日本サッカーのレヴェル

ワールドカップのプレ大会「コンフェデレーションズカップ2013」で、優勝を広言していたサッカー日本代表男子が、早々に予選敗退しました。ブラジルとイタリア、メキシコに引き分けることすらできず、イタリア戦など10年前なら「善戦」「惜敗」と評しても良いのでしょうが「惨敗」です。

対ブラジル戦は点差ではなく内容です。ブラジルは「サッカー」をやっていて、我が代表は「団体演舞」をやっていました。「自分たちの形」にこだわり、自滅したところは「おゆうぎ会」かもしれません。続くイタリア戦はラッキーパンチのPK、香川の美技が光った半回転してのボレーシュート。までは「善戦」です。ここからばたつきます。上手くいきすぎてパニックになったのでしょう、状況を見ずに目の前のボールに動かされます。早い時間の2対0は無失点で折り返さなければならない状況です。ハーフタイムに追いついたという希望を与えないためです。さっくりと希望を与え、後半開始から5分で同点、7分で逆転されます。

結果論から「惨敗」としているのではありません。我らが代表はいまだ「サッカー」という競技の本質に到達していないからです。これが浮き彫りとなったのは「技術レベル」が近づいたからで、技術や戦術という「木」をみていながらも、サッカーという競技全体の「森」が見えていないことに歯噛みします。そしてサッカー中継で、木ばかりをみている人を発見しましたがこれは後ほど。

末端冷え性状態の経済

アベノミクスはどこ吹く風とこぼす中小企業ばかりです。好景気の恩恵が街角に降りてくるまでには1~2年のタイムラグがあるだけでなく、我が国の市場経済は「末端冷え性」になっているからです。2002年2月から69カ月間に渡り好景気が続きましたが、非正規雇用が増えたことで雇用者報酬の総額は減りました。物あまりの日本では、買い手の発言力が強くなるのは、個人消費も企業間取引も同じです。非正規労働者が増え、取引単価が下げられた街角に、好景気という暖かい血は通いません。

いまの状況も同じです。K社長の中堅商社も苦境に立たされています。3カ月連続で売上が前年対比を下回りました。世の中には3カ月連続のマイナスどころではない会社も沢山ありますが、ここ数年、堅調に業績を伸ばしてきたなかで、年末年始の業績ダウンがショックだったのです。そこでリストラに着手します。

それは本質ではない

現行法で正社員を解雇するのは困難です。労働者を保護するメリットと、企業の機動性を鈍くしているデメリットのどちらが大切かをここでは論じませんが、必然的にリストラは下請けや取引先へと向かいます。清掃業者の契約を解除し、10分早く社員に出社させ掃除をさせます。仕入れも数社に競合させ、最安値を提示した業者と取引します。末端冷え性の一因はここにあります。目先の金額が経営判断の最優先事項になったことです。

さらに専門業者に依頼していた、自社サイトの更新を内製化することにします。担当者は営業マン。客の声を知るものなら、客の気持ちに詳しいだろうという理由です。これは正解。企業サイトのウェブ担当者は総務部門が受け持つ事例が多いのですが、サイトは「ネット支店」で、客の声という本質を知る営業マンの視点を活かすべきなのですが、K社長は「本質0.2」。営業マンにサイト更新の作業までさせます。そしてリアルの客に接する時間が減っています。慣れないサイト更新作業を嫌って、営業マンは転職先を探し始めました。営業経験者として断言します。サイト更新のような「無言の作業」は、口八丁手八丁を得意技とする営業マンのもっとも苦手な領域です。

青嶋達也とはニコ動

一般論として営業マンは給料の3倍稼いで一人前といわれます。それだけ稼がなければ、総務部や人事部といった管理部門の人件費や、賃料を含めた経費を賄えないからです。その営業マンにサイトの更新をやらせるのはリストラの本質ではありません。サイト更新にかかる営業マンの時間で生まれるであろう売上と、制作業者への外注費を比較すれば一目瞭然です。最安値の見積もりを集めるために発生する時間ロスも膨大で、わずかな経費に目を奪われ全体で損をしている、木をみて森を見ずの典型例です。我らがサッカー日本代表が口にする「自分たちのサッカー」も木に過ぎません。どれだけ綺麗なパス回しができ、リフティングが1億回できたとしても意味はありません。点を取り、点を与えないところにサッカーの「本質」があるからです。

コンフェデレーションズカップで木だけをみていたのは、フジテレビの青嶋達也アナウンサーです。彼は早い得点による落とし穴といった試合の勘所を実況しません。選手の所属チームや別名などのトリビアは語りますが、イタリアチームは伝統的に『カテナチオ』と呼ばれる堅守からの速攻を得意とすることには触れません。決定的なシーンでは、選手の名前を連呼するだけでは、まるで「ニコニコ動画」に流れる投稿です。選手名やトリビアはサッカー中継において「木」にすぎません。

エンタープライズ1.0への箴言


「リストラの本質は費用対効果」

宮脇 睦(みやわき あつし)
プログラマーを振り出しにさまざまな社会経験を積んだ後、有限会社アズモードを設立。営業の現場を知る強みを生かし、Webとリアルビジネスの融合を目指した「営業戦略付きホームページ」を提供している。コラムニストとして精力的に活動し、「Web担当者Forum(インプレスビジネスメディア)」、「通販支援ブログ(スクロール360)」でも連載しているほか、漫画原作も手がける。著書に『Web2.0が殺すもの』『楽天市場がなくなる日』(ともに洋泉社)がある。最新刊は6月11日に発行された電子書籍「完全ネット選挙マニュアル それは民主主義の進化か、それとも自殺か」

筆者ブログ「ITジャーナリスト宮脇睦の本当のことが言えない世界の片隅で」

完全ネット選挙マニュアル それは民主主義の進化か、それとも自殺か

著:宮脇睦
フォーマット:Kindle版
ファイルサイズ:2204KB
発行:2013/6/11
販売:Amazon Services International
ASIN:B00DCIH9VU
定価:1200
内容紹介:2013年7月21日に予定される参議院選挙より解禁される「ネット選挙」。残念ながら施行される法律はザル法で、壮大なる「社会実験」のようだ。本書は現時点でのネット選挙への懸念と課題を提示すると同時に、ネットを利用した選挙戦において必要充分のノウハウを紹介した、日本初の「ネット選挙マニュアル」だ。
例えば「なりすまし」は規制や厳罰化だけで根絶することは不可能。そこで「なりすまし」を封じる対策が必要となる。しかし、残念なことに政治家はネットに疎く、警鐘を鳴らすポジションのはずのマスコミは無知に近く、さらに専門家の立場である、ウェブ有識者はこれを礼賛するばかりで、問題を指摘しない。国内のIT関連企業はゴールドラッシュと、盛り上げることに普請する。
しかし、選挙とは民主主義を担保する仕組みで、いわば日本の統治機構の重要な土台となるものだ。これがいま、アメリカに支配され、近隣諸国からの攻撃を受けかねない自体であることを指摘する声はない。
本書はネット選挙のマニュアルであるとともに、挑戦的にネット選挙の違法と合法の境目に踏み込み問題点を喝破する警告の書でもある。