離婚と政治の相似形
ここ数年「離婚式」なるものをメディアで見聞きするようになりました。「離婚式」はともかく、「離婚」に向き合う習慣が定着することは歓迎します。それは「その後」を考えずに離婚した人を何人も見ているからです。別れた後も生活は続きます。子供がいれば養育義務と負担が発生し、姓を戻すなら繁雑な事務手続きに追われることになります。また、共同名義で不動産を持っていればさらに面倒です。さらに世界は驚くほど狭く、別れた後もどこかで接点があることは珍しくありません。こうした「その後」の「損得」を考えることにより、安易な離婚を減らすことができるからです。
わたしは離婚そのものには反対しませんが、安易に離婚する人は自己を正当化する傾向が強く、自省をしないどころか、年を重ねるごとに、責任を周囲に求めようになり、「その後」に周囲に迷惑を掛ける確率が高まります。あくまで経験則ですが迷惑です。
準備中で5年間
独立系ビジネス誌のB社がサーバを変更したのはこの春でした。出版業界は大小問わずにネット対応が遅く、B社は10年前にドメインを取得したものの活用にはほど遠く、最初の5年近くは
「準備中」
とだけ表示されていました。
5年前に雑誌の取材で知り合った大手上場IT企業の関連会社に委託を始めてから本格的な運用が始まります。「ホームページレンタル(仮称)」と名乗るサービスで、契約期間は5年間の固定で途中解約には違約金が発生しますが、月額5万円さえ支払えば、無制限にサイトを更新し、管理してくれるというものです。準備中で放置するよりはマシだろうと決断します。
これは一般論ですが、長期契約は変化の激しいIT利用においては不利です。サーバの利用料1つとっても、1年単位で単価が下落しますし、業者の立場に立てば既存ユーザーのための設備投資やサービスを充実するインセンティブが働かないからです。契約の解除条項はかならず検討しておく必要があるでしょう。
移転を決意したら鳴る電話
まず更新作業が滞り始めます。当初は更新依頼から即日、あるいは翌日には更新されていたものが、最長で2週間後になります。契約上は10営業日以内となっているので契約違反ではありません。また「以内」ですから、いつ更新されるかは約束できないことも契約書に明記されています。B社の主力は月刊誌とはいえ、これでは新刊の発売日にあわせることも困難です。また、あまり早く更新されればライバル誌に後追い記事をぶつけられては目も充てられません。
そこで契約満了の直前に別のサーバ会社に移転することにしました。この5年のあいだに、ブログを更新するぐらいの手間でホームページを管理できる「CMS」が主流となっており、編集部が記事を書くついでに新着記事を公開できる仕組みが用意されていたことも理由です。
初夏も終わり、本格的な夏の暑さを迎えようとしていたころ、B社の代表電話が鳴り「ホームページが見られない」と読者からクレームが入ります。社内からは閲覧可能なのに、見られないという声が日に日に増えていくのです。
ビジネス誌のビジネス知らず
原因は「検索エンジン」です。
サーバ会社を移転する際にドメイン名を、それまで使っていた「.co.jp」から、「.com」に変更しました。深い理由はなかったのですが、離婚に際しケータイアドレスを変えて気分をリフレッシュするようなものです。そして旧アドレスの旧サイト上に「新アドレス」を記し「移転しました」と掲載します。契約の残り期間、表示しておけば間に合うだろうという目論見です。しかし「雑誌名」で検索すると旧アドレスの旧サイトが表示されます。検索エンジンは分類上、前者を「日本国内の企業」とし、後者は「アメリカの企業及び団体」と区別します。つまりそれまでの「雑誌名」による検索結果の「.co.jp」を「.com」という新アドレス・サーバへ勝手に書き換えることはありません。そして、旧サーバとの契約が切れたと同時に「見られない」とクレームが殺到した「移転0.2」です。社内から閲覧できたのは「新アドレス」を直接入力していたから。社員が見られても読者が閲覧できなければホームページの意味はありません。
0.2とは旧サーバ側への評価です。なぜなら、旧サーバ側に数行のコマンドを記しておくだけで、訪問者は意識することなく、新アドレスの新サイトにアクセスできるようにすることができるからです。いわば郵便事業会社における郵便物の「転送届け」のようなもので、検索エンジンもこの「転送届け」をもとに訪問先を書き換えます。ところが旧サーバ側は「新アドレス」への掲載依頼を受けておきながら、「その後」を考えた適切な提案をしませんでした。まるで別れたあとの妻が損するようにと画策するケチな旦那のようです。
ところで間もなくと噂される「総選挙」。国民は自民党と離縁して、民主党と再婚しました。そして、いまふたたび「日本維新の会」とのロマンスが浮上しています。果たして、われわれは「その後」を考えて選択できていたのでしょうか。
エンタープライズ1.0への箴言
「結婚も取引も終わり際が大切」
宮脇 睦(みやわき あつし)
プログラマーを振り出しにさまざまな社会経験を積んだ後、有限会社アズモードを設立。営業の現場を知る強みを生かし、Webとリアルビジネスの融合を目指した「営業戦略付きホームページ」を提供している。コラムニストとして精力的に活動し、「Web担当者Forum(インプレスビジネスメディア)」、「通販支援ブログ(スクロール360)」でも連載しているほか、漫画原作も手がける。著書に『Web2.0が殺すもの』『楽天市場がなくなる日』(ともに洋泉社)がある。