政治はやっぱり儲かる商売だった!

不正な企業献金の噂と不透明な資金の流れが注目されたいわゆる「陸山会事件」で、小沢一郎さんは不起訴処分となりました。つまり「怪しい金」は見つからなかったということです。疑惑はさておき「政治って儲かるんだ」というのが一市民としての率直な感想。

遺産を相続したという主張も、小沢さんの御尊父は政治家であるためその主張は「蓄財」の暴露と同義です。さらに、小沢さんの代で受け取った「真っ当な」企業献金だったとしても、購入した不動産の名義はご本人。つまり「小沢家」の資産です。政治活動を応援するために企業が支払った「浄財」が「私財」に化けます。

政党助成金が私財に化けたという「噂」を打ち消すのが困難であるのは、議員歳費(給料+文書通信交通滞在費で月額約230万円)を1円も使わずに全額貯めても、報道された4億円の土地代を貯めるには約15年かかるからです。

ちなみに、政治活動のために政党に支給される「政党助成金」は税金ですが、党がなくなれば「返還義務」はなく違法ではないようです。

政治家とは公の金で私財を増やせる珍しい商売かもしれません。 「世襲」が多い理由もここにあるのでしょうか。

左遷されど、消えぬジャーナリスト魂

T編集長は元夕刊紙の記者でした。政治家や企業の不正に厳しく目を光らせ、昭和史に残るスクープを上げたこともあるのが自慢です。テレビの普及とともに活字離れが進んで新聞の購読者は減りました。そこにインターネットの普及が追い打ちをかけ、結局、T編集長は支局の統廃合に伴う「リストラ」で広告営業部署へ配置転換させられました。

T編集長は記者一筋。20年を超える記者人生に誇りを持ち、夜討ち朝駆け、権力者にも物怖じせずに取材しますが、一方、お世辞や頭を下げるのが苦手です。つまり、営業職には不向き。部内で孤立していた時に取材を通じて知り合った地方自治体の役人から電話がかかってきました。

「編集長になってください」

市民のニーズに合った広報誌を発行するにあたり、「プロ」を求めていると口説きます。プロと呼ばれて悪い気はしません。しかし、「お上のご機嫌伺いのような記事を書くことはジャーナリスト魂が許さない」と断ると、いわゆる「お役所仕事」を避けるために、自治体が出資して広報誌発行の外郭団体を立ち上げ、役所から独立した組織で発行するので、経営と編集はすべてT編集長に任せるといいます。

人のふんどしで相撲を取る息子の事業プラン

T編集長はまもなく辞表を提出し、発刊準備にかかりました。編集には最新のDTP機器を使うのですが、T編集長はワープロ操作も苦手です。新聞社時代は原稿用紙に手書きでした。PCに詳しい息子の伝手を頼りにスタッフを集めました。

半年の準備期間を経て発行された広報誌は、さすが「プロ」が作ったという充実した誌面で市民の評判も上々です。軌道に乗った頃、息子が編集部に訊ねてきておもむろに切り出します。

「ここ(編集部)、貸してくれない?」

スタッフが帰った夜の時間を利用して、編集部でPC教室を開きたいというのです。息子の事業プランはこうです。

「場所とPCを借りれば初期投資はゼロ。生徒が集まればまるまる利益」

T編集長はつぶやきます。「たくましくなった」。大学を卒業しても職を転々としていた息子は、2年ほど前に趣味のパソコンを活かしてホームページ制作をはじめていました。しかし、妻からは上手くいっていないと聞いています。同居していたので衣食住の心配はありませんが、一人息子の将来を案じていたところで、目を細めて息子のチャレンジを応援します。

形式犯も立派な犯罪

結論を述べれば、1年と持たずにPC教室は閉鎖しました。生徒が集まらなかったのです。商売で最も難しいのは集客であることを、息子はもとより営業が苦手なT編集長も知らなかったのです。

問題を整理します。外郭団体の出資者は地方自治体で、編集部の家賃もDTP機材の購入原資も「税金」です。仮に空き時間であっても特定の個人を優遇する行為は、厳密には「利益供与」です。これこそ、記者時代にT編集長が執念を燃やした「不正」の構図ですが、T編集長はこう主張します。

「これからの若者を応援することの何が悪い」

詭弁です。若者ではなく、我が子だから応援しているのです。子を思う親心が目を曇らせた公私混同0.2です。

不動産購入に対して、小沢一郎さんは「家賃を払うのと同じだ」と主張しますが、問題は税金も含めた「政治資金」が私財に化けることです。同じくT編集長の息子のPC教室が成功していれば、自治体の金で揃えた環境によって「T家」の資産が増えたことになります。広報誌に息子のPC教室の「提灯記事」を書かなかったことだけは、T編集長の記者魂と言えますが。

民主党のマニフェストにあったように、2万6,000円の子供手当をまるまる貯金すると年間31万2,000円、15才までに499万2,000円の蓄財が可能です。民主党の少子化対策であり将来の「納税者」を増やすためという説明に一定の理解はできるのですが、子供手当が「自家製子供手当」という不労所得を受け取っていた鳩山首相と、税金を私財に替えているという疑念が残る小沢さんの「コラボレーショ ン」にみえるのは私だけでしょうか。

エンタープライズ1.0への箴言


「公と私を曖昧にすると脱法することがあるので注意」

宮脇 睦(みやわき あつし)
プログラマーを振り出しにさまざまな社会経験を積んだ後、有限会社アズモードを設立。営業の現場を知る強みを生かし、Webとリアルビジネスの融合を目指した「営業戦略付きホームページ」を提供している。コラムニストとして精力的に活動し、「Web担当者Forum(インプレスビジネスメディア)」、「通販支援ブログ(スクロール360)」でも連載しているほか、漫画原作も手がける。著書に『Web2.0が殺すもの』『楽天市場がなくなる日』(ともに洋泉社)がある。

筆者ブログ「マスコミでは言えないこと<イザ!支社>」、ツイッターのアカウントは

@miyawakiatsushi