成長しない勉強法

親の小言と冷や酒は後でキクといいますが、まったくもってその通りで、「勉強しろ」と叱られた意味を社会に出て知りました。プログラマとなった私に手渡されたのは英文の解説書。20年前にインターネットはなく、日本語の解説書もあまり多くありませんでした。落第寸前の英語の成績に、「日本人に英語は不用」とうそぶいていた学生時代のツケをまとめて支払うこととなったのです。関係代名詞を理解したのは、社会人2年目の冬でした。喉元過ぎても熱さを忘れるなともいわれましたが、「勉強」は今でも苦手です。

勉強好きな社長は多いものです。セミナーや勉強会に足繁く通う姿に「さすが」と言いたくもなるのですが、勉強が業績にリンクしないのは「エンタープライズ0.2」社長の特徴です。それは彼らの勉強方法が「トリビア(雑学)のコレクション」に過ぎないからです。

S社長は大変な勉強家と評判で、業績も順調です。それは勉強の成果ではなく、S社長は地元の有名企業のご子息で、人脈が活きるビジネスモデルであるからです。

適材適所の作法

SaaSやクラウドコンピューティングを利用して、企業のIT環境を「所有」から「利用」へと移行するムーブメントを「エンタープライズ2.0」と呼びます。必要なときに必要なだけ利用できるというのが特徴のひとつで、いうなれば、社員を雇うのではなく求めに応じて「外注」するようなものです。中小企業が求めるITレベルならば常勤の正社員を雇うよりも、上手に外注するほうが費用対効果は高いでしょう。ただし、外注にも作法があります。

ある勉強会でS社長は、社名で検索してホームページを訪問する客がいると知りました。当時のS社長の会社のホームページはほとんどアクセスされず、「社名」で検索しても「検索結果」に表示されません。そこで外注することにして、制作業者には「社名で検索したときに、結果表示されるホームページ」と発注しました。業者はそのアプローチを「SEO」と伝え、さらに「社名」だけでは不十分で、利用者が検索する言葉への対策も説いたのですが「社名で十分」と譲りません。

人を信じるか自分を信じるか

リニューアルが終了し、検索結果に「社名」が踊ります。業者がS社長をた訪ねると応接室のソファーに深く腰掛け、S社長は不機嫌そうにタバコを吹かし開口一番こういいます。

「社名検索は無意味」

それは最近いった勉強会での先生(コンサルタント)の台詞だといい、「利用者のことを考えなければ」業者に説教を始めます。さらには、「勉強不足だ」ともいいました。業者は「最初にいっただろ」と吐き捨て席を立ちました。

勉強0.2系の社長は、自分が選んだ「先生」や「勉強会」にだけ価値を認め、それ以外を否定します。これは勉強している自負と、「社長」になる人間が多く持つ「自己肯定」から来るのですが、それに加えて「お坊ちゃん」となると、より顕著に表れます。これでは外注を活かしきれません。素人の自分のほうが詳しいと指示を出す様は、草野球の四番打者がイチローにバッティングを指導するようなものです。

ちなみにS社長の会社は看板、路線バス・駅のホーム、電柱広告で「社名」を宣伝しており、客がサービス内容を知りたいときにグーグルの検索窓に打ち込むのは「社名」なのです。つまり、S社長のいう「利用者のことを考えれば」、社名検索」は「不可欠」で、無意味というのはSEOの本質を理解していない証拠です。聞きかじりで、全てを理解したかのように振る舞うのは0.2系の特徴です。

コンサルタントのビジネスモデル

コンサルタントが提供する「言葉」は、大吟醸の冷酒のように口当たりがよいものです。それは、ほとんどの参加者を何となく理解した「気分」にさせる「言葉」を用意しているからです。コンサルタントにとっての「受講者」とは、すなわち「客」で、難易度の高い話や地味な本質論を語っては顧客満足を損ないます。セミナーを主催するコンサルタントにとっては正しい戦術なのですが、勉強好き0.2系の社長はこの言葉(=商品)を自己肯定とともに飲み干し、気がつくとどこかの政治家のように酩酊します。

業者が去った後、ホームページは数年間放置され、昨年ようやく「リニューアル」されました。見てみるとSEOに不向きな内部設計に「退化」しており、「悪」を「惡」、「区」を「區」のように旧字体で社名を表記したことにより、検索結果は旧字体が多くヒットするありさまです。旧字体で検索するのは同業者か関係者ぐらいで、「利用者」じゃないのですが・・・。今度はどこの「先生」の教えかを尋ねたいところです。

1.0への近道は「謙虚」。「実るほど頭を垂れる稲穂かな」も親の説教でしたが、年齢や立場を越えて学ぶには不可欠です。「高度経済成長期の足立区」を取引先の印刷屋のオジサンから知り、「新世紀エヴァンゲリオン」を年下の知人から学びました。すると、わざわざ「勉強」しなくても知識と情報が集まっていきます。

エンタープラズ1.0への箴言


「この1ヶ月間で取引業者から新しい情報を仕入れたか。この1カ月間で部下から新しい情報を仕入れたか」