メルマガの可能性

メルマガを発行してもうすぐ6年になります。きっかけは自衛隊のイラク派遣に友人が「おかしい」と憤りながら、直前に行われた衆議院選挙で「自民党」に投票したことです。彼は「先輩に頼まれたから」を唯一の理由に自民党候補者に投票したといいますが、当時の与党で送り出した側。私は彼にこういいました。

「おまえが自衛隊をイラクに送った」

思想信条からではなく、粗忽な友人は投票と政治の関係をいまいち理解していなかったようです。彼に両者の関係を教えたときに思ったのです。「同じ様な人がいるかもしれない」。そして、メルマガをはじめました。彼は相変わらず粗忽のままですが、続けているのは見ず知らずの読者からのメールによります。

発行開始から半年後にレイアウトを改訂しました。紙面の各所をアスキーアートで飾った「見た目」重視のリニューアルです。「新訂版」発行直後に以下のメールが読者から届きました。

「私は目が不自由で読み上げソフトを利用して貴誌を拝読しております。お考えがあってのリニューアルなのでしょうが、読みづらくなってしまい残念です」

こざかしい飾り付けが読者を傷つけたことを恥じました。そして、それ以上に「ユーザビリティ」に注意を払うことで「身体的特徴」を越えたコミュニケーションを可能にするメルマガ、ITというツールの可能性に感動しました。肉体的な「差異」を読み上げソフトが補完し、同じイメージを共有できるのはITならではのことで、メルマガ発行のモチベーションとなっています。

ゲーム屋のオヤジの野望

ユーザビリティとは「使いやすさ」のこと。狭義ではサイトの利用しやすさなどを表し、広義では身体的特徴を越えた使いやすさを意味します。また、ブラウザやOSによる違いを意識せずにアクセスできるという意味から「アクセシビリティ」という表現を用いることもあります。

テレビゲーム販売P社のT社長は元プログラマです。好きが高じてゲーム会社にはいったものの、制作現場は典型的な「デスマーチ」で、体調を崩し退社し、紆余曲折を経てテレビゲームの小売りをはじめました。テレビゲーム販売は平日の日中は暇なことが多く、ハードワークに慣れたT社長は暇を持て余していました。そこでホームページを自作することにしたのです。

暇な時間を活かしてホームページ制作の勉強をはじめます。「ネットで検索」すると制作ノウハウを解説するサイトが星の数ほどみつかります。プログラム開発に比べれば簡単のようです。そこで野心が芽生えます。今は「ゲーム屋のオヤジ」に身をやつしていますが、あわよくば「ホームページ制作業」としてクリエーターへの返り咲きです。

完璧なスタイルシートだけでは無意味

制作ノウハウについては諸説ありましたが、異口同音に「スタイルシート」を推奨しています。ホームページを表現するHTML(XHTML)は大雑把な骨組みだけに用いて、レイアウトや文字の飾り付けはスタイルシートで記述する、いや、しなければならないという強硬な意見もあります。

ホームページは「環境」で見え方がかわります。インターネットエクスプローラーとFirefoxやSafari(Apple社のブラウザ)では異なりますし、インターネットエクスプローラーでもバージョンやOSにより違い、カラスの写真が七色になることはありませんが、段組が崩れたり行幅がずれたりします。

「スタイルシート」により、ブラウザやOSに配慮した「見せ方=スタイル」をそれぞれ定義でき、「ずれ」を最小限に抑えることができます。その上、さらにユーザビリティも高まるというのですから採用しない理由が見つかりません。

試行錯誤の後、ホームページは完成し公開されました。どんなブラウザからでもアクセスでき、視覚障害者用の読み上げソフトにも対応しています。ところが、このユーザビリティ溢れるホームページは商売の役にはまったく立ちませんでした。

ユーザビリティはコンテンツじゃない

ユーザビリティに配慮したホームページのコンテンツは、「会社概要」「店舗案内」「求人案内」。これらのコンテンツを見に来るのは同業者かセールスマンという「大人」で、ゲームの主要顧客は「子供」です。優秀なユーザビリティを誇っても、客がみたいと思う「コンテンツ」がなかったのです。ユーザビリティが高くても、つまらないコンテンツに客は集まりません。ユーザビリティ0.2です。

ユーザビリティとは「利用しやすさ」という付帯条件であり、「利用したい」と思わせる主体要因にはならないのです。T社長が学ぶべきは「コンテンツの作り方」でした。「ネットで検索」で陥りやすいミスです。

「ネット世論」はもともと「IT業界人」の比率が高く、「技術」に傾斜する傾向があります。また、一般的に「コンテンツ」の原稿はクライアントに依存するIT業者が多く、小粋な文章の書き方や、目を惹く見出しの作り方、客の食い付く切り口などを「解説」できないこともが「技術論」でまとめる理由です。

コンテンツとユーザビリティが噛み合った時、身体的な垣根をひょいっと飛び越え、同じ土俵でコミュニケーションがとれるのがITの可能性・・・なのですが。

エンタープライズ1.0への箴言


「ユーザビリティだけでは意味がない」