ベッキーとゲス女

新年早々、「ドカン」と大きな音が聞こえたのは北朝鮮による水爆実験(主催者発表)ではなく、人気タレントのベッキーさんと、紅白出場も果たした人気バンド「ゲスの極み乙女。」のボーカル川谷 絵音(えのん)さんの不倫スクープでした。

川谷さんは、アマチュア時代から支えてくれた糟糠の妻と、秘密裏に昨夏入籍していました。しかし、新婚さんながら、ベッキーさんを連れて、実家のある長崎県でバカンスを過ごしたという様子を、そのすべてが文春に公開されてしまいました。

記事の発売前夜、ベッキーさんは緊急の記者会見を開き、「友だち」と不倫関係の否定を目論みました。ただ、残念ながら文春に掲載されたLINEのやり取りを見ると、一切の申し開きができない赤裸々なものであり、離婚の隠語として「卒論」を用いるなどは「ゲスの極み」。せめて「中退」にしておけば……とは、余計なお世話かもしれません。

記事にはLINEのトーク画面のキャプチャが掲載されており、これに驚いた人も多かったようですが、決して他人事ではありません。不倫の有無ではなく、セキュリティの話です。

どちらから出たかは明らか

LINEのやり取りが記事になったことで、ワイドショーでは、ハッキングやクラッキングを指摘するコメンテーターもいましたが、それが事実なら文春はその画像を掲載などしないでしょう。それは他人のアカウントを不正に利用した「犯罪」の証拠でもあるからです。そもそも記事には

川谷の将来を憂うある音楽関係者からベッキーと川谷のLINEのやり取りを入手した。

とあり、掲載画像の「既読」マークは、川谷さんの発言についていることから、川谷サイドからの情報提供は間違いないでしょう。テレビのコメンテーターという人種は、当該記事の確認すらせずに発言しているようです。

LINEアカウントは一定の段取りを踏めば、本人のスマートフォンでなくても、PCやタブレット端末で利用できますが、画像は"スマホ"のもの。もし、先の音楽関係者が2人のやり取りを盗み見るために、自分のスマホでアカウントを登録すれば、川谷さんの端末からはログインできなくなります。何らかの"特殊な技術"を駆使しての盗み見の可能性を捨て去ることはできませんが、本番中に楽屋に置いていた川谷さんの端末を操作して、情報を抜き出したと考える方が現実的です。

罪になるかどうか

この騒動に触れて思い出したのはF社長です。社員にも外出先を告げずに出掛けるほどの秘密主義者で、運営する複数店舗のためにWebサイトを開設しても、本社所在地すら掲載していません。専用のノートPCやタブレットも、すべてパスワードロックをかけており、"万全のセキュリティ体制"を敷いていたようでした。

しかし、「プライバシーは完全に守られている」と思っていたのはF社長だけでした。

そもそも、私用も重要事項も、オフィス内に響き渡る大声での「電話」。ベッキー騒動における「卒論」のような隠語すら使っていないので、すべてバレバレです。何より、セキュリティのためのパスワードは、会社の代表電話の下4桁で、さらにそのパスワードを付箋でディスプレイに貼り付けています。なお、今回の記事でF社長について、会社所在地どころか、業種すら紹介しないのは「パスワード0.2」による流れ弾を避けてのことです。

ベッキー騒動において「情報流出は"罪"になるのか」と弁護士ドットコムが話題にしていましたが、不法行為にあたるとしながらも断定を避けたのは、刑法ではなく民事だからでしょう。そして実に興味深いのは、フォローしているTwitterアカウントの中で、この記事を"シェア"していた人に「不倫経験者」が目立ったことです。

浮気の礼儀と流儀

不倫相手の川谷さんのセキュリティ対策が充分だったのかが気になるところですが、身内が関与している場合には、スマホの「指紋認証」は役立たずです。

日頃から「どの指」で解除するかをチェックしておけば、本人が寝ている間に「指」を借用すればたやすく解除できるからです。スマホに見られたくない秘密があるのなら、パスワードによるロックをかけ、そのパスワードを毎日、毎時で変えるぐらいの注意は必要です。

文春の記事によれば川谷さんは、既婚の事実を隠してベッキーと親しくなったとあり、これは浮気男の典型例です。そこで思い出したのは、20世紀の終わりに聞いた自称"浮気の達人"の格言です。

証拠を残しておくからバレる

証拠を残さなければシラを切り通せる。女房にバレないようにするのが浮気のマナーとのこと。LINEをはじめ、色褪せずに保存され続けるデジタルデータの時代に噛みしめる言葉です。

さらに川谷さんは取材に対し、半年前に愛を誓ったはずの新妻の名前を問われ、

名前は知っています。友だちです

と答えるなど「ゲスの極み」。看板に偽りなしです。

ただし、売れたあとに苦労を共にした"糟糠の妻"を捨てるのはミュージシャン界隈ではよくあること。

北の大地からやってきた同級生バンドのボーカルや、環境保護活動に熱心な偉大な子供たち、脱原発の活動家となったアカデミー賞受賞者に、文字通り巨大なギターリストなどなど、枚挙に暇がありません。ネット上では今、彼らに盛大な流れ弾がドカン、ドカンと当たっています。

エンタープライズ1.0への箴言


セキュリティは運用次第。そして不倫するなら証拠を残しちゃダメ(浮気の達人談)

宮脇 睦(みやわき あつし)

プログラマーを振り出しにさまざまな社会経験を積んだ後、有限会社アズモードを設立。営業の現場を知る強みを生かし、Webとリアルビジネスの融合を目指した「営業戦略付きホームページ」を提供している。コラムニストとして精力的に活動し、「Web担当者Forum(インプレスビジネスメディア)」、「通販支援ブログ(スクロール360)」でも連載しているほか、漫画原作も手がける。著書に「Web2.0が殺すもの」「楽天市場がなくなる日」(ともに洋泉社)がある。最新刊は7月10日に発行された電子書籍「食べログ化する政治~ネット世論と幼児化と山本太郎~」

筆者ブログ「ITジャーナリスト宮脇睦の本当のことが言えない世界の片隅で」