成功を支える重要なファクターは時代

「チャンスの神様には前髪しかない」という西洋の格言があります。これは、「すれ違ってからつかもうと思っても後ろ髪がないからつかめない」、つまり、チャンスが巡ってきた瞬間につかまないと逃げてしまうという意味です。

貸しレコード店の小さなラック1列に映画のビデオを十数本並べ、1本1,000円で貸し出しを始めたところ、すべてが毎日「貸し出し中」となりあっという間に「レンタルビデオ店」に商売替えした経営者は、当時を「ビデオテープがお金に見えた」と振り返ります。

私の岳父は渋谷の繁華街・道玄坂で豆腐を売ってひと儲けしたと語ります。ただし、これは45年前の話。渋谷に「109」がない時代、新潟から上京してきた少年は豆腐売りで大卒並みの月給を取り、当時はまだ珍しかったテレビを実家に贈ったと言います。コンビニどころか冷蔵庫も珍しく、豆腐は「プーパー」とラッパを鳴らしてやってくる豆腐売りから買う時代だったのです。

レンタルビデオ店の成功は、映画は映画館で見るのが常識だと思われていた時代だからこそ巡ってきたチャンスです。昔の儲け話や成功例が「0.2」の呼び水となるのは「時代」が理由です。

今回は、時代とともに次々とトレンドが変わるWebマーケティングの「成功法則0.2」についてお話しましょう。

ブログ、SNS、ツイッターの後に行き着いた先は

セミナーの終了後、握手を求めて講師に近づくM社長は興奮していました。雑貨の仲卸の傍ら、手がけているネット通販に売上はほとんどありません。不況という暗雲も垂れ込めています。そこで、M社長は「時代はインターネット」と各種セミナーや勉強会に足を運び、起死回生の妙手を探していました。

初めに手をつけたのは「ブログ」でした。しかし、書くネタは3日で尽き、売上につながるどころかコメントすら寄せられません。しかも、メンテナンスを怠ると性的な誘い文句が踊る「コメント」や「トラックバック」で埋め尽くされ、ブログのイメージを損ないます。

次に取り組んだのは「SNS」。知り合いだけなら性的な誘いもなく、それなりに反響もあるという目論見ですが、リアルの人脈をネットに置き換えただけでは商売上の発展はありませんし、周囲は団塊の少し前の世代ばかりでネット利用者は少なく盛り上がりません。

ツイッターにも手を出しましたが、始めて半年。何が面白いのかいまだに理解できません。そんな時に見つけたのが今回のセミナー「最強のメールマガジンマーケティング」だったのです。

1億円を達成した秘策が明らかに!?

実績に震えました。目の前の講師様は1億円の売上を達成したというのです。「売上が10万円を超えない自社サイトは一体何なんだ!」と怒りにも似た感情が芽生えます。セミナーが始まると不甲斐なさから恥ずかしさに転じ、次第に希望のつぼみが膨らみ始めました。

なぜなら、講師様も「月商10万円」からスタートしたというからです。情報バラエティ番組から火がついた健康グッズを偶然取り扱っていたことがきっかけとなり、倍々ゲームで売上が伸び、ついには1億円を達成したと言います。このサクセスストーリーを支えたのは「メールマガジン」。いまでは20万人を超える会員が売上のベースを作っていると胸を張ります。

セミナーでは読者のセグメント化、タイトルの付け方、効果的な号外発行など、メルマガに関するノウハウが次々と語られ、M社長はいちいち「もっとも」とばかりに頷き、すっかり心酔しました。

ツイッターの隆盛に湧き立つネット業界でメルマガは今さらという印象もありますが、商売の現場ではまだまだメルマガは有効で、マイコミジャーナルもメルマガを発行しています。そして、マイコミジャーナルのメルマガに私の名前を見つけた旧友が連絡を寄越すなど、その精読率は捨てたモノではありません。

成功要因としてもっとも肝心なことが抜けている

しかし、この成功法則は0.2です。

かつてブログが普及する前、特別な情報の入手先はメルマガでした。そのため、ネット利用者にとって「メルマガ登録」は日常的な作業であり、心理的ハードルは低いものでした。また、企業も顧客を囲い込むためのツールとしてメルマガを活用していました。この講師が利用している某ショッピングモールも、昔は入手したメールアドレスを自由に販促に使えたのです。しかし「時代」がすべてをひっくり返しました。

検索エンジンの発達とブログの普及によって、情報収集にメルマガを登録する必然性は薄れたのです。ショッピングモールは個人情報保護法を理由にメルアドの利用を制限しています。こうした背景から、今、20万人のメルマガ会員を集めることは困難であり、この膨大な会員数を前提として語られる成功法則は役立たず。時代という最も大切な成功要因を抜きにして語られる「成功法則0.2」というわけです。

リアルに置き換えればわかります。今、道玄坂で豆腐を売って儲かるわけはなく、1本1,000円のレンタルビデオなど借りる人はおらず、DVD、いやブルーレイのレンタルだとしても高すぎると突っ込まれることでしょう。

実は、M社長がメルマガに震えた理由は正反対の意味での「時代」です。彼がネット参戦したのはブログブームがピークに達してからで、そのときすでにピークアウトしていたメルマガを知らなかったのです。

エンタープライズ1.0への箴言


「最も肝心な成功法則は"時代"」

宮脇 睦(みやわき あつし)
プログラマーを振り出しにさまざまな社会経験を積んだ後、有限会社アズモードを設立。営業の現場を知る強みを生かし、Webとリアルビジネスの融合を目指した「営業戦略付きホームページ」を提供している。コラムニストとして精力的に活動し、「Web担当者Forum(インプレスビジネスメディア)」、「通販支援ブログ(スクロール360)」でも連載しているほか、漫画原作も手がける。著書に『Web2.0が殺すもの』『楽天市場がなくなる日』(ともに洋泉社)がある。

筆者ブログ「マスコミでは言えないこと<イザ!支社>」、ツイッターのアカウントは

@miyawakiatsushi