あんただけには言われたくない
鳩山首相は年初の衆参両院の本会議で行った就任後初の施政方針演説で「労働なき富」を罪としました。これはインド独立運動指導者、マハトマ・ガンジーの言葉からの引用ですが、実母から多額の「子供手当」や、ブリヂストンの創業者である祖父から贈与された株券とその配当から不労所得を得ていた鳩山首相にだけは言われたくはありません。
もちろん、人は完璧ではなく、時に言葉と行動にズレが生じることもあります。データを保存せずに電源を落として1時間の作業が無駄になったと嘆く同僚を笑った刹那、自分のPCがフリーズしてその日の作業がすべて消えたりするようにです。「医者の不養生」という諺も同じです。
国会議員や医者を「先生」と呼びますが、同じく「先生」と呼ばれる教員はどうかというと、「宿題をしなさい」「忘れ物はしない」「決まったルールは守る」と生徒に指導する言葉を自らは守りません。今回のテーマは社長ではなく「先生0.2」です。
待ちぼうけを悪びれもせず
ホームページ制作業のAさんは近所の小学校のホームページをボランティアで手伝うことになりました。故小渕首相が立ち上げた「e-Japan構想」から、公立学校ではホームページの開設が暗に義務付けられていたのですが、ノウハウを持った教師はあまりいません。よって、教頭が地元の顔役である名士に相談し、そこから「お願い」されたというわけです。
Aさんの事務所から小学校まで徒歩1分であり、「いつでも来てください」と教頭に言われていました。とはいえ、ビジネスマナーとして電話で日時を約束してから訪問します。
ある日のこと、約束の日時の職員室に誰もいません。ホームページの担当教師は2人いるとのことでしたが、1人は授業中で、1人は行方不明。2人が揃ったのは約束の時刻の1時間後で、行方不明だった教師はクラブ活動の指導中だったと口を尖らせ不満を隠そうともしません。
先生も忙しいのだろうとAさんは前向きにとらえて、打ち合わせを始めました。技術的な確認を行い、毎月発行される「学校通信」と季節のイベントを掲載することとなり、資料を求めたところすぐには用意できないというので「宿題」として日を改めました。
「まだマシ」という表現が正しいのかはわかりませんが、次回の訪問で2人が揃ったのはAさんが職員室に到着してから40分後です。しかし、宿題は用意できていませんでした。
世界で一番忙しいのは自分
これが何度か繰り返されます。事前連絡の上、訪問しても最低10分待たされることにほとほと嫌気がさしたAさんは「作り方をレクチャーしますので先生方で更新されてはどうでしょう?」と提案しました。
基本を作っておけば、手を加える部分は僅かになり、その都度フォローすると続けます。すると、担当の1人が片方の口の端を持ち上げた微笑を浮かべてこう言いました。
「忙しくてそんな時間ありません」
覚える時間も作業時間もないということですが、Aさんだって暇で手伝っているのではありません。またAさんに子供はおらず、この小学校の卒業生でもありません。しかし、子供達がホームページに親しむきっかけになればという気持ちから、忙しいなか、時間を割いて手伝っていたのです。
言葉尻をとらえて抗議するのも大人げないと思い、今後の資料提出は電子メールでお願いすることにしました。徒歩1分の距離ですが、無為に待たされることが多く、この時間さえなくなれば、ホームページの制作・更新というボランティア自体は継続できるという目論見です。
そして電子メールが届いたのは、1年以上経った春でした。メールには「担当が変わりましたのでよろしくお願いします」 とありました。
おまえなんかもういらない
月初に発行される「学校通信」が月末に届くことも珍しくなく、届くのはいつも連休前や週末の夕方から夜にかけてです。翌週の予定を立てた後に届く「更新依頼」に閉口しましたが、先生も忙しいのだろうと予定を組み直します。それが2年続いたある週末に届いたメールにこうあります。
「期間限定でPCの指導員が来ることになり、そちらでホームページの作り方を教わることになりました。期間終了後はまたお願いするかもしれませんが、自分たちで更新はできるものでしょうか?」
原文はもっと支離滅裂な長文でしたが、メールの主旨を整理すると以下の3点。
- ホームページの更新が自分たちでできるものかどうか回答しろ
- PC指導員に教わるのでAさんは不要
- PC指導員の任期が終了したらまたお願いするかもしれない
多年にわたってボランティアをしてきたAさんへの「敬意」はそこにありません。先生の都合だけで構成されたメールです。
宿題、忘れ物、ルール、そして「感謝」とは、日頃、先生が生徒に教えているはずのものです。ところが、自分達はそれらをあっさりと無視する「先生0.2」です。特殊なケースと思いたいところですが、「学習熱心で生徒指導が行き届いている」と、自治体の中でも評判の小学校での出来事です。
Aさんはボランティア活動を辞退しました。最後のメールで担当教師と教頭の連名で「お世話になったので近々お礼に伺う」とありましたが、1ヵ月経っても徒歩1分の事務所に訪れる人は誰もいません。
エンタープライズ1.0への箴言
「ボランティアは便利な道具ではない」
宮脇 睦(みやわき あつし)
プログラマーを振り出しにさまざまな社会経験を積んだ後、有限会社アズモードを設立。営業の現場を知る強みを生かし、Webとリアルビジネスの融合を目指した「営業戦略付きホームページ」を提供している。コラムニストとして精力的に活動し、「Web担当者Forum(インプレスビジネスメディア)」、「通販支援ブログ(スクロール360)」でも連載しているほか、漫画原作も手がける。著書に『Web2.0が殺すもの』『楽天市場がなくなる日』(ともに洋泉社)がある。
筆者ブログ「マスコミでは言えないこと<イザ!支社>」、ツイッターのアカウントは