なるほどそのとおり

カタカナで表記すると意味が変わるのか。普遍的な報道に、見栄えや格好良さを求める必要があるのか

番組内での発言や、番組名そのものに外国語を使いすぎているため、理解できずに精神的苦痛を負ったとNHKを提訴した高橋鵬二さんの主張です。「リスク」「ケア」のように外国語を使わなくても表現できる言葉を、わざわざ外国語で表記する必要があるのかと疑問を呈し、より正確に意味を伝えることができる日本語を使わないことを嘆いているのでしょう。売文家業の末席にいるものとして、同意と共に耳の痛い話です。

このニュースを受けてか「教えて!goo」では「なんでもかんでも英語にするな!」と題した記事が掲載され、多くの反響が寄せられていました。「アプルーブル」「オーバーシーズコール」「ウェザーリポート」「アップル ツー アップル」など、珍妙な事例が紹介されていました。そこでわたしも便乗して、なんでも英語や外国語にする連中を

「ルサタイハツンパ」

と呼びましょうと提案します。

独自路線の開拓者

先の単語はこういう意味です。「アプルーブル=許可・認可」「オーバーシーズコール=国際電話」「ウェザーリポート=天気予報」。「アップル ツー アップル(apple to apple)」とは同じものを比較しなさいという意味で、主にビジネスシーンで使われます。これはリンゴとみかんのように異なる物を比較し、リンゴの方が、酸味が少ないと結論づける詐欺同然の商談がまかり通る世界を裏付け、つまり信頼を基本とする日本人社会には馴染まない表現です。

住宅街で呉服屋を営むY社長。織物の行商から身を起こし、いまでは自社ビルを所有するまでに成功しました。バブル期に大量生産品を右から左に流すだけでボロ儲けしていた仲間を横目に、品質にこだわった独自の商品開発により、顧客の信頼を得ることができ、景気の波に大きく影響されなかったことが、いまの成功の要因と誇ります。とはいえ、得意客は命の順番という自然の摂理から年々減っていきます。そこで新しい客を求め、ホームページを開設しました。

唐天竺で存在感を目指すも

独自の商品と言っても、着物は着物です。特に品質にこだわれば、古来の製法に帰着します。しかしその市場は老舗の呉服屋の独擅場です。Y社長曰く、老舗は「ぼったくっている」とのことですが、それが「のれん」の価値でもあります。そこでY社長は「花房友禅」「唐天竺織」「大和絵総手描仕上げ」(※すべて仮名です)と、地域の名前や特徴を冠した独自の名称により差別化を図っていました。大手や老舗と同じ名前では角が立つという、日本人的な遠慮もあってのことです。そしてこれをホームページでも展開します。

ホームページの訪問者の大半は「検索」を経由してきます。呉服屋なら「着物」「友禅」「大島紬」などでしょうか。「天竺織」はあっても「唐天竺織」はありません。残念ながら独自の名称で検索されることはないのです。対面販売の場合、すでにお客と「対面」しているので、独自の名前により存在感を高める演出も効果的ですが、独自の名前で制作されたホームページが検索されることはありません。つまり対面できない=訪問者がいない「ネーミング0.2」です。

言葉とは何か

火を使い、言葉を話し、道具を操るようになり、人類は進化しました。特に言葉の進化により、技術や経験を容易に伝承することができ、群れのなかで危険や安全を共有するようになったことは、人類の発展に大きな役割を果たしました。言葉は通じてはじめて意味を為します。独自の名称で差別化を試みても、通じなければ意味を為しません。独自性の強すぎる名称は、ホームページにおいては不利に働くのです。これは安易な外国語の多用にも通じます。

と、ここまで。本稿において極力外国語を排除してみました。例えば「のれん」という慣用句がありながら、「ブランド」と安易に外国語を多用していたことを反省してのこと。ちなみにIT業界は安易な外国語を怪しい日本語と組み合わせて使うものが多く、例えば『ソーシャルメディア』を「ウィキペディア」では

ソーシャルメディアは、誰もが参加できるスケーラブルな情報発信技術を用いて、社会的インタラクションを通じて広がっていくように設計されたメディアである

と説明します。スケーラブルとは、簡単にシステム拡張ができる状態を表し、「誰もが参加できる」と、「拡張が容易な情報発信技術」の間に相関関係はありません。インタラクションとは相互や交互ですが、そもそも社会に相互性は不可欠であり、ならば「社会的関係性」で適切となる表現に、わざわざ英語を挟み込み意味不明にします。だから、彼らは「ルサタイハツンパ」。

こう区切ります。「ルサタイハツンパ」。逆さに読めば「パンツはいたサル」。群れのなかで通じない言葉を語るものは、パンツをはいて人間のフリをしたサルという意味です。

エンタープライズ1.0への箴言


「通じない単語の多用はサルと同じ」

宮脇 睦(みやわき あつし)
プログラマーを振り出しにさまざまな社会経験を積んだ後、有限会社アズモードを設立。営業の現場を知る強みを生かし、Webとリアルビジネスの融合を目指した「営業戦略付きホームページ」を提供している。コラムニストとして精力的に活動し、「Web担当者Forum(インプレスビジネスメディア)」、「通販支援ブログ(スクロール360)」でも連載しているほか、漫画原作も手がける。著書に『Web2.0が殺すもの』『楽天市場がなくなる日』(ともに洋泉社)がある。最新刊は6月11日に発行された電子書籍「完全ネット選挙マニュアル それは民主主義の進化か、それとも自殺か」

筆者ブログ「ITジャーナリスト宮脇睦の本当のことが言えない世界の片隅で」

完全ネット選挙マニュアル それは民主主義の進化か、それとも自殺か

著:宮脇睦
フォーマット:Kindle版
ファイルサイズ:2204KB
発行:2013/6/11
販売:Amazon Services International
ASIN:B00DCIH9VU
定価:1200
内容紹介:2013年7月21日に予定される参議院選挙より解禁される「ネット選挙」。残念ながら施行される法律はザル法で、壮大なる「社会実験」のようだ。本書は現時点でのネット選挙への懸念と課題を提示すると同時に、ネットを利用した選挙戦において必要充分のノウハウを紹介した、日本初の「ネット選挙マニュアル」だ。
例えば「なりすまし」は規制や厳罰化だけで根絶することは不可能。そこで「なりすまし」を封じる対策が必要となる。しかし、残念なことに政治家はネットに疎く、警鐘を鳴らすポジションのはずのマスコミは無知に近く、さらに専門家の立場である、ウェブ有識者はこれを礼賛するばかりで、問題を指摘しない。国内のIT関連企業はゴールドラッシュと、盛り上げることに普請する。
しかし、選挙とは民主主義を担保する仕組みで、いわば日本の統治機構の重要な土台となるものだ。これがいま、アメリカに支配され、近隣諸国からの攻撃を受けかねない自体であることを指摘する声はない。
本書はネット選挙のマニュアルであるとともに、挑戦的にネット選挙の違法と合法の境目に踏み込み問題点を喝破する警告の書でもある。