ツイッターの次に来るものは?
3月第2週のサイトアクセスシェアで、世界最大手のSNS「フェイスブック」がこれまた世界最大手の検索サイト「グーグル」を抜いて首位になったと、インターネット調査会社ヒットワイズが発表しました。 SNSとは人と人がつながる「交流」を目的としたネットサービスで、日本では「ミクシィ」や「グリー」が有名です。
総花的に情報を網羅したヤフーなどの「ポータル(サイト)」から、必要な情報だけを得るグーグルの「検索」へとインターネットの「玉座」は移り、今度はSNSによる「交流」が次のトレンドだと喧伝するIT業界人が現れるのではないでしょうか? 何かと話題の「ツイッター」も見知らぬ人や著名人との「絡み」と呼ばれる交流が大きな魅力です。
しかし、そもそもインターネットの特徴である「リンク」もつながることで、ブログの「コメント」や「トラックバック」も交流のための仕掛けで、SNSやツイッターはそれを手軽にしたツールにすぎません。つまり、インターネットにおける「交流」とは、カラスが空を飛んでいるぐらい当たり前の話です。
今回は、そんなSNSにまつわる0.2についてお話しましょう。
包装紙だけを替えただけで中身は変わらぬSNS
実のところ、数年前にもSNSブームはありました。ミクシィやグリーの成功を受けてのことですが、ホームページ屋が一斉に売り込み始めたことも理由です。多くのSNSには基本ソフトがあり、デザインや設定を変えるだけで「オリジナル商品」として売ることができます。
これは、語弊を怖れずに言えば、ディスカウントショップで買ってきた商品を三越の包装紙でくるむようなものです。地方自治体のA市もSNSの積極的なプレゼンをホームページ制作業者から受けていました。
総務省による東京都千代田区の地域SNSの実証実験の事例を交えて語られるプレゼンに、自治体の産業振興課兼Web担当者のK課長は心を揺れました。A市には中小零細企業が多く、経営層の高齢化も進んでいます。域内経済を活性化するには、各企業の連携は不可欠ですが、「お山の大将」である企業経営者をまとめることにいつも苦労します。
また、市民数60万人を超える都心のベッドタウンであるA市は地域活動と距離を置きがちな「夜間人口」が多く、町内会や消防団活動にも影響がでていると現場からの報告が相次ぎます。
業者はSNSがこれらすべてを解決すると胸を張るのです。
SNSは本当に自己増殖できるのか?
「会社のPCから地域SNSを利用し、地元企業とのコラボレーションも可能」
つまり、「時間と空間をSNSがつなげることで新たなコミュニティが生まれ、地域経済の活性化を助ける」と業者は言うのです。夢のような話にK課長はすっかりのめり込みました。「A市SNS」を実現するために奔走中、知人を介して筆者のところに相談にやってきました。
一とおり話を聞いてから、筆者は質問しました。
「SNSの管理は誰がしますか?」
その時のK課長の顔は正に鳩が豆鉄砲を喰らったようでした。そして、「SNSは参加者による自由な活動から勝手に発展していくものだから、管理者はいらない」と業者のセールストークのままに反論します。理想的にはそうだと同意した上で、ある「異業種交流会SNS」の話をしました。
こちらもK課長の目論見と同じく、業種で異なる活動時間や環境をネットでつなぎ、会員企業の相互交流による発展を目指しました。
最初は「これからよろしく」的な挨拶で、参加企業の多くがSNSに集いました。しかし、次第にリアルの多忙さに追われSNS利用者は減り、発言者は限られ、内容は次回の飲み会……もとい定例会の告知と終了後のお礼だけが繰り返され、回覧板に成り下がりました。
SNSの浸透を左右するネットリテラシー
そこで、筆者はA市が公金を使って運営する地域SNSを回覧板にしないために、管理人の存在が不可欠だとつなげます。活発な議論を促す「廻し役」が必要だということです。
またA市主催となれば、SNS内でのトラブル解決を役所に持ち込まれる可能性もあり、さらに企業経営者という「お山の大将」がネットだからと「我(ガ)」を抑えると期待するのは甘い幻想です。
そして、リアルでの「取引関係」や先輩後輩・年齢といった「上下関係」が持ち込まれることもあるでしょう。これらを調整しながら活発な議論へと導く「管理」が必要なのです。
また、ミクシィやグリーのように利用者が増えていけば、自発的な議論やコミュニティが生まれて廻し役は不用になります。しかし、利用者の増加は違反投稿などのスパムを呼び込み、これらを監視する「管理人」の仕事は増え続けます。
こうしたことが役所の仕事の合間にできる職員がいるでしょうか? あるいは、専門職を設置するとしても、「お役所仕事」は身内に対しても適用され、専門職新設の壁は高く、何よりも面倒です。
さらに、オフィス街の千代田区は一定のネットリテラシーがある地域と推測できますが、一方のA市は電子メールさえ怪しい経営者が少なくないであろうと、K課長に確認するとうなだれるように頷きます。システムを設置しただけでは「0.2」なSNSが生まれるだけなのです。
ツイッターの認知率は70.2%(富士通総研調べ)
しかしこの数字はあくまでもインターネット調査の結果であり、いわば、国技館の前で「豪栄道(境川部屋)」の認知度を調査したようなものです。同調査でも利用者となると8.2%にすぎません。またフェイスブックの首位にしても、ひとたび大事件が起きれば、情報を求めネットで検索をする人が増えることでしょう。
IT業界は当たり前のことを大騒ぎして、大切なことを告げない傾向があるのでご注意ください。
エンタープライズ1.0への箴言
「リアルで難しいことはネットでも同じ」
宮脇 睦(みやわき あつし)
プログラマーを振り出しにさまざまな社会経験を積んだ後、有限会社アズモードを設立。営業の現場を知る強みを生かし、Webとリアルビジネスの融合を目指した「営業戦略付きホームページ」を提供している。コラムニストとして精力的に活動し、「Web担当者Forum(インプレスビジネスメディア)」、「通販支援ブログ(スクロール360)」でも連載しているほか、漫画原作も手がける。著書に『Web2.0が殺すもの』『楽天市場がなくなる日』(ともに洋泉社)がある。
筆者ブログ「マスコミでは言えないこと<イザ!支社>」、ツイッターのアカウントは