく、商才があれば飛躍の足がかりにもできます。その代表例が、貸しレコード店のFCから東証一部に登り詰めたエイベックス(ホールディングス)でしょう。そして、意外と知られていないメリットが「トレンド」です。

トレンドの後にやってくる荒波

貸しレコード業はソフトを「買う」から「借りる」という「トレンド」を生み出し、日本全国に一気に広がりました。その後ビデオが主流になっても、ソフトを仕入れて貸し出すというビジネスモデルは同じです。コンビニの急成長もライフスタイルの多様化という「トレンド」が背中を押しました。

つまり、新しい「FC」には「トレンド」の種(シーズ)が眠っていることが少なくないのです。「レンタルビデオ」「ビリヤードブーム」「漫画喫茶」など、F社長の躍進はこうした「伸びるFC」に出店していたことによります。

長所と短所はコインの表と裏で、裏返せば反対の性質が表面化します。トレンドはブームという雨を降らせ、雨後に竹の子が育ち、竹林は飽和し過当競争から自らの首を絞めます。同業者の乱立により、売上は落ち込み、利益は削られます。各FC本部が提供するPOSシステムは在庫管理や顧客管理はしてくれますが、新規の客を連れてくる機能はありません。

困ったF社長はFC本部のアドバイスに従ってチラシを購入して配布しますが効果は薄く、同じくDMを郵送しても「転居先不明」で差し戻され、無駄金を重ねます。次に社員に命じてホームページを立ち上げ、ツイッターでつぶやきますが、復調の兆しすら見えません。

社長は職位に過ぎず、人間性を担保するものではありません。また、社長は実力を裏打ちする役職ではないのです。さらに「売上」と「経営力」はイコールではありません。

身の丈がわからない社長は喜劇のピエロ

1つのトレンドが終了すると「新しい風」が吹いていました。レンタルビデオの次は「ビリヤードブーム」。それが去ると漫画喫茶の波がやってきて、落ち込む前にエコと不景気が「リサイクル」を運んできました。

F社長はたまたま流行していたFCをチョイスしただけで、FCのノウハウとトレンドによる成功を自分の実力だと思い込んでいる「フランチャイズ0.2」です。粗利1億円も自分の実力だと疑いもせず、業績不振の理由は社員にあると考えます。「POSシステムを使いこなせていない」と説教をし、「ホームページのデザインが悪い」と嫌みを言います。

F社長はご自身の"身の丈"を知りません。ある種の「運」だけで経営してきたことに気づかず、酒席で社員を相手に「経営論」を語ります。これを今の若者に置き換えると、"身の丈"を 知っている社員が"身の丈"を知らない社長の説教に頷き続けるという喜劇の誕生です。

ちなみに、FCを提供する企業はボランティアではありません。「FC加盟店=フランチャイジー」から加盟金や店舗設営にかかる初期費用、売上から上納するマージンなど、いろいろな細目で利益を得る仕組みです。FCに興味がある方は、この構造の暗部に迫った書籍『セブン-イレブンの真実―鈴木敏文帝国の闇』の一読をオススメします。

エンタープライズ1.0への箴言


「自分の"勝因"を客観的に見るのは難しい」

宮脇 睦 (みやわき あつし)

プログラマーを振り出しにさまざまな社会経験を積んだ後、有限会社アズモードを設立。営業の現場を知る強みを生かし、Webとリアルビジネスの融合を目指した「営業戦略付きホームページ」を提供している。コラムニストとして精力的に活動し、「Web担当者Forum(インプレスビジネスメディア)」、「通販支援ブログ(スクロール360)」でも連載しているほか、漫画原作も手がける。著書に『Web2.0が殺すもの』『楽天市場がなくなる日』(ともに洋泉社)がある。

筆者ブログ「マスコミでは言えないこと<イザ!支社>」、ツイッターのアカウントは

@miyawakiatsushi