やっぱり動く原発
関西電力大飯原子力発電所が再稼働にむけて準備が進められています。安全性を理由に難色を示していた関西広域連合が、再稼働を容認したことで舵が切られたわけですが、「計画停電」を避けたい企業の要請に従っただけという批判の声も上がっています。
しかし、企業には社員があり、そこでの労働対価が彼らの生活を支えます。企業が生産拠点や活動の場を、電力が充分に供給されている「関西以外」に移転した時に、そこで働く社員は共に移住するか、職を失うことになります。企業を守るとは、そこで働く市民を守ることと同義です。
実際に電気が止まれば、批判は政治に向かいます。真夏の午後に電気が止まれば、エアコンはもちろん、冷蔵庫も停止するのでコンビニもスーパーマーケットも営業停止を余儀なくされます。原発を再稼働せずに電力が足りる可能性を指摘する専門家もいますが、それは「やってみなければわからない」という博打的な発想で、府民県民、そして市民の命を預かる最高指揮官として下せる決断ではない……とは、計画停電体験者としての感想です。実際に電気が止まって文句を言わない市民は稀です。
「ストレステスト」はクリア済
そもそも、原発の「安全性」は「ストレステスト」をクリアしています。「ストレステスト」とは原子力発電所の安全性を確認する作業で、事故や災害を想定し、コンピュータによるシミュレーションや、設計時の耐久性を数字で確認します。チェック内容は国際原子力機関(IAEA)もお墨付きを与えており、一応の結論はすでに出ていたのです。「原発は不要」という立場からの異論もありますが、ならばそもそもが「ストレステスト0.2」だったと言えます。
配送業のS社が専用の配車管理システムの開発に着手したのは、同業者に便乗してのことでした。「オリジナルのソフトを開発しているから一枚噛まないか」と誘いを受けたのです。共同で開発すれば1社当たりの負担が軽くなると言います。カスタマイズ費用がかかるので、単純に半分にはならないが、仮に総費用が1,000万円かかるとしても、600万円ぐらいで収まるというのです。しかも、ほぼ完成しているのですぐにでも導入できると水を向けられ、その気になりました。
しかし、運用が開始されたのは当初予定の2年後。運用が遅れた理由は「ストレステスト0.2」だったからです。
マニュアル、テストすべてが「運用しながら」
妥当な延期でした。専用ソフト開発はソフトハウスに丸なげしており、S社の担当者は役員1人だけで、彼の主な仕事は、ソフト会社が報告する進捗状況を社長に伝えることだけでした。例えば、プリントアウトされた画面をもとに行われる説明はすべて口頭であり、やっていることは「伝言ゲーム」です。
当初予定していた運用開始まで1ヵ月を切った頃、実際に管理システムを利用する社員が役員に質問します。
「マニュアルはないのですか?」
稼働する前にシステムの操作方法を覚えておこうという殊勝な心がけに、役員がソフトハウスに確認すると「ありません」という回答がありました。「操作方法は使って覚えてもらうもの」と続けます。それでは、「テスト期間はどれぐらい見ているのか?」と再び社員から質問がありましたが、それも「実際に運用しながら」というソフトハウスから回答あり。「それはありえない」と三度社員。
そして、「どんなトラブルが発生するかもわからないシステムは危険」と主張します。実はこの社員、前職はソフトハウスのプログラマーで、業界のやり方に通じていたのです。さらに、彼は「基本システム以外できていない可能性が高い」と予言します。
ストレステストの目的
役員が問い詰めると、ソフトハウスの担当者は言葉を濁らせながら概ね事実を認めます。企業向けのソフトハウスのなかには、基本の部分を作ってから導入させ「保守」と称して会社に入り込み、徐々に仕上げていくやり方を取るところがあります。実用に沿って構築できるメリットはありますが、反面、当初は使い物にならないケースも少なくありません。
一般的なソフトウェアは、製品化する前に入念な「テスト」を繰り返します。筆者がコンビニエンスストアのPOS開発に従事していた時は、1億円分の「ガリガリ君」の購入や1,000万円を超える東京電力の支払いがあった場合など、さまざま「ストレス(状況)」を与えてテストしたものです。
ところが、テストもそこそこに、実際の業務で確認していくこのやり方は「ストレステスト0.2」です。実際、指摘した社員に検証させると、実業務の半分以下の機能しか装備されておらず、実務に耐えられるようになるのになったのが2年後だったのです。「0.2」であったのは同業者の目論見でもありました。S社で稼働し「安全確認」ができてから自社に導入する計画。つまりS社で「ストレステスト」をしていたのです。
福島の事故を受けて世界中で実施された「ストレステスト」とは、そもそも「継続稼働」や「再稼働」という目標のために行われたものです。もちろん、不合格なら改善、最悪の場合は「廃炉」も選択肢にありますが、そもそも「稼働ありき」で行うのが「ストレステスト」なのです。なぜなら、「稼働ありき」でなければ安全性を確認する必要性などなく、「廃炉」に向けて動き出すものだからです。つまり安全が確認されてから、稼働の可否を判断するという政府のスタンスそのものが「0.2」なのです。
エンタープライズ1.0への箴言
「テスト導入と実戦投入は異なる」
宮脇 睦(みやわき あつし)
プログラマーを振り出しにさまざまな社会経験を積んだ後、有限会社アズモードを設立。営業の現場を知る強みを生かし、Webとリアルビジネスの融合を目指した「営業戦略付きホームページ」を提供している。コラムニストとして精力的に活動し、「Web担当者Forum(インプレスビジネスメディア)」、「通販支援ブログ(スクロール360)」でも連載しているほか、漫画原作も手がける。著書に『Web2.0が殺すもの』『楽天市場がなくなる日』(ともに洋泉社)がある。