倒産直前までテレビCM

2009年4月に、埼玉県川口市のアーバンエステートというハウスメーカーが自己破産しました。手付け金などで前払いしたものの、「未着工」の物件が多く社会問題となっております。倒産直前までテレビCMを流していたことも被害を広げた理由です。また、ロボットが越中「おわら風の盆」を踊るCMを放映していた富山県富山市の「生産技術」もこの夏、民事再生手続きを申請しました。

IP電話の「近未来通信」も破綻直前までテレビCM、さらに新聞、雑誌に広告をだしていました。特に新聞や雑誌の広告では、IP電話の中継局となる「サーバ」へ「出資」すれば高利の「配当」が手にはいると謳っており、これが出資金を狙った「詐欺」ではないかと見られているのです。

結論だけ見ればよくある「出資金詐欺」となりますが、日本を代表するクオリティペーパーと自認する経済新聞に頻繁に掲載されていれば、信用するなというほうが無理な話です。

華麗なる大活躍

Web制作会社のK社長は、頻繁にマスコミに登場していることを自社のホームページで自慢します。その露出は新聞、雑誌、ラジオ、テレビと全てをカバーしています。

雑誌は何誌にも取り上げられ、優れた起業家を紹介すると銘打つサイトのインタビューまで受けています。テレビに至ってはひとりの人物を丁寧に掘り下げる、バイオリンのテーマソングが印象的なあの番組に出演するとブログで告知していました。

その活躍はまさに「八面六臂」と呼ぶに相応しいでしょう。地域ポータルサイトの開設に始まり、業界特化型SNSのサービスイン、地域SNSの導入実績、独自のブログサービスの開発、さらに地域特産品のおみやげ物やアイデアグッズを販売しており、そのほとんどがマスコミで紹介されたとあります。

取引先に目を移すと、活躍がより輝きを増して見えます。一流出版社、一流ラジオ局、一流新聞巨大流通チェーンと目白押しです。まさしく「順風満帆」。ところがK社長はこの秋、Web事業から撤退し、新規事業を立ち上げ、すべてのエネルギーを注ぐと語り、前述のインタビューをこう締めくくります。

「挑戦を諦めない生き方しかできないんです」

惚れてまうやろー、とお笑いコンビ「Wエンジン」のネタが口をついてでそうですが、これが本当なら「エンタープライズ0.2」で紹介するワケがありません。

VISAカードで支払ったのかしら

多かれ少なかれ、自分を大きくみせようとすることを否定する者ではありません。自己宣伝は商売人の基本スキルです。しかし、大きくみせることにばかり執着して、本業が迷走したPR 0.2がK社長です。

マスコミ歴のカラクリはこうです。新聞露出は「企画広告」というもので、これは広告代理店がスポンサーを集めて「読み物」風にする企画で、紙面での扱いは「広告」です。

雑誌は「記事広告」と呼ばれるもので、タレントや元スポーツ選手、経済評論家が企業を訪問し「インタビュー」をしている体裁の記事に仕立てます。どちらも広告ですから有料です。

枠外に「広告」あるいは「PR」とあるので簡単に見分けがつきます。Webの取材も同様です。実は「生き方」を語っていたサイトを運営しているのは記事広告を出稿した雑誌社で、挑戦する生き方は金で買った広告枠での発言です。

続けていきます。ラジオ。これはリスナー応募型の「企業訪問コーナー」への出演で、懸賞に応募して当たったぐらいのラッキーな出来事で、企業の実力とは無関係です。

最後にテレビは「知り合いの知り合い」が取材を受けたついでに、その他大勢としてチラッと映っただけのことでした。

新田恵利さんでも・・・ねぇ

取引先についても同様です。雑誌の企画でパートの調査員を募集し、これに採用されただけなのに、主要取引先に出版社の名前が掲載されます。大手流通チェーンも「地域活性化」を謳った地元商店街のイベントで支店に協賛させたもので、窓口はK社長でしたが会社としての取引すらありません。

そしてWeb事業の撤退は、息詰まったことが理由です。ホームページ上では躍進を語っていますが、その売り上げの大半は同業者から恵まれる「下請け仕事」で、不況により単価を叩かれ事業継続が厳しくなってのことで、事実は「撤退」です。PRに捧げる情熱の半分でも本業に注ぎ込めばと呟いてしまいます。

メディア露出は経営の健全性の担保にはなりません。経営の危機にも広告を止めない企業は少なくありません。それは一発逆転への夢想と、自社名がメディアに流通することで満たされる経営者の「自己顕示欲」によります。そして崩れていく足下を見て見ぬふりをします。

数年前、私の事務所に電話がかかってきました。

「新田恵利さんで5万円」

御社にお伺いして、新田さんと30分ほど対談して欲しいと。つまりは記事広告の誘いです。私はバリバリの「オニャン子世代」。しかし、惜しむらくは私は「新田派」ではなかったのでお断りしました。

エンタープライズ1.0への箴言


「中身が伴わないマスコミ露出は意味がない」