終わって「いいとも!」

フジテレビのお昼の顔『笑っていいとも!』が来年3月に終了すると発表されました。視聴率が下がりはじめると、かならず「打ち切り」が噂されるのはテレビの常で『いいとも』も同じく、この数年、噂され続けていました。それでも2012年の同時間帯の視聴率首位は獲っており、これは記録が残る限りで24年連続。にもかかわらず終了。その理由は明らかにされていませんが、番組の求心力がなくなった理由ははっきりと指摘できます。それは「マンネリ0.2」です。

『いいとも』を批判する声でよく耳にした「マンネリ」ですが、長寿番組になる絶対条件が「マンネリ」であり、単純な「マンネリ批判」は的外れです。『徹子の部屋』の変わらぬ構成、何度叱られても反省しないカツオの『サザエさん』をみれば分かるように「マンネリ」が番組の軸となるからです。「マンネリ」とは「フォーマット(書式)」なのです。ところが、『いいとも』はその「マンネリ」を自らの手で破壊してしまっていたのです。

機能を喪失した『いいとも』

お昼休みの忙しい時間に、腰を据えてテレビを見ている人は多くありません。そうした視聴者は昼時のテレビ番組に「時計」としての機能を期待しています。『いいとも』が破壊した「マンネリ」とは「タイムテーブル」の変更です。タイムテーブルとは放送する内容の順番で、番組開始以来、日替わりのオープニング企画、メインであるゲストとタモリとの対談コーナー「テレフォンショッキング」、そしてタモリと曜日レギュラーが絡んだ企画へと続きます。ところがこの1年、タイムテーブルはたびたび変更され、「テレフォン」の放送時間が、ある日は12時10分、別の日は12時30分と、曜日により異なるようになったのです。「テレフォン」でおおよその時間を知っていた視聴者は混乱します。タイムテーブルの「マンネリ」を変えたことにより、『いいとも』はお昼の番組に求められる機能を喪失したのです。

ニッチな商材を取り扱っているとお客が「ネットで検索」してやってきます。だから、自動車修理機械の部品というニッチな商材を、製造販売するN社長は自社のホームページが大好きです。暇さえあれば、自社サイトを巡回パトロールしています。しかし、好きなものでも毎日見ていれば、「マンネリ」と感じるもの。そこで業者に依頼して、定期的にサイトを更新させていました。

マンネリの先にあるもの

色味を変えたり、イメージ写真を変えたりといった小手先の更新だけなら、問題は起こらなかったのでしょうが、小手先を繰り返せば、更新そのものがマンネリに映ります。そこでメニューの内容や、情報の構造にまでN社長は口を出し、作り替えられたサイトを見て悦に浸っているとお客からクレームがはいります。

「分かりづらい」

自動車修理機械の部品という商材の性質上、それぞれのお客が、サイトを訪れるのは多くても数ヶ月おきです。その訪問毎に、メニューの位置、製品の並びが変更されていることへのクレームです。情報サイトと異なり、企業サイトをお客は、毎日訪問はしません。企業サイトにおいて、一定の「マンネリ」は不可欠で、それは「フォーマット」であり「一貫性」へとつながります。つまり目新しさを追い求め、客を混乱させた「マンネリ0.2」です。

N社長の迷走と『いいとも』におけるタイムテーブルの変更が重なります。番組終了の報を受け、あらためて『いいとも』を見ると、さらに悪いマンネリに気がつきます。

いいとも終了の真相

ある日のレギュラーは、爆笑問題の太田光、タカアンドトシ、柳原可奈子、栗原類にお笑いトリオ「パンサー」の三人と計8人。これにタモリと、当日のゲストが加われば10人。みな一斉に舞台に登場し、それぞれがコメントをするのはすべての曜日に通じるマンネリな進行です。まるで「これだけタレントを出したから、視聴率はタレントの責任」という制作サイドの言い訳が聞こえてくるようです。

そもそも『テレフォンショッキング』は「友だち同士を電話でつなぐ」が企画の骨子で、番組名の『いいとも』も「良い友」に掛けたものです。宣伝目的とあきらかなタレントが登場するのは、ロープに飛ばされたプロレスラーが戻ってくるようなフォーマットとして視聴者は受け入れていました。ところが、突然、交友関係という前提条件は破棄され、番組のブッキングしたゲストを紹介するシステムに変更します。Mr.マリックが「ハンドパワーは手品です」と告白したようなものです。

さらに「テレフォン」は占いコーナー、プロフィールやアンケートの紹介など企画を盛り込み、タモリの「至芸」と言っても良い、意味のない会話を続ける「雑談力」を封殺します。タモリの持ち味を殺し、局アナにもできる程度の進行をやらせるなど愚の骨頂。まるで「松茸のケチャップ炒め」です。晩年の『いいとも』は、タレントの個性を殺し、番組の持ち味を潰す「マンネリ」を繰り返していました。終わって当然です。しかし、笑福亭鶴瓶の乱入をきっかっけに、番組の終了をタモリ本人の口から発表させたのは、ハプニングも笑いに変える同番組がもっていた持ち味。最後に意地を見せたようにもみえました。

エンタープライズ1.0への箴言


「マンネリとはフォーマットであり一貫性。無闇矢鱈に壊してはならない」

宮脇 睦(みやわき あつし)
プログラマーを振り出しにさまざまな社会経験を積んだ後、有限会社アズモードを設立。営業の現場を知る強みを生かし、Webとリアルビジネスの融合を目指した「営業戦略付きホームページ」を提供している。コラムニストとして精力的に活動し、「Web担当者Forum(インプレスビジネスメディア)」、「通販支援ブログ(スクロール360)」でも連載しているほか、漫画原作も手がける。著書に『Web2.0が殺すもの』『楽天市場がなくなる日』(ともに洋泉社)がある。最新刊は7月10日に発行された電子書籍「食べログ化する政治~ネット世論と幼児化と山本太郎~」

筆者ブログ「ITジャーナリスト宮脇睦の本当のことが言えない世界の片隅で」