シーザーの時代から続く「世代間闘争」

週刊ポスト4月23日号の「ツイッターを疑え」という特集で私のインタビュー記事が掲載されました。礼賛一色のツイッターに関する報道に疑問符を投げかけるものでしたが、「ツイッター否定」だと批判の嵐が吹き荒れました、ツイッターの中で。

「既存メディアvs.ネット(ソーシャルメディア)」、あるいは週刊ポストを「オジサン側」に置いての「世代間闘争」という対立軸で語られていました。前者は既存メディアの偏向報道を攻撃材料とするのですが、同じことはネットでも行われている事実を知っているだけに苦笑してしまいます。一方、世代間闘争派の主張には頬を緩めました。それは、古代ローマから続く人類のテーマだからです。

「近頃の若い者は」というお馴染みの苦言は古代ローマ時代から語られており、ローマ帝国中興の祖・カエサル(英語ではジュリアス・シーザー)は俗に言う「改革派」で、敵対する「守旧派」の家庭に生まれ育った若者が「カエサル派」となって家族内世代間闘争を引き起こしたことは史実として記録されています。

古代ローマ帝国とツイッター。2000年以上の時を経ても人類は同じ場所をぐるぐると廻っているのかも知れません。今回は、世代とデジタルデバイドにまつわる0.2についてお話ししましょう。

IT時代の会計事務所を救うのはネットか?

コンピュータの発展とインターネットの普及は仕事のやり方を大きく変えました。そして、積極的に取り組む人間と拒む人間の間に生まれた断層は「デジタルデバイド」と呼ばれ、対立の一因となっています。

Tさんの営む会計事務所は毎月の顧問契約料という定期収入に加え、決算時の書類作成料というボーナスによる収益構造で安定経営を実現していました。しかし、時代とデジタルがビジネスモデルを破壊します。

不況が顧問先を倒産させ、経営者の高齢化により廃業が相次ぎ、売上は右肩下がりとなったのです。そこに、追い打ちをかけたのがデジタルです。汎用PCと市販の会計ソフトの組み合わせが、会計士の仕事を奪っていきました。さらに、インターネットの普及が追い打ちをかけます。決算書類の作成のみを格安で請け負う「ネット会計士」が登場し、商売敵は日本全国に広がりました。

それでも、Tさんが創業以来30年続けた営業スタイルを変えることができずにいると、息子のAくんが「ネットの活用」を提案します。

ネットに否定的なオヤジさんvs.ネットオタクの息子

専門学校卒業後、家業を手伝い始めたAくんは10年のキャリアを誇る「ネットオタク」で、ネットの可能性を心から信じています。これからの会計士は顧問契約のように束縛する形態ではなく、必要な時にネットを介した「ゆるいつながり」の時代となるというのです。Tさんは「商売にならない」と反対しましたが、Aくんは押し切るように「ネット戦略」を開始します。

彼のネット戦略とはこうです。ツイッターを活用し、つぶやかれた会計相談に答えていくことで信頼を勝ち取り、将来的な売上を見込みます。また、会計の専門知識をブログにアップしてより踏み込んだ内容はメルマガで配信します。さらに、オフ会にも積極的に顔を出しネットでの関係を「リアルな人脈」に置き換えることも忘れません。

「時代が変わったことを社長(Tさん)は理解しない」

Aくんはオフ会でこの台詞を繰り返します。時代の最先端にキャッチアップしている自負があり、ブログやメルマガの執筆に加えて、ツイッターの交流で深夜まで働く自分への賛辞でもあります。オフ会参加者もネットでの出会いを受け入れらない「旧世代」との「世代間闘争」という文脈で解釈し、Aくんを励まします。

ネット戦略もビジネスの基本ができてこそ有効

ネット戦略が始まって以来、Tさんの眉間のシワは深くなる一方でした。Tさんは電子メールの受信も怪しい非デジタル人間で、ネットはすべてAくんが担当していました。そこに「メールした者ですが」と電話が入りますが、Aくんはいません。そして、メールを見ていないTさんは意味がわからず、電話の主は「事務所」の対応の悪さに怒り、やり取りをブログに晒します。

ここでAくんの側に立つならば、「メールぐらいTさんが見ればいいのに」となるかもしれませんが、この時、Aくんは寝ていました。Aくんは毎夜ネットに張り付き、オフ会で深酒して遅刻を繰り返していたのです。また、メールでの問い合わせに対する回答も、文章で説明するのが面倒だったことから後回しにしており、回答のこない相談者が電話をかけてきていたのです。社会人および商売人としての基本ができていないネット戦略など、デジタルデバイド以前の0.2です。

  • ネットはオジサンには理解できない
  • ネットは正しく、リアルは歪められている
  • リアルと違い、ネットはフラット(平等)だ

はたしてそうでしょうか? 「対立軸」は事実を単純化し、思考停止を誘発します。50才を超えてもネットユートピアを語る楽天的なオジサン。広告主を「友達」と表記して宣伝を繰り返す著名ブロガー。信者を集めてヒエラルキー(社会的階層)の頂点に君臨しているジャーナリスト。単純な線引きで本質を見失わないようご注意を。Tさんのケースは「デジタルデバイド」や「世代間格差」ではなく「しつけ」の話です。

ちなみに改革派のカエサルに、守旧派の息子達が心酔した理由の1つを塩野七生さんは『ローマ人の物語』の中で、ガリア戦役での連戦連勝する姿に心躍らせたことと記しています。「ヒーロー」への憧憬ならば、21世紀の今と同じです。

エンタープライズ1.0への箴言


「対立軸というアプローチは思考停止ボタン」

宮脇 睦(みやわき あつし)
プログラマーを振り出しにさまざまな社会経験を積んだ後、有限会社アズモードを設立。営業の現場を知る強みを生かし、Webとリアルビジネスの融合を目指した「営業戦略付きホームページ」を提供している。コラムニストとして精力的に活動し、「Web担当者Forum(インプレスビジネスメディア)」、「通販支援ブログ(スクロール360)」でも連載しているほか、漫画原作も手がける。著書に『Web2.0が殺すもの』『楽天市場がなくなる日』(ともに洋泉社)がある。

筆者ブログ「マスコミでは言えないこと<イザ!支社>」、ツイッターのアカウントは

@miyawakiatsushi