あらためて問う、ホームページとはなんぞや

請われて人前でお話をすることがあります。その時「ホームページとはなんぞや」についてこう答えます。

「文化祭の模擬店じゃない」

模造紙に色とりどりのマーカーで店名やメニューを書き、紙コップに紙皿、クッションのない教室の椅子で客を迎える模擬店は、学生の文化祭ゆえに許されることです。仮に学生の模擬店のように紙コップしかなくとも、可能な限り美味しいコーヒーを提供し、お客様を満足させる接客に努めるのが「プロ」であり、一方の「模擬店レベル」とは素人特有の「甘え」や「甘さ」がにじみ出るホームページのことです。

企業ホームページは「商売」のためにあります。「利用から所有へ」、SaaSだ、エンタープライズ2.0だ、実態はともかく大騒ぎして盛り上げようとするIT業者の商魂のたくましさとはうらはらに、模擬店0.2系のホームページはまるで文化祭のような甘さが漂います。

商売は止まらない列車

模擬店0.2系のC社長の会社のホームページに

「サイト更新休止のお知らせ」

という一行が表示されてから何年が経ったでしょうか。このサイトが始まったのは2000年で、外部業者は使わず、社員だけで企画・運営されていました。店舗案内に企業ポリシー、商品紹介ページとベーシックなつくりで「フレーム構造」は今では歓迎されませんが、開設当時は広く使われていたものです。

発売日に商品説明、価格などがパッケージ写真とともに掲載された商品紹介ページは公開後間もなく「一覧表」となります。入れ替わりの激しい商材で更新が追いつかないための方針転換です。始めてから気づくこともあり、これは決して悪いことではありません。ところがまた方針は転換されます。一覧表ですら間に合わずに、「商品紹介」そのものがなかったことにされ「管理人コラム」が登場します。

自由なテーマの「コラム」なら、手の空いたときに執筆すればいいという目論見でしたが、回を追うごとに更新間隔が開き、目論見は9回で事実上破綻します。日々の仕事に追われているという「言い訳」をC社長は許し、管理人の退社により前述の「休止」となります。

カルト・オブ・アマチュア

リアルの「お店」に置き換えます。ショーケースに陳列されていた商品が撤去され、一覧表になります。すぐに一覧表がなくなり、管理人=店主のコラムが貼られるようになりました。その貼り紙が日焼けして茶色くなったころ、「休止」と張りだされます。この店で買い物しますか?

開設当初、C社長はプロ(制作業者)への発注を検討しましたが、退社した管理人の「ホームページは誰でも作れる」という主張を社員の自主性と評価し、採用したのです。「グーグルとウィキペディアとYouTubeに未来はあるのか?」で、アンドリュー・キーンはアメリカIT業界の底流にある思想を「アマチュア崇拝カルト」と喝破しました。断片的な成功例をつなぎあわせて、「素人」の優位性を説く偏狭性がカルト宗教に重なるといいます。模擬店0.2が生まれる背景に通じます。

訓練を積んだマスメディアと、素人の集いから草の根的に広まったインターネットという対立軸を単純にプロと素人に置き換えて援用し、むしろ素人のほうが向いていると論理をすり替える主張です。管理人がC社長を「説得」した理由もこれです。

管理人は誰(=素人)でも作れるといいましたが、素人による犬小屋作りを引用して「家を建てる」とすれば暴論ですし、「建物を建てる」ことと、建てた建物で「商売」をするのは別次元の話です。

素人は所詮素人

商売において「信用」は通貨以上の財産で、これは積み重ねることでしか得られません。「思いつき」や「気まぐれ」でコロコロと企画が変わるサイトを誰が信じるでしょうか。毎日新聞に連載されている「毎日かあさん」で人気を不動のものにした漫画家の西原理恵子さんは、作中で「商売は止まらない列車」と指摘します。昨日も今日も明日へと続くのが商売だということです。そして、プロの最低条件は「続ける」ことです。

Web2.0の定義のひとつにある「永遠のベータ版」は常に進化し、あえて完成させないのだと肯定的に使われるのですが、裏返せば「不完全」の告白であり、「甘さ」の許容も含んでおり、素人礼賛の下地となります。模擬店0.2系のホームページは甘えの産物です。「忙しかったので商品補充ができませんでした」「暇がないので掃除できません」という言い訳は、店頭では通用しません。商売用のホームページに客が訪れます。ネットはバーチャルな空間ですが、訪れる客の存在は「リアル」です。商品情報、一覧表、コラム、なにひとつ続かない「店」を信用する客はいません。

社員制作ページを否定しません。しかし、商売用のホームページに携わったなら、素人という「甘え」は捨てなければなりません。商売としてはじめた瞬間から「未熟なプロ」となるのですから。「甘え」を許したのはC社長の「甘さ」です。

最後にひとこと「コラムを舐めるな」。現在4本の連載を抱えている私の本音です。

エンタープラズ1.0への箴言


「ホームページに訪れるのはお客様。商売用に携わった時点で素人という甘えは厳禁」