政治の混乱、迷走の歴史

民主党代表選の混乱を避けるため「トロイカ体制」の復活を鳩山前首相が提案し、菅直人現首相が受託したと報じられたのは2010年8月末のこと。ご存じのように内部抗争……もとい、代表選挙に突入し、菅直人さんが再選されたわけですが、与党になってまで「トロイカ」をあげる政治センスのなさに落胆しました。

トロイカはロシアの三頭立ての馬ぞりを語源とし、スターリンの死後、集団指導体制を目指すためにとられた布陣を指しますが、2年で瓦解してフルシチョフ独裁体制へと繋がりました。第一、ソ連という崩壊した国家体制を嬉々として語る姿に溜息が尽きなかったのです。

私が菅直人首相の立場なら古代ローマの「三頭政治」を引用したでしょう。元老員という「守旧派」と対立する形となった、カエサル(英語名:ジュリアス・シーザー)とボンペイウスに、金持ちのクラッススを加えた三人の共同統治を自らに重ねるのです。

まず、当時の最大の実力者ボンペイウスを小沢一郎に当て込み、金持ちのボンボンである鳩山前首相をクラッスス、そしてローマ市民の人気が高く「日の出の勢い」だったカエサルを自分に当てはめます。すると結論は「いわずもがな」で歴史が語ってくれるのです。欧米諸国に向けても印象が良いでしょう。

もっとも、「イラ菅」と呼ばれる菅直人さんを何より「寛容」を大切にしたカエサルにたとえたら、『ローマ人の物語』の著者である塩野七生さんは激怒するでしょうが。

幼稚園のホームページプロジェクトにおけるトロイカ体制

少子化が叫ばれて久しいなか、子供向けビジネスは活況を呈しています。塾にスイミングスクール、各種習いごとなど、少ない子供に多額の投資をする傾向から勝ち組と負け組の明暗はくっきりと分かれます。

E幼稚園は最近まで「勝ち組」でした。給食があり延長保育に対応し、土曜日も預かってくれると評判だったのです。ところが、近隣の幼稚園もサービスを拡充し、認可保育園の拡大なども手伝い、ジリジリと「客」を奪われている状態です。かつては兄弟も多く、また地域のコミュニティがあり卒園者などからの「クチコミ」だけで園児が集まったものですが、今は保護者に「勧誘」をお願いしてもなかなか集客できません。

そこで、ホームページで集客することにしました。一般論として、子供を客とする「業界」はIT化が遅れており、園児・卒園者情報をデータベース化して「顧客情報」を活用しようという発想はなく、いまだに「ホームページ」が最先端のITなのです。

幼稚園の応接室にホームページ制作業者が呼び出され、顔合わせが行われます。名刺交換の順は理事長、園長、保母から選ばれた担当者で「キーマン」を確認すると、この3人がホームページを担当するので、だれに連絡してもらっても大丈夫だと胸を張ります。そう、トロイカ体制です。

暗躍する権力闘争

制作業者は少し嬉しくなりました。いまだにホームページに「片手間」で取り組む企業が多いため、連絡しても「担当者不在」と言われることは珍しくありません。また、仕上がりの「確認」は後回しとなって店晒しにされ、おざなりなOKからしばらくして、業者が忘れた頃にクレームを言い出すことも少なくないからです。理事長、園長、現場の担当者と3人体制だから安心できると思った業者を誰が責められるでしょうか?

しかし、事件は起こります。きっかけは「おゆうぎ会」の写真でした。担当者から渡された写真をホームページに掲載したところ、理事長から差し替えるよう業者に直接指示がありました。更新すると園長から怒気を含んだ声で電話が入ります。「担当者が渡した写真こそ園長がセレクトしたものだから、元に戻せ」という指示です。私はこうした作業を「穴を掘って穴を埋める」と呼んでいるのですが、制作業者にとっては最も疲労感を伴う作業です。

検索エンジンに探されやすくするSEOを施すには、時に「美しい日本語」から外れることがあります。例えば、「あれ、それ、これ」といった指示語は対象の語句を使用するといった具合にです。このことを説明した時、理事長と園長は不在でしたが担当者は「お任せします」というのでSEO的な「作文」をすると、それぞれ時間差で理事長と園長から文章に対するクレームの電話が入ります。

独裁の結果は園長の追い出しとホームページの停止

後に聞いたところではE幼稚園のオーナーは理事長ですが、現場を仕切るのは園長で、園長がいなければ幼稚園の運営はできません。しかし理事長は「出資者」でカネがなくては園の運営はできないわけで、両者は「ウマ」が合わずたびたび反目していたというのです。

ホームページにしても互いの目の届かないところで勝手にやられることを嫌い、その結果出てきたのが、相互監視するための3人体制「トロイカ0.2」だったのです。ちなみに、担当者の保母さんは両者の権力闘争に巻き込まれた被害者です。

ことあるごとに理事長と園長から別々の指示が飛ぶことで、案件は「ベンディング」ばかりで、次第にホームページの更新は止まりました。噂によれば、園長の追い出しに成功したものの、理事長にビジョンはなく「集客」への対策は「無策」だといいます。まるでどこかの与党の経済対策のようで微苦笑してしまいます。

ローマ史を紐解けば、カエサルはローマ中興の祖で、その後200~300年ほどの繁栄の礎を築きました。一方、トロイカは30年で旧ソ連の崩壊へと繋がります。「歴史は繰り返す」という言葉から「トロイカ」を選んだとすれば、「日本は日本人だけのものではない」と言った鳩山由紀夫さんの「予言」が不気味に光ります。

エンタープライズ1.0への箴言


「船頭が多ければ船は登山を始める」

宮脇 睦 (みやわき あつし)

プログラマーを振り出しにさまざまな社会経験を積んだ後、有限会社アズモードを設立。営業の現場を知る強みを生かし、Webとリアルビジネスの融合を目指した「営業戦略付きホームページ」を提供している。コラムニストとして精力的に活動し、「Web担当者Forum(インプレスビジネスメディア)」、「通販支援ブログ(スクロール360)」でも連載しているほか、漫画原作も手がける。著書に『Web2.0が殺すもの』『楽天市場がなくなる日』(ともに洋泉社)がある。

筆者ブログ「マスコミでは言えないこと<イザ!支社>」、ツイッターのアカウントは

@miyawakiatsushi