ネットショッピングモールに直接注文すれば割引!?

私が裏技に始めて出会ったのは、駄菓子屋の軒先にあったアーケード型テレビゲームの「ドンキーコング」で、1段登った鉄骨の右端に片足を出してから画面の外に向かってジャンプすると、次の面へワープするというものでした。

裏技はバグと呼ばれるプログラム上のミスが発祥とされていますが、今では裏技はわざわざ設計・プログラミングされています。

裏技はすっかり一般用語となり、ゲームやプログラム以外でも使われるようになりました。テレビ番組「伊東家の食卓」では「生活の知恵」という意味で使われ、時には「ズル」の方便にもなります。

例えば、某ネットショッピングモールに出店する店舗に電話注文をすると、ネット価格より5%ほど安くなることがあります。これはモールのシステムを経由して販売すると手数料の負担が重く、5%値引きしたとしても電話注文で販売したほうが店は儲かるからです。

ここで、モール側が商売上の仁義を欠くと怒り心頭に発したとしても、「客が勝手に電話してきた」と主張されれば真実を突き止める術はありません。もっとも俗に「税」と呼ばれる手数料の導入には、ショッピングモールも「裏技」を使ったのですが。

今回は、Webマーケティングにおいて重要なSEOに関する「0.2」についてお話しましょう。

かつてはブログも裏技だった

インターネットの世界にも「裏技」はあふれています。「携帯電話 裏技」とGoogleで検索すれば、6月現在で127万件ヒットしますし、かつては、ブログもSEOの裏技として扱われていました。

その理由は、1つのエントリー(投稿)ごとに個別のアドレスを持つ「パーマネントリンク」とHTMLの知識がなくても投稿によってコンテンツを増やせるからです。しかし、ちょっとした知識があれば「日記型掲示板」のエントリーごとにアドレスをつけるのは簡単ですし、エントリーを増やすこともブログしかできないことではありません。

結論から言えば、裏技ではないことをITコンサルタントたちが大袈裟に騒いでいただけなのですが……。よくある「裏技0.2」です。そして、これを信じる人が後を絶たないのもよくある話です。

リフォームの設計施工、部品販売を営むM社長は、異業種交流会で知り合ったITコンサルタントの美味しい話に飛び付きました。不動産不況のあおりはリフォーム業にも押し寄せ、受注できても単価の下落が経営を圧迫します。以前ならチラシを巻けばとれた客が、10万枚配布しても見積りまで辿り着かないこともあります。

ホームページで集客できないのはSEOができていないから

「チラシの時代は終わった。今はホームページだ」とITコンサルタントは力説します。そこで、M社長が「しかし」と反論を試みたのはすでに5年前から開設していたホームページからの売上がまったくなかったからです。コンサルタントは余裕の笑みを浮かべ、一拍間を置いてから語り始めました。

「それは、SEOができていないからです。検索エンジンの上位に表示されるようにすれば客が来る。銀座の一等地と田舎の農道のどちらの人通りが多いですか?」

「なるほど」と唸ったM社長がその手法を尋ねると、ITコンサルタントは3社のSEO業者を紹介しました。A社は「完全成果報酬型」として指定したキーワードが上位5位以内に入った時だけ代金が発生し、B社は1ヵ月に多く検索されるキーワードを月に5万円でアドバイスすると言い、C社の説明にM社長は震えました。以下、コンサルタントの話。

「Googleやヤフーの内部情報に詳しく、順位決定のアルゴリズムを知る者がアドバイスして、10万円の料金です」

検索エンジンの仕組みがわかれば、上位に表示させることは簡単だということです。こんな「美味しい話」はありません。

Googleのアルゴリズムの価格が10万円で済むか?

そして、M社長はコンサルタントへの謝礼も含めて毎月30万円以上を支払い続けました。しかし、売上にはつながりません。それはそうです、裏技0.2なのですから。そして、この3社の手口を覚えておいてください。

まずA社、これは「詐欺的」として社会問題にもなっており、適当なキーワードを指定して「偶然」ランクインした時に請求書を出します。成果報酬をうたい、請求額が少ないことから「良心的」と錯覚するM社長のような「カモ」が後を絶たないのです。

次にGoogleの「アドワーズ」には「キーワードアドバイスツール」という無料の機能があり、キーワードを入力すると「関連語」と「月間検索数」が表示されます。このタダで入る情報をExcelにまとめて、「指導料」として毎月5万円の請求書を切っていたのがB社です。

最後のC社は都市伝説といってよいでしょう。Googleやヤフーの「アルゴリズム」を知っていれば確かに最強です。問題を事前に入手して挑むセンター試験や、攻略本片手に遊ぶロールプレイングゲームと同じです。

しかし、冷静になってください。あなたがGoogleやヤフーのアルゴリズムを知っていたとして、はたして10万円でアドバイスするでしょうか? 仮に内部情報の漏洩が事実とすれば、その価値は「億」を軽く超えます。美味しい話はそうそう転がっていません。

IT業界にはこんな裏技があることも覚えておくとよいでしょう。

「諸事情により予告なく契約内容を変更することがあります」

日進月歩のIT業界では技術革新によってビジネスモデルが急激に陳腐化することがあり、迅速な対応をするためにこうした文言を契約書に盛り込むのが一般的です。基本的には「ユーザーのため」に行うことですが、もちろん「利益のため」に書き換えたとしても契約上の齟齬はありません。かつて、出店料だけだったネットショッピングモールが手数料という税の徴収を始める際にもこの「裏技」が使われました。

エンタープライズ1.0への箴言


「美味しい裏技には相応の値段がつく」

宮脇 睦(みやわき あつし)
プログラマーを振り出しにさまざまな社会経験を積んだ後、有限会社アズモードを設立。営業の現場を知る強みを生かし、Webとリアルビジネスの融合を目指した「営業戦略付きホームページ」を提供している。コラムニストとして精力的に活動し、「Web担当者Forum(インプレスビジネスメディア)」、「通販支援ブログ(スクロール360)」でも連載しているほか、漫画原作も手がける。著書に『Web2.0が殺すもの』『楽天市場がなくなる日』(ともに洋泉社)がある。

筆者ブログ「マスコミでは言えないこと<イザ!支社>」、ツイッターのアカウントは

@miyawakiatsushi