自立する大人の意見で

本稿は「政権交代。」の選挙直後に執筆しており、こういうコトを書くと身も蓋もないのですが、多数決の答えが必ずしも正しいわけではありません。参加者の意見を集約する便利な方法ではありますが、方法の便利さと答えの正当性は比例するものではありません。そして「民意」は時代の風に流されやすく、凪に振り返り後悔することもしばしばです。

その一方、「みんなの意見は案外正しい」という仮説もあります。専門家よりも、適切な情報を与えられている不特定多数の素人の集団の方が正しい答えに到達するというものです。しかしこれも眉唾です。適切な情報の線引きも難しく、不特定多数という集団の定義も曖昧だからです。

今年始まった裁判員制度でも、「性被害」に対して男性と女性の温度差に議論が残りますし、政策を見ても、子ども手当を教育費に廻せる家庭と、生活費に充てざるをえない世帯の「格差」は置き去りにされています。「みんなの意見が正しい」というのは参加者全てが自立した大人で、なおかつ常識的な価値観と社会常識を持ち合わせているという前提において成り立つファンタジーなのではないでしょうか。「多数決」の導き出す答えに怪しいものは少なくありません。これはビジネスの現場でも同じです。

KPIをセグメントしてレイヤーをみる

大企業の従業員には1.0、いや2.0な優秀な人を多く見つけます。私の知る範囲での一般論ですが、中小企業と比べ勉強家が多く、社会情勢にも通じています。政治や経済、最新の科学技術、その行く末までアンテナを張っております。彼らに尋ねると「ホームページの必要性」についての議論は不要です。中小ではいまでも耳にする「ウチにはまだいらない」という人は皆無です。

業界トップランクのE社がホームページをリニューアルすることになりました。同社のN社長の号令で関係各部署から代表者を集め、横断的なプロジェクトチームが結成されると、白熱した議論が展開されます。「KPIの設定から始めなければ」「その前にペルソナのセグメントからだ」「異なるレイヤーを共存させるには」。これで会話が成立するのは、さすが大企業の社員たちです。ちなみにKPIは「Key Performance Indicator」で、意訳するなら目標達成度指数、つまり、「どこまでできていますか?」を数値化したもの、ペルソナは「想定顧客」、セグメントは「分類」、レイヤーは「属性」または「住む世界」です。なぜか「賢い人」は平易な言葉を避ける傾向があります。

いざ、コンテンツへ

リニューアル前のホームページはITバブルの頃の遺物です。会社パンフレットに自己満足をトッピングした検索エンジンに相手にされないもので、リニューアルと言うよりゼロからの作り直しです。

KPIもベースとなる数字がなければ指標の設定などできません。脳内イメージを共有化するペルソナは、口で言うほど簡単な作業ではありません。セグメントもレイヤーも机上の空論からはみ出すことはできず、会議は踊りだす勢いで、プロジェクトチームはひとつの結論に達しました。

「とりあえず作ってみる」

ホームページに関しては正解です。着手することで見えてくるもの、知ることが多く「トライアル」という捉え方に優秀な人は違うなぁと呟きます。一方、0.2な人は議論が目的化し「次回の会議日」を結論として終わります。続いて役割分担。ここで0.2と優秀な人の行動様式がリンクします。

真っ先に責任を押しつけられるのは「総務部」ですが、大企業の総務部は総務の専門部署となっており現場を知りません。取引先は「伝票」で知っているだけで、業務内容が分からなければコンテンツにできません。そこで各部に協力を要請すると、饒舌にKPIを語っていた優秀な彼らが一斉に貝になります。

自分の利害にはすぐに反応する

カタカナ言葉の変わりに「許可」「確認」「予定」が頻出します。用法はこう。「顧客の許可をとってから」「上司の確認が先決」「予定がはいっている」。すべてを包括して意訳すれば「やりたくない」です。「自分の仕事」が増えることに拒否反応を示すのは、大企業も中小企業も同じです。

自分の「利害」が結論を歪めます。これも私が多数決をあまり信頼できないとする理由です。

「総務部だけでできる範囲で」

多数決で採択された結論、多数決0.2です。第6回の「集合知0.2」でも触れましたが、みんなの意見はそんなに正しくありません。自分に無関係な状況では積極的に理想論を振りかざす「リスキーシフト」が起こりますが、自分が当事者になると消極的になります。特に職務となれば分かりやすく、コーシャスシフト(リスクを避ける)するのは、ある意味仕方がありません。そもそも商売用のホームページで売り上げを伸ばす行為とは

「社員(自分)の仕事を増やすもの」

なのですから。

つまり、社員がホームページに消極的になるのは本能的な自然の振る舞いで、商売用ホームページに社内多数決が向かない理由です。「財政再建」には頷きながら「増税」にはノーと叫び、「ばらまき」を批判しつつ、貰えるものは欲しいという庶民感情に通底します。

エンタープライズ1.0への箴言


「ホームページの担当者は名指し」