純粋主義な商売人

某地方自治体が主催する「地域SNS」から、「緊急」と題したメールが入りました。このSNSは域内事業者の交流を目的としたもので、自治体の経済産業担当部署と密接な関係があります。

企業の社長と俳優が対談し記事にまとめるというオファーが関西の雑誌社からあり、その際に俳優の「足代」として7万円を支払って欲しいといいます。これを怪しんだ自治体担当者からの緊急メールで、そこには専門家として中小企業診断士のコメントも添えられていました。

「効果と費用を考えて賢明に対処した方が良い」

早朝一番にこのメールをチェックして吹き出してしまいました。まず、「専門家」に期待される効果と費用の妥当性が紹介されておらず、第一にこの「取材」の正体を明示せずに「賢明に対処」という無責任さです。そして、「緊急」とあわてふためいた様子を想像して、笑いを抑えることができなかったのです。

SNSには「詐欺だ」という意見が多数書き込まれ、体験談を語る事業者まで登場しました。ネタばらしをすれば、「記事広告」の売り込みで詐欺でも何でもありません。ところが純粋で無知なセンセーが現場を混乱させます。

金でつながる友情があってもいい

記事広告とは「記事風」に仕立てられた広告で、枠外に「広告」「PR」とはいっており、記事とは区別されています。これを「詐欺」とするなら、ほぼ全ての新聞雑誌は詐欺行為を働いていることになるぐらいポピュラーな方法です。前述の専門家を補足するなら、効果は媒体と記事の中身で、費用は紙面の割き方で異なります。 

5万円から10万円が一般的で、さらに類似の「タイアップ記事(広告)」まで範囲を広げると、費用は青天井です。いわゆる「広告」と違い、「記事」に仕立てることで精読率が期待でき、記事広告を「取材歴」と公表している企業もあります。

SNSにこんな体験談も寄せられました。

「断ることができなくなってから料金を請求された」

もちろん、これが本当なら詐欺です。しかし、「商売人」ならば承諾していない取引としてはねのけるのが正しい対応です。ただ、実際に私の所にもこうした「売り込み」は何度もありますが、料金を明示しなかったケースはありません。聞き逃していたか、書面で確認していなかったとすれば商売人失格で、何より記事広告ぐらいで詐欺だと騒ぐのは幼すぎます。

センセーと呼ばれるほどのバカじゃない

メルマガでは「広告」を募り、広告主を友人として紹介しているコトはよくあることです。このとき新聞雑誌のように枠外に「PR」とは入ることはありません。彼らはこれを「友人詐欺」と騒ぐかも知れません。しかし、情報起業家やIT系の社長のブログやメルマガには、数多くの「友人」が登場します。それでは、そもそも友人の定義とは何でしょうか。飲みに行った回数、同窓生であること、感性、それとも取引関係の有無。断定する答えを私は持ちません。

「人の心は金で買える」

といった社長がいました。彼が逮捕されると、その友人と名乗る女社長はメディアの取材に、逮捕直前の彼の様子を庇うこともせずに細かく語っていました。「メリット」を基準に友人を選ぶのであれば、広告主や取引先は親友となるでしょうし、塀の向こう側に落ちたものに気を遣う必要はなくなり、メディアとの関係を優先するほうに利益を見つけるのではないでしょうか。そして、今日もどこかで友人が換金されているのが商売現場の残酷なリアルです。

記事広告の取材申し込み=テレフォンアポイントメントを「詐欺」と断じた人たちの肩書きを記します。

・税理士
・弁理士
・司法書士
・中小企業診断士

みな「センセー」と呼ばれる職業です。

ルールの中で商売をしている人たち

記事広告について正確な情報を提供したセンセーは皆無でした。中には取材するタレントの名前を挙げた後に、詐欺の実例を紹介し、まるでそのタレントが詐欺行為を働いているかのように述べるセンセーまでいました。記事広告を詐欺と断じることが名誉棄損、または営業妨害にあたるのか否かはこれまたセンセーと呼ばれる法律家の判断に委ねたいところですが、詐欺と誹られる雑誌社にとっては迷惑な話です。

日頃「センセー」と呼ばれる彼らは、「士業」として法律に則り商売をしています。そして税制、特許、公文書などそれぞれの専門家であることは認めますし、軽んじるつもりはありませんが、商売のエキスパートとは限りません。

さらに踏み込んでいえば、「法律が商売道具」である彼らのほうが特殊な世界に生きています。互いの合意だけで取引が成立する「普通の商売」と違い、常に法律の裏付けを求められます。そして、明記されていないものを非難する純粋主義に陥ります。そんな純粋無知な「センセー0.2」が商売現場を混乱させたのが、今回の詐欺騒動の真相です。

SNSで「最初に広告と告げろ」と述べるセンセーもいました。広告といった刹那、受話器を置かれるテレアポの実態を知っていれば論外です。メルマガで「早速広告費を振り込んでくれたミヤワキさんの話だが」と切り出して、クリック率が上がるでしょうか。悪質な広告手法を肯定するものではありませんが、広告や営業活動にグレーゾーンはつきもので、それを「詐欺」だと騒ぐのは幼い・・・純粋で社会を知らなすぎます。

エンタープライズ1.0への箴言


「士業は特殊な商売。専門家の領空侵犯は危険」