酒に酔ってのことならば

新潟日報の支局長を務めていた報道部長が、Twitterの匿名アカウントから、ある弁護士へ暴言、中傷を繰り返していたところ、相手の弁護士の方が一枚上手で、やり取りの中から実名を特定し、公表しました。これに焦った報道部長は「酒に酔った上でのことで、仕事のストレスも加わり」と説明し、上長を連れだって訪問して謝罪しました。当該弁護士が謝罪を受け入れ「手打ち」になるはずが、新潟日報に「数百件の抗議」が寄せられました。

(略)このブス!お前の赤ん坊は豚のえさにするんだから…。 で、お前とダンナが、その豚を喜んで○○のな。そりゃ美味しいよ。お前の子ども○った豚だもん!(略)

エゲツナイので自主規制しておりますが、こうしたツイートが数多く確認されているのですから「数百件の抗議」が届くのも当然ながら、NHK「NEWS WEB」のサイトでは「過去にも問題のある書き込み」とだけ紹介していました。

テレビメディアは、ローカル局の数社が報じただけで、大手は沈黙を守っています。しかし、この騒動の背景を辿ると、看過できない社会の病理が浮かび上がります。

いくらなんでもそれは

役職を解かれ「元部長」となり、無給の「無期限懲戒休職処分」との処分が下されましたが、一般常識に照らせば、経営者側と解釈される「部長」への処分としては軽過ぎます。また、新潟日報に関係する著名人らが、擁護するかのコメントを発していることから「会社ぐるみ」という批判がネット上で吹き荒れております。

元部長は、政治家の実名を挙げて「慰安婦」だとか、「死ね」「奇形遺伝子」などの暴言が並び、「○○県人は人間のくずで女はみんな売春婦」と、繰り返していたのです。

酔いが理由だとするなら、正常な判断能力を欠く「重度のアル中」。これが一般企業なら、多くのマスコミはスクラムを組み、会社としての任命責任、管理責任を問うたことでしょう。

あるいは「人間性」を暴くことは、事件の背景を知る手がかりになる、という建前から、記者やレポーターは現地に飛び、取材と称して元部長の自宅近隣住民に騒動を触れ回り、「そんな人には見えなかった」と肩を落とす親族のコメントを取り付け、報じるのがいつものマスコミのやり方です。

ところがテレビは報じず、NHKのような大人しい表現でお茶を濁しています。

つながる一本の糸

社会の木鐸たる「報道機関の幹部」という肩書きを脇に置けば、元部長の暴言だけでは「ニュースバリュー(報道する価値)」は弱いかも知れません。

限られた紙面、放送時間のなかで、どのニュースを取りあげるかは「ニュースバリュー」で決められます。しかし、「ネットで検索」する程度の情報から見えてくる元部長の背景には、看過できない危険性が潜んでいるのです。

以前に触れた「ぱよぱよちーん騒動」。セキュリティ会社の要職にあった人物が、その立場と人脈を駆使し、個人情報を集めて晒していたのではないかと疑われました。セキュリティ会社の説明が不十分なため、いまだ疑惑は晴れていませんが、この人物も匿名アカウントから、思想的に対立するユーザーや政治家に対して、暴言や脅迫同然の発言を繰り返していました。

そして同じ時期に同様の事例が、立て続けに発覚。大学生協の幹部や、ご母堂が日本共産党系の地方議会議員のデザイナーらが、やはり思想の異なる相手に対して、匿名の闇から執拗に攻撃を繰り返していたことが、実名と共に明らかとなります。

そして元部長。この4人をつなぐ一本の糸は、左派系のある団体。思想信条はそれぞれ自由ながら、一つの団体の複数の構成員が、Twitter上とはいえ、同じような反社会的な活動をしていたのなら、「報道する価値」があると考えるのはあの事件の記憶です。

ニュースバリューを求めるなら

対立するものには文字通りの牙をむき、独自の(屁)理屈で、社会を混乱させた「オウム真理教(現アレフ)」。犯罪予告や殺人教唆といった反社会的行為において、両者を重ねてしまうのは、私の事務所から徒歩圏内に、オウムの本部があるからかもしれません。

しかし、「お前の赤ん坊は豚のえさ」という発言が代表するように、実名が特定された4名に通底する尋常ならざる精神性は、報道を通じて一般市民に警戒を呼びかける必要があると考えます。

さらに、4人の年令は57才、55才、53才、42才。左派系の団体が、騒動と無関係だとしても、酸いも甘いもかみ分け、相応に社会的立場をもっていた「大人」が、匿名の闇から誹謗中傷や脅迫、「死ね」を繰り返していたのです。

これは「社会的病理」そのものです。これに「ニュースバリュー」がないと判断したなら「ニュースバリュー0.2」。「社会問題」を追う資格などありません。

もっとも、報道されないことに対して、ネットでは「当然」とする声が多数。それはマスコミな内部には左派が多く、「左派に都合の悪いニュースは報道しない」というもの。「報道しない自由」とも呼ばれます。

その真偽を確かめる術を持ちませんが、安保法制を巡る抗議集会で「安倍、叩ききってやる」と襲撃予告をした左派色の明らかな大学教授の映像は、いまだに大手テレビメディアで目にしません。

エンタープライズ1.0への箴言


恣意的に見える「ニュースバリュー」の判断がメディア不信を絶賛増幅中

宮脇 睦(みやわき あつし)

プログラマーを振り出しにさまざまな社会経験を積んだ後、有限会社アズモードを設立。営業の現場を知る強みを生かし、Webとリアルビジネスの融合を目指した「営業戦略付きホームページ」を提供している。コラムニストとして精力的に活動し、「Web担当者Forum(インプレスビジネスメディア)」、「通販支援ブログ(スクロール360)」でも連載しているほか、漫画原作も手がける。著書に「Web2.0が殺すもの」「楽天市場がなくなる日」(ともに洋泉社)がある。最新刊は7月10日に発行された電子書籍「食べログ化する政治~ネット世論と幼児化と山本太郎~」

筆者ブログ「ITジャーナリスト宮脇睦の本当のことが言えない世界の片隅で」