矢口真里、生活費のカラクリ

月収500万円とネットニュースで話題となった元モーニング娘。の辻希美さん。写真週刊誌「FLASH」に掲載された「こ~んなに儲かるブログ長者ランキング」がネタ元で、ご主人の杉浦太陽さんと合わせた年収は7000万円に登るとあります。この記事をニュースサイト「サイゾー」が

「矢口真里は家にいるだけで月27万円を稼いでいる!?」

と見出しをつけ紹介したことで、ネットの住民が飛びつき拡散されました。

タレントとしての活躍は乏しいなか、辻さんは「ブログ」で稼いでいるようです。先の数字はブログの閲覧数に応じて支払われるギャランティの推計値で、矢口真里さんも同じです。ブログで稼いでいるのは芸能人だけではありません。プロブロガーを自称し、浅い知見を絶賛拡散中の「イケダハヤト」さんも、ブログからの収入を基本として生計を立てていると広言しています。ブログはビジネスになるのでしょうか。

社長のカラクリ

辻希美さんのブログのカラクリは後に触れるとして、一般的には無名のイケダハヤトさんは、著書に「年収150万円で僕らは自由に生きていく」とあるところからみれば月収は12万5千円。これでは生活していくには心許ない金額ですが、実は自身のブログで月収が40~50万円あることを告白しています。こうした話しを耳にして、「俺も」と思う心を否定はしませんが、本稿を必ず最後までお読みください。

今回の主人公Kさんはサラリーマンの傍ら、起業を目指しネットで情報収集をしている、いわば「社長0.2」です。一般的な会社員の家庭に育ったKさんにとって社長は遠い世界の存在でした。ところがツイッターでは孫正義氏を筆頭に、多くの社長と触れあい接し、名も知らぬ社長たちが綴る熱い気持ちの込められたブログを読むにつれて「俺も」と考えるようになりました。そして「ブログ」を始めます。

もっとも社長になんて誰でもなれます。会社を作り、自分を代表として法務局に届け出れば、誰でもその日から社長です。難しいのは「儲かる会社」の社長になること。ブログに似ています。開設することは誰でもできますが、ブログで儲けるには別の要素が必要となるからです。

ネット有名人のカラクリ

仲間内で笑いを取ることには自信がありました。政治問題に明るく、芸能ネタも抑えています。最近では起業資金を増やすためにとFX取引も始め、バラエティ豊かな話題を提供し続ければ訪問者が増え、ブログをみたエンゼル(投資家)から資金提供の申し出や、出版社からの執筆依頼、経営者からの共同事業の誘いがあるかもと妄想が膨らみましたが、3カ月と持たずに挫折しました。ブログの閲覧数がまったく増えず、何十本と投稿しても手応えがなかったからです。

「2ちゃんねる」から世に出た経済評論家の三橋貴明氏のように、まったくの無名からネットで有名人になった人はいます。しかし、独自の視点や専門性を伴う見識といった、圧倒的な実力をもっていたから注目されたのです。むしろ身内が理解できる程度のトリビアだけで、ネットで注目を集めるのは困難。これが素人ブログの真実です。

一方で、有名ブロガーが「浅い知見」を散見するのはよくあること。彼らのアドバンテージは「業界人」にあり、ネタや文章力以外の要素で有名になっているのです。

ブログ収入のカラクリ

広告、出版業界は想像以上に狭い世界で、実力よりもコネが仕事につながります。それは多忙を口癖とする彼らは、手近なところでネタを仕入れる習性があるからです。コネはクチコミとなりネットに拡散され、知名度を上げるという構図です。先のイケダハヤトさんにしても、いまから10年以上前に立ち上げたニュースサイトが編集者の目に留まり、当時、中学生ながらネット系の雑誌に連載を持っていた、いわば「業界人」です。

業界にコネのない一般人がブログをビジネスにするという発想が0.2。ブログで名を上げるより、リアルで起業し、成功する方がよほど簡単です。

辻希美さんが開設するブログ「アメブロ」はサイバーエージェントが運営し、サイバーエージェントは芸能人や有名人のブログを宣伝媒体として販売しています。次に述べるように、訪問者の一定数は必ず広告をクリックします。訪問者が増えればサイバーエージェントの利益を生み、辻希美さんの銀行口座を潤します。そしてPVは賛意や炎上を問いません。ここが辻さんのビジネスにおけるユニークポイントです。私生活をさらけ出し、先日はまだ幼い子ども達のセクシーショットを流出させブログを炎上=PVを激増させているのです。先の記事を後追いした週刊文春は炎上と掛けて「焼け太り」と彼女のビジネスを評価します。

最後に一般人によるブログの収益の目安を紹介します。PV(ページの閲覧単位)あたりの広告クリック率は0.5~0.6%で、わたしの調査では記事に連動する広告が表示されるグーグル「アドセンス」のCPC(クリック毎の報酬)は40円ほどでした。これらの数字から「100円」を得るのに必要なPVは500となります。すると5000PVで1000円、5万PVでようやく1万円です。毎日1時間かけてブログの記事を執筆しての達成だとすれば時給換算333円です。

エンタープライズ1.0への箴言


「有名人や業界人でないとブログで稼ぐのは困難」

宮脇 睦(みやわき あつし)
プログラマーを振り出しにさまざまな社会経験を積んだ後、有限会社アズモードを設立。営業の現場を知る強みを生かし、Webとリアルビジネスの融合を目指した「営業戦略付きホームページ」を提供している。コラムニストとして精力的に活動し、「Web担当者Forum(インプレスビジネスメディア)」、「通販支援ブログ(スクロール360)」でも連載しているほか、漫画原作も手がける。著書に『Web2.0が殺すもの』『楽天市場がなくなる日』(ともに洋泉社)がある。最新刊は7月10日に発行された電子書籍「食べログ化する政治~ネット世論と幼児化と山本太郎~」

筆者ブログ「ITジャーナリスト宮脇睦の本当のことが言えない世界の片隅で」

食べログ化する政治~ネット世論と幼児化と山本太郎~

著:宮脇睦
フォーマット:Kindle版
ファイルサイズ:950KB
発行:2013/7/10
販売:Amazon Services International
ASIN:B00DVHBEEK
定価:300円
内容紹介:政治マニアで軍事オタクでロリコン。彼らが創り出すのがネット世論。ネット選挙が盛り上がらなかった理由はここにある。
そしてネットは政治家も有権者も「幼児化」させる。ネトウヨも放射脳も幼児化の徒花だ。
ネット選挙の解禁により、真面目な議員は疲弊し、誤報や一方的な思いこみを繰り返すものが政治家になった。
山本太郎氏の当選とは「政治の食べログ化」によるものなのだ。