洗脳とオウムと脱原発のカンケイ

オウム真理教(現アレフ)の最後の特別手配犯・高橋克也容疑者が逮捕されました。17年間の逃亡生活を経てもなお、オウム真理教を信仰しているようです。今なお解けぬ「洗脳」の恐ろしさ……と自分と切り離して考えるのは危険です。

女性漫才コンビ「オセロ」の中島知子さんが、自称元占い師に洗脳されていたと報じられたように、条件が揃えば誰でも洗脳されてしまうからです。実は、毎日の朝礼で社訓を唱和させる「社員教育」などもその一例で、繰り返し耳にすることで無意識レベルに情報が刷り込まれます。これを強めたのが「洗脳」であり、刷り込まれた思想を絶対視し、異なる価値観や情報を排除するようになります。

今、「脱原発」を叫ぶ声にも洗脳の匂いを感じます。あらかじめ断っておきますが、東芝EMI(現EMIミュージック・ジャパン)が忌野清志郎さんのレコード発売を拒否する以前から、筆者は「脱原発派」です。しかし、昨今のムーブメントに眉根を寄せる理由は後半に。

子飼いのWeb担当者を任命

オウム真理教は教祖を頂点とするヒエラルキーを背景としていたことから、洗脳は立場が上の者から下の者へ行われるものと思われがちですが、社会的な立場は関係ありません。教祖のそばにいる時間の長さと両者の関係性が重要です。

住宅設備会社のE社長は、社長就任を機にWeb部門の人事を刷新しました。大手ネットショッピングモールでコンサルタントをしていた社員を自ら採用し責任者に任命します。総務部が窓口となり、出入りのホームページ制作業者の提案をもとに更新していたスタイルを一新し、社長を筆頭に主体的に情報発信していくための体制作りと発表します。E社長は創業者の息子で社長就任は既定路線でしたが、古参社員が多く残る経営陣の中では思うに任せないことも多く、Web部門なら自分の好きなようにでき、そこに子飼いの社員が欲しかったことが新体制の本当の理由でした。

コンサルで重要なのは中身ではなく……

リニューアルでは「コンペ」が採用されました。いくつかの制作会社に声をかけ、互いに競わせます。中小企業の商慣行として、こうした事前活動は「お付き合い」とタダ働きを強要することが珍しくないなかで、寸志程度でも「コンペ費」を支払えと主張する元コンサルタントをE社長は一目置くようになります。

そして、矢継ぎ早にツイッターやFacebookの活用を提案する手際の良さに心酔します。マスコミで見かける著名人の裏話から大手企業の舞台裏まで話題が豊富で、次第に元コンサルタントを脇に置き、何でも助言を求めるようになりました。

「コンサルタントの仕事は、顧客に自分が必要だと思わせること」。既に鬼籍のベテラン中企業診断士が酒の席で教えてくれた極意です。別のコンサルタントは「アドバイスの中身は重要ではない」として、自らの仕事を「要するに洗脳」だと悪びれもしません。

元コンサルタントが手がけたリニューアルは「見た目」だけでした。既存のコンテンツを作り替えただけです。ツイッターやFacebookに新奇性はありません。大企業ほど仕事が細分化されていくのはIT企業でも同じで、コンサルタントとは別の業界で「顧客担当者」と呼ばれる職種に当たり、クライアントの社長に取り入ることには長けていましたが、コンテンツを企画する能力は持ち合わせていなかったのです。

しかし、E社長は心酔し、彼の言葉を疑いもしません。つまりは「洗脳0.2」です。ちなみに、「裏話」と題して「ウソ話」をするコンサルタントを何人も知っています。そして数々の「助言」も、E社長が望みそうな答えを提供しているだけで、それに満足しているのですから、やはり「中身は重要ではない」のでしょう。

洗脳を解くカギは?

脱原発に洗脳の匂いを感じるのは、彼らの論拠が特定のジャーナリストや団体に限られていることです。さらに「脱原発」か「再稼働容認」かの二抗対立で煽るのも気になります。それは、教祖の教えを絶対とし、教団外のすべてを敵視したオウム真理教に重なるからです。こうした傾向はネットに顕著で、同じ著名人の発言をリツイートして、Facebookで「いいね!」をクリックします。「デモ」は主催者発表の数字を盲信し、「再稼働」を悪魔の所業のように非難します。しかし、脱原発によりパラダイスがやってくるかの主張は「洗脳」を越えた「カルト」です。

今すぐに脱原発となれば、まずは原発施設を解体するための廃炉費用が発生します。廃炉費用は稼働しながら積み立てることが義務付けられていますが、満期になるのは40年後で、関西電力に至っては積立額の不足が株主総会で明らかになりました。次に、未使用の核燃料と使用済みの核廃棄物を保管するための施設を建設し、それを維持管理する費用と、そのためのテクノロジーの研究費も必要です。

脱原発の大義として、未来の子ども達にツケを残さないためという主張もあります。フィンランドでは最終処分場を10万年のスパンで用意しており、それに準じるなら同じく10万年分の予算をどう捻出するかを考えるのが、自らの発言に責任を持つ大人の態度というもの……なのですが、昨今の「脱原発」の主張で費用負担が熱心に論じられないのは残念でなりません。

燃料の「ウラン」が数十年で枯渇し、無毒化するまでに膨大な時間と天文学的費用が発生するのを知ったのは、1986年の「チェルノブイリ」がきっかけでした。そして、超長期で見て「経済合理性」が悪いと知って以来の「脱原発派」です。インターネットのない時代でしたが、図書館や本屋で調べて事実を知ります。当時、筆者は高校生で、昨年の事故はチェルノブイリからちょうど四半世紀でした。ネットが普及した現在、「知らなかった」と声高に叫ぶ大人の多さに閉口します。

エンタープライズ1.0への箴言


「同じ人の話ばかりを聞いていてはいけない」

宮脇 睦(みやわき あつし)

プログラマーを振り出しにさまざまな社会経験を積んだ後、有限会社アズモードを設立。営業の現場を知る強みを生かし、Webとリアルビジネスの融合を目指した「営業戦略付きホームページ」を提供している。コラムニストとして精力的に活動し、「Web担当者Forum(インプレスビジネスメディア)」、「通販支援ブログ(スクロール360)」でも連載しているほか、漫画原作も手がける。著書に『Web2.0が殺すもの』『楽天市場がなくなる日』(ともに洋泉社)がある。

筆者ブログ「マスコミでは言えないこと<イザ!支社>」