私たちにできる温室ガス削減運動

温室効果ガス排出量を25%削減すると鳩山首相が国際舞台で表明しました。25%とは19年前の1990年比で、当時はケータイもパソコンもインターネットもいまのようには普及してはおらず、これらが普及した2005年をベースに計算し直すと30%削減しなければなりません。

産業界からは懸念が表明され、識者から達成を訝しがる声は日に日に大きくなっていきます。しかし、私たちが支持して生まれた民主党政権で、その首相の発言です。実現するために私たち国民も協力するべきでしょう。そこで私たちに協力できることはないかと思索に耽ると以下の数式が浮かびました。

365日(1年)×30%(削減値)=109.5日 52週(約1年)×2(土日)=104日(土日の合計)

つまり、土日に温室効果ガスを排出する機械・道具を一切使用しなければ、ぐっと実現に近づきます。それでも足りない5.5日はお盆と、正月で補えばいいのです。

ペーパーレスの野望

コンビニやスーパーマーケットも土日閉店とします。あるいは「定休日」を復活させるのもいいでしょう。公共交通機関も便数を減らすか、数時間止めたとしても壊滅的混乱にまで至らないことは、昔懐かしい「国鉄のスト」で私たちは知っています。

いずれにしても高いハードルですが、温室効果ガスの削減は喫緊の課題だと首相が国連で訴えたのなら仕方がありません。彼を選んだのは我々国民です。

U商事のK社長も喫緊の課題に直面していました。長引く不況に加え、大手同士が連携する「強者連合」の前に中堅商社は為す術もありません。緊急対策として「経費削減」の大号令をくだします。

エアコンの設定温度を28度としたことは男性社員に不評でしたが、女性社員には好評です。寒すぎるオフィスに凍える女性は多く、女性専門の鍼灸院「表参道ビオ東洋医学センター」の高橋院長は、エアコンの影響で女性が最も冷えるのは夏だといいます。もっとも、エアコン以外は男女を問わずに不評です。

コピー機には「1枚68銭」と用紙の原価が貼られ、失敗コピーの枚数報告が義務づけられます。機密書類を除いて裏側の白紙を使うのは当然です。残業時の照明はエリアを限定され、会社支給の携帯電話の使用は制限されます。誰もが不満をクチにしますが、「不景気」という印籠の前に言葉を飲みこむ姿は「温室ガス削減」の議論に似ており、反論すれば非国民扱いを受けかねない雰囲気です。

K社長が「無駄」を探して社内を巡回していた時のことです。社員がパソコン画面で「書類」を見ています。訊ねてみると「PDF」といい、印刷物をそのままのイメージでメールに添付して送受信できることを知ります。

FAX撲滅へと走り出す

20年ほど前、OA化とペーパーレスは同義で語られていました。資源不足は当時から問題視され、書類が多い日本型ビジネスへの批判からも普及が叫ばれたものです。しかし、当時のパソコン(オフコンも含め)の描画能力は低く、端末は高く普及しませんでした。90年代の円高で「輸入紙」が安くなったこともペーパーレスには逆風となりました。しかし、いまK社長の目の前にあるPDFはイメージ通りの「仮想紙」です。さらに、メールに添付することでFAX通信費も事実上ゼロになります。

「FAXは写メールで」

勅令が下ります。メールに画像が添付できる=写メールというのがK社長の理解。経費削減という大前提から、Eメール対応のFAX機器やサービスを利用するといった追加投資は論外で、ホコリを被っていたスキャナーが引っ張り出され、パソコンに接続されます。可能な限り「スキャン」し、「PDF」で保存し、「Eメール」に添付して「FAX」することになり、それまで数秒だったFAX送信作業が、時に数分を超えるようになりました。

コストと投資と

時給1000円のアルバイトが送信作業に3分かけたとすれば、単純計算でこうなります。

1000円÷60分×3分=49.9円

FAXの「電話代」とどっちが得でしょうか。経費削減は企業にとって永遠の課題ですが、目先の数字に拘ると逆に損をすることがあります。ペーパーレスのためにEメールでFAXを送受信するのなら、必要な装置を購入することで人的資源を有効活用でき、これは無駄金ではなく「投資」です。K社長は残念ながら「FAX代が節約できる」ことにだけ目がいった経費削減0.2です。

手間が増えたことで残業が増え、残業代が経費削減効果を上回り中止になったのは翌月のこと。分かりやすい数字は本質を見誤らせることがあるので注意が必要です。

冒頭の温室効果ガス削減ですが、例えば通勤に自動車や電車を使わずに自転車や徒歩を提唱する人もいます。これならCO2はゼロ・・・になるのでしょうか?

徒歩や自転車で通勤します。すると筋肉がつき代謝が上がります。代謝とは体内でのエネルギーの燃焼です。燃焼にはカロリーが用いられ、用いた分だけ腹が減ります。そして食事量が増えれば食物生産に投じられるエネルギーが温室効果ガスを排出し、さらに代謝がすすんだ人間のはき出すCO2が地球温暖化に・・・。

畜産大国ニュージーランドでは「羊のゲップ」が温室効果ガスとなるという説もでています。すると2020年の「温室効果ガス25%削減」を達成するために「人間の運動禁止」が議論される可能性もなきにしもあらずではないかと。「数字合わせ」に走ると本質が置き去りにされることがあります。

エンタープライズ1.0への箴言


「分かりやすい数字だけを追うと全体を見失う」