橋下徹発言の問題点
橋下徹 日本維新の会共同代表のいわゆる「慰安婦」と「風俗活用」への発言が物議を醸しています。後者はさすがに発言を修正しましたが、本稿執筆時点(2013年5月20日時点)において、前者は発言を撤回しません。彼が言う政府の見解を踏まえたものというのは間違いではありませんし、世界に反論すべきはしなければならないという主張は、ネットを中心に一定の支持を集めるのも頷けます。しかし、特にネットの盛り上がりを見るに、一抹の恐ろしさを覚えるというのが今回のテーマ。それは会社員生活でも、まま経験することです。
そもそも「歴史的事実と歴史認識」は異なるもので、国家と民族にはそれぞれの歴史があり、大河ドラマ『八重の桜』で長州藩がおざなりに描かれるのは、会津側から見れば当然です。下世話な話しに置き換えれば、別れたカップルが語る別れの理由が、それぞれ異なることと同じです。また別れ話を「盛る」人は珍しくないことからみれば、多国間における共通の歴史認識など幻想だと容易に想像できることでしょう。だからと橋下発言を擁護するものではありません。政治家の発言は歴史を作るものであり、TPOをわきまえなければならないからです。そしてなにより、橋下発言の本当の問題点を私たちは知らなければなりません。
担当者の更迭に至る
それじゃあ次のポストで頑張ってくれたまえ。
物流会社のM社長はウェブ担当者を更迭しました。職責を担う能力を有しないという事実上の降格処分です。経営者同士の交流会で紹介されたウェブコンサルタントに、ホームページに掲載された情報が少なく、同業者に比べて見劣りすると指摘されたことがきっかけです。引き合いに出された同業者は、M社長がライバル視している企業であり、個人的感情も加わり、会議の場で公開処刑のようにウェブ担当者は糾弾され、先の人事が下されたのです。
ホームページの成否を決めるのは情報量です。ユーザビリティやランディングページ、SEOなど、いくつもの方法論がありますが、情報量に勝る結論はありません。仮に使い勝手が悪く、表示が遅いサイトであっても、必要充分の情報が掲載されていれば、ユーザーは我慢を受け入れ閲覧してくれるからです。利用しやすさを意味するユーザービリティは、情報があるという前提ではじめて活きてくる方法論なのです。
歴史の審判
そもそもは雑事を押しつけられることの多い、総務部にいたことからの任命です。しかし、前任者は熱心に勉強していました。ウェブ担当者に任じられるまでは、ネット通販をときどき利用するぐらいで、特段ネットに詳しいわけではありませんでしたが、同業者に留まらず、各業界を調べる中で「情報量」の重要性に気がつきます。特に「客の声」です。消費者向けではないビジネスサイトでも、取引先など客の声の掲載は必須と考え、M社長が臨席する「御前会議」で提案します。
当初は提案にM社長も頷きます。そこに営業部長が「客を奪われる」と異議を申し出ます。情報公開することで、取引内容を研究したライバル社が営業攻勢をかけるというのです。当時、懇意にしていた経営コンサルタントがこの意見に同意します。さらに「組織図」などの公開も、他社に研究されるので削除した方が良いと進言します。すると堰を切ったように「ネガティブキャンペーン」がはじまり、ホームページはいらないという極論まで飛び出す始末です。
そして「最小限の情報掲載」という方針が、会社の総意として決定され、前任者はこれに従います。その決定を遵守した結果、更迭された「歴史認識0.2」です。
橋下発言の本当の問題点とは
時間の経過とともに、議論の過程が忘れ去れられることがあります。歴史を結果だけでみることが致命的である=0.2な理由は、結論に至る過程にあったはずの「問題点」を見つめないことで、何年経っても同じ過ちを繰り返してしまうことです。橋下氏の発言にも重なります。
ネットを中心に橋下発言を擁護する声があります。ワイドショーに生出演して発言する橋下氏の言葉に心を動かされているネットの住民も散見しました。彼は発言を微調整し、論点をすり替える達人です。しかし、そもそもの発言の全文を見れば、村山談話について問われ「侵略」という言葉の定義と歴史観を語った後に、「従軍慰安婦問題だってね」と議論を持ち出したのは橋下徹氏で「口が滑った」ことは一目瞭然です。彼はタレント時代から数々の「舌禍」を起こしており、コスプレ不倫が発覚した当初も軽口を叩き、家庭内で猛バッシングを受け、翌朝には手のひらを返し神妙に釈明していたことは記憶に新しいところです。そういう粗忽な人間性が今回の発言の「問題点」なのです。
日本の対外評価へ一石を投じることになったのは「結果論」です。また、いずれ「舌禍」を起こし、次は今回以上の国益を怖れる可能性をわたしは懸念します。余談ながら「維新の会」は選挙互助会的性格が色濃く、この路線の先達は「民主党」です。わたしたち日本国民はこの超近代政治史から、何かを学んだのか、学ばなかったのか。夏の参院選挙でひとつの結論がでるかもしれません。
エンタープライズ1.0への箴言
「議論の過程を忘れない」
宮脇 睦(みやわき あつし)
プログラマーを振り出しにさまざまな社会経験を積んだ後、有限会社アズモードを設立。営業の現場を知る強みを生かし、Webとリアルビジネスの融合を目指した「営業戦略付きホームページ」を提供している。コラムニストとして精力的に活動し、「Web担当者Forum(インプレスビジネスメディア)」、「通販支援ブログ(スクロール360)」でも連載しているほか、漫画原作も手がける。著書に『Web2.0が殺すもの』『楽天市場がなくなる日』(ともに洋泉社)がある。