ストップ! 射幸心
ソーシャルゲーム各社が「コンプガチャ」を廃止すると発表しました。ソーシャルゲームを有利に進めていくには「カード」を購入する必要があります。ただし、「カード」はカプセルトイ販売機「ガチャガチャ(ガチャポン)」のようにランダムで販売され、必ずしも欲しいカードを入手できるとは限りません。
「コンプガチャ」とは、指定された条件の「カード」を「コンプリート(揃える)」することで希少性の高い「レアカード」を入手できる仕組みで、レアカード欲しさに大金を注ぎ込んでしまう射幸性の高さが社会問題になっていたのです。ちなみに、「ガシャポン」はバンダイの登録商標です。
迅速な自主規制を評価する声がある一方、NHKの番組に出演したインターネット問題に明るい紀藤正樹弁護士は、ソーシャルゲームそのものへの法的規制を呼びかけます。エンディングを迎えないゲーム構造により、ユーザーが疲弊することの社会損失と経済的損失を懸念してのことです。
ネット業界の核心に迫る問題提起に頷きました。ネット業界ではこうした問題をいつも「自己責任」として放置し続けてきたからです。ただし、「レアカード」の「売買」を「パチンコ・スロット」と同じだという主張は強引です。その理屈を採用するなら、「切手」や「トレカ」といったすべてのコレクターズアイテムを規制の対象としなければならないからです。
ソーシャルゲームは新産業か?
同番組では、国際大学GLOCOM客員研究員の境真良氏がソーシャルゲームを海外向けの「新産業」と主張し、擁護する立場からコメントをしていました。こちらはもっと頷けません。なぜなら、ソーシャルゲームの隆盛は、日本が世界に誇ったゲーム開発のレベル低下を招きかねないからです。
ソーシャルゲームの提供会社は、徹底的にユーザーの行動を分析しています。どのイベントに何人が参加し、レアアイテムを何パーセントが購入するかを記録し、データ解析の専門家を大量に動員して「金を払うメカニズム」を調査しており、「今ではユーザーが金を払うタイミングをほぼ正確に予測できる」とは、某ソーシャルゲーム会社の幹部の話。
その結果、アイドル、人気アニメ、恋愛ものと、舞台やシチエーションを差し替えただけのソーシャルゲームが量産されています。極論すれば、「タイトルとキャラが違うだけの同じ中身のゲーム」ということです。
もちろん、ビジネスですから、金儲けを否定はしませんが、優秀なクリエーターが「差し替え」ばかりをやっていれば、日本のゲーム開発レベルの低下は自明です。儲かれば良いことづくめというわけではないのです。
不正操作ならパチンコと同じ
A社長もビジネスとして「レアカード」を扱っています。A社長が扱うのは「トレカ」と呼ばれるカードゲームで、中古市場が成立しており、希少性の高いカードは「レアカード」と呼ばれ高値で売買されています。「レアカード」は宝くじや駄菓子屋の「アンコ玉」の当たりと同じく、1つのセットに何枚と割り当てが決まっています。
反対に、先の紀藤正樹弁護士の「ソーシャルゲーム=パチンコ」説を補強するなら、レアカードの出現率の作為的な変動、つまり「残り一枚になると揃いにくくなる仕組み」がないかどうかを議論にすべきでしょう。パチンコにおける大当たりしにくい状態となる「逆確率変動」の規制です。現物を扱う「トレカ」と違い、電子情報にすぎないソーシャルゲームの「レアカード」は最後の1枚を出しにくくすることは造作もなく、現在は取り締まる法律が存在しません。
さて、トレカの「レアカード」も「ネット」では高値で売れます。そこで、A社長は店頭でレアカードを買い取ると自社サイトで販売することにしました。店頭には近所の小学生しか来店しませんが、ネットなら全国の小学生に加えて、「大きなお友達」と呼ばれる大人が「大人買い」してくれるからです。しかし、この儲け方は両刃の剣です。
売れるから困る世界
中古トレカは「回転率」で稼ぎます。すべてのレアカードを「コンプリート」する財力のある小学生は珍しく、別のレアカードが欲しい時は手持ちのレアカードを放出します。これを買い取り、別の小学生に売る繰り返しが「回転率」です。1回当たりの儲けは少なくても、地元の子供相手の売買なら、1枚のレアカードが2回転、3回転して儲けが積み上がるのです。
反対にネットで売ると、1回当たりの利益は多く取れます。しかし、それは1回限りです。日本全国に散らばったレアカードを回収するのは不可能ですし、購入者が「転売」する時は、ネットにひしめく同業者との競争に晒され、儲かる値段で買い取ることは困難となります。おまけに、店頭では「レアカードを置いていない店」という悪い評判まで立つ「レアカード0.2」。息の長いお客の確保が長期的な成功へと繋がるのはどの商売でも同じです。
ソーシャルゲームの擁護派である境真良氏は「海外向けの輸出コンテンツに育てるべき」と主張します。そして、ソーシャルゲーム各社は「コンプガチャ」の撤退と絡めて、「海外展開」を強調し始めました。
しかし、ソーシャルゲーム各社の海外進出は昨年から始まっており、今のところ思う成果を上げられていないのが実情です。先の幹部によれば、国内で構築した「儲かる仕組み」が海外で通じずに苦戦しているのこと。ゲームの利用者が増えても集金できなければ商売になりません。「iモード」で携帯サービスに課金されることに慣れている日本人との違い……だけではないというのが筆者の見立てです。
お金を払えばゲームを有利に進めることができる「レアカード」という発想そのものが、「エコノミックアニマル」と揶揄された日本人だけが理解できる価値観なのかもしれません。
エンタープライズ1.0への箴言
「儲けの流れを考える」
宮脇 睦(みやわき あつし)
プログラマーを振り出しにさまざまな社会経験を積んだ後、有限会社アズモードを設立。営業の現場を知る強みを生かし、Webとリアルビジネスの融合を目指した「営業戦略付きホームページ」を提供している。コラムニストとして精力的に活動し、「Web担当者Forum(インプレスビジネスメディア)」、「通販支援ブログ(スクロール360)」でも連載しているほか、漫画原作も手がける。著書に『Web2.0が殺すもの』『楽天市場がなくなる日』(ともに洋泉社)がある。