Appleはチャイナ銘柄に

中国経済の混乱を引き金とした「世界同時株安」ですが、中国事情に詳しい識者の説明がイカしていました。習近平国家主席によるキツネ狩りなどと称される「腐敗防止(汚職などの摘発)」により、「不正蓄財で儲けた金が市場に出回らなくなった」ことが理由だというのです。その奇妙な説得力に苦笑いが漏れます。

中国経済の冷え込みを先取りしていたのが、米Apple株の下落です。全世界売上の27%を中国が占めており、ある株式アナリストは「Appleはチャイナ銘柄」とカテゴライズしていました。中国景気がAppleの株価を支えていたという見立てです。

さらにここへ来て、業績への懸念も浮上してきています。さらなる成長の起爆剤と期待されたウェアラブル端末「Apple Watch」の不振です。米調査会社の調べでは、ピーク時に20万本を越えていた米国の一日あたり売上本数が、いまでは数千本単位にまで下落しているというのです。なにが原因か"0.2流"に考えてみます。

「i」を巡る騒動

Apple Watchのロゴマークは「iPhone」における「i」の文字が、アップルのリンゴマークになっております。

商標権をめぐる諸権利や、初代「iMac」から数えてすでに18年が経過したこと、そもそも創業者のジョブズは気に入っていなかったとする説から「i」の使用への否定的な意見もあります。

しかし、音楽プレイヤーの「iPod」、そして「iPhone」「iPad」と、コンシューマ向けアップル製品に「i」は付きものなのです。

ある企業では、社長のイニシャルから、ロゴマークに「i」をいれました。昔ながらの物流業で、ITやWebとは関係がありません。オーナー社長の娘の思いつきから作られたものでしたが、事務所には「アップルとの関係」を問い合わせる電話が入り、求人広告を出すとネット企業と間違えた応募が多数寄せられます。

果ては投資家を名乗る人物まで押しかけ、結局、ロゴマークだけでなく、明らかに「非IT」と分かるように社名の変更を余儀なくされます。ITバブル花盛りの頃の話しですが、「iMac」の大ヒットにより、すでにこの頃から「i」とは、アップル社の代名詞だったのです。

そんな「i」をApple Watchは身につけていません。市場認知度の高いアイコン的な「i」をわざわざ排したことも、Apple Watchの不振の理由に思えてならない「ネーミング0.2」とは余計なお世話でしょうか。

日本独自の不振の理由

また「アップル」の名前を冠した製品は、創業直後の「APPLE-2(製品はローマ数字)シリーズ」を最後にヒット作に恵まれておらず、3年前にリリースして以降、ぱっとした噂を聞かない「Apple TV(iTVから改名)」に至ります。「i」シリーズとは雲泥の差です。いわゆるオカルトになりますが、「験を担ぐ」のであれば、やはり「i」に軍配があがります。

国内におけるApple Watchの不振には別の理由も考えられます。商品名は「Watch」とアルファベット表記ですが、耳に響く言葉は「ウォッチ」。国内で「ウォッチ」といえば「浮き浮きウォッチ」か「妖怪ウォッチ」でしょう。

「笑っていいとも!」は昨年春で終了しましたが、入れ替わるように小学生を中心に、爆発的な人気を誇ったのがアニメやゲームの「妖怪ウォッチ」です。その「ウォッチかぶり」が、与えたチープな印象は計り知れません。そう、妖怪のせいだったのです……とは冗談ですが。

幸いにも「妖怪ブーム」は沈静化し、この秋にはApple Watch単体で機能するアプリが登場すると言われています。ヒットアップリの登場で、状況が改善される可能性は充分にあり、世界同時株安の中、アップル株は割安感から反転の兆しを見せています。四半世紀を超えるアップルファンとして、秋以降の反転攻勢に期待を込めて「0.2」を捧げます。

エンタープライズ1.0への箴言


認知された名前は市場に与える影響力が強い

宮脇 睦(みやわき あつし)

プログラマーを振り出しにさまざまな社会経験を積んだ後、有限会社アズモードを設立。営業の現場を知る強みを生かし、Webとリアルビジネスの融合を目指した「営業戦略付きホームページ」を提供している。コラムニストとして精力的に活動し、「Web担当者Forum(インプレスビジネスメディア)」、「通販支援ブログ(スクロール360)」でも連載しているほか、漫画原作も手がける。著書に「Web2.0が殺すもの」「楽天市場がなくなる日」(ともに洋泉社)がある。最新刊は7月10日に発行された電子書籍「食べログ化する政治~ネット世論と幼児化と山本太郎~」

筆者ブログ「ITジャーナリスト宮脇睦の本当のことが言えない世界の片隅で」