寛大なるムスリム

チュニジアで博物館がテロリストに襲撃され、邦人にも犠牲者がでました。イエメンでも多くの犠牲者がでるテロが起きました。頻発するテロ行為に「宗教戦争」と指摘する声もありますが、いうまでもなく大半のイスラム教徒は平和を望み、世俗と宗教に折り合いをつけています。

ある中東出身のムスリム(イスラム教徒)は、禁忌である豚肉を、同じく禁忌のアルコール入りビールで流しこみ「美味い」と白い歯を見せていたものです。本音と建て前を上手に使い分ける「寛大さ」がある、というのが私のイスラム教へのイメージです。

一方、ダーイシュ(テロ集団イスラム国の蔑称)は寛大さの対極にある「原理主義」を標榜していますが、厳格に教義を守るという意味の「原理主義者」からも、異論が出るほど独自の解釈が目立ち、狂信を意味する「カルト」に分類する方が正しいでしょう。

日本でカルトといって真っ先に思い出すのは「オウム真理教」です。後継教団は「アレフ」に改名し、一部は「光の輪」に分派しましたが、公安の発表によればどちらも実体は「オウム真理教」とのことです。

地下鉄サリン事件から20年が経過しましたが、私の住む足立区には、オウム関連施設が数カ所あり、オウムは過去の話しではありません。それどころか、カルトとSNSの親和性は高く、ネットの普及がオウムの動きを活発にし、ダーイシュを助けています。

SNSとはなにか

SNSの大半は、趣味や嗜好をプロフィールとして公開することを推奨しています。年齢や性別、出身校を求めるものもあり、投稿に不平や不満を見つけることは珍しくありません。こうした情報からカルト集団が「カモ(ターゲット)」を探すのは容易です。

不平や不満とは心が満たされていないことの告白であり、個人情報を公開しているのはセキュリティ意識の低さと同時に、自己顕示欲の強さを意味します。

この手のタイプは「認められる(自己承認)」ことに飢えており、ひと言、誉めてあげるだけで信頼を得ることが可能です。また、年齢や性別から心身の不調や、不安を言い当てることは造作のないことです。

騙す技術を工夫するより、騙しやすいカモを探すのが詐欺の基本で、SNSとはいわば

「騙されやすさのスペック(基本性能)」

を公開しているようなものなのです。真偽は定かではありませんが、SNSで、ダーイシュへの興味を語った学生に、「リクルーター(採用担当)」らしきものから接触があったとも報じられています。

宗教にはまる理由

さらにオウムに限ったことではありませんが、「宗教」をやっている人は、みな「良い人」に感じさせるものです。私もある「道場」に誘われ、新興宗教に片足を突っ込んだことがあります。

未成年も終わりを告げるころ、世間はバブル経済に熱狂しつつも、誰もが漠然とした不安を抱えていました。オウムの拡大期と重なりますが別の新興宗教です。そして両足をいれる直前に、ある人から忠告されました。

「宗教をやっている人は、みな良い人。良いことをやっていると信じているのだから当然」

ムッとしました。自分に親切な人を悪くいわれたと反発したのです。これは「内集団バイアス」と呼ばれ、カルト集団からの脱退を難しくさせる理由のひとつです。所属する(関係する)集団と自己の同一化で、反対するものの存在により、自分の意志で関係性をより強めてしまうのです。

しかし、勧誘する側が親切なのは当然で、住宅展示場の接客担当が至れり尽くせりの接待をするのと同じです。忠告者は言いました。

「本当の信仰とは求める人に開くもので、勧誘するものではない」

ちなみにこの忠告者は、別の新興宗教の教祖的立場にありましたが、確かに今に至るまで一度も勧誘されたことはありません。

東京拘置所のヘリポート

オウムが殺人を「ポワ」と呼び、功徳に数え、ダーイシュが殺人を正当化するように、カルト集団の教義は一般人の理解を超え、冷静さを取り戻せば脱会や脱走がはじまります。組織の求心力となるのは、教祖よりも「新人」の存在です。

善と悪という二元論もカルトの特徴で、一般社会が悪(間違っている)だから、善なるカルト側に人が来るという論理です。それが信仰への疑念を払拭させます。つまり勧誘し続けないと組織が崩壊する「宗教0.2」です。だから、勧誘=リクルートに熱心なのです。

カルトのリクルートにSNSは利用されます。繰り返しになりますが、それは「スペック」が公開されているからです。不用意なプライバシーの公開と、見知らぬ「良い人」には警戒が必要です。

我が町足立区や、その周辺にオウム関連施設が多いのは、「教祖奪還」のためだという噂を耳にしたことがあります。一連の事件の首謀者である、教祖麻原 彰晃(あさはらしょうこう)こと、松本智津夫(まつもとちづお)死刑囚が東京拘置所にいるからです。

施設は自動車で30分以内の距離にあり、なかなか信憑性のある話しですが、松本は「空中浮遊」できると広言していました。教祖の言葉を信じるなら、むしろ必要なのは「ヘリポート」でしょう。その点、拘置所の対策は万全です。

松本の逮捕から2年後に始まった大規模改築工事では、まず「ヘリポート」が新設されたのです。それを我々、地元の住民は、松本が空中浮遊で脱走したときの対策……と冗談にしていました。ちなみに東京拘置所の所在地は「葛飾区」ですが。

エンタープライズ1.0への箴言


SNSとは騙されやすさのスペック(基本性能)

宮脇 睦(みやわき あつし)

プログラマーを振り出しにさまざまな社会経験を積んだ後、有限会社アズモードを設立。営業の現場を知る強みを生かし、Webとリアルビジネスの融合を目指した「営業戦略付きホームページ」を提供している。コラムニストとして精力的に活動し、「Web担当者Forum(インプレスビジネスメディア)」、「通販支援ブログ(スクロール360)」でも連載しているほか、漫画原作も手がける。著書に「Web2.0が殺すもの」「楽天市場がなくなる日」(ともに洋泉社)がある。最新刊は7月10日に発行された電子書籍「食べログ化する政治~ネット世論と幼児化と山本太郎~」

筆者ブログ「ITジャーナリスト宮脇睦の本当のことが言えない世界の片隅で」