鳩山大臣への幾つかの疑問
郵政民営化のプロセスとして、「かんぽの宿」をオリックスに一括売却するプランが所管大臣の鳩山邦夫さんの「ノー」で頓挫しました。簿価123億円に対して109億円の入札価格が安すぎるという指摘から始まり、土地代約300億円、建設費が約2100億円の総額約2400億円投じていると強調します。
しかし「価格」を軸に問題提起するなら、簿価123億円に過ぎない土地を300億円で購入していることでつまづくのではないでしょうか。人気アイドルグループの「メンバー」の酩酊事件に「最低の人間だ(翌日撤回)」と激高し、国際舞台で酔拳を披露したお身内にコメントしない我田引水ぶり……いや、バランス感覚が鳩山大臣の特徴なのかもしれません。
癒着による利益供与という指摘や、郵政「公営化」への布石だと見る向きもありますが、ともあれ「かんぽの宿」は「グリーンピア」「私のしごと館」と重なる「ハコモノ行政」です。ハコモノはお役人様の得意技かと思いきや、街角の中小企業でもよく目にし、その類似性に驚きます。
儲け話に機敏に反応しても
ハコモノ=施設を作ることで土地売買や建設による経済効果があり、管理団体を作ることで役人の天下り先まで確保します。その時「運営」による赤字を助成金などの税金で補填される仕組みを用意する周到さに役人の能力の高さが発揮され、一石三鳥の完成です。税金という「枯れない泉」の存在が「運営」を疎かにさせ、赤字は源泉掛け流しとなるのがハコモノ行政の構造的問題です。
運送会社のA社長はハコモノ0.2的に「運営」を軽んじます。創業以来、親会社からの仕事は途切れることなく、「運営」など意識しなくても業務が拡大し、それは役人の枯れない泉と同じ感覚でした。今では信じられないことですが、昭和の「好景気」には一つのチャンスで無策の企業でも飛躍できたのです。しかし、この不況に親会社からの物流コストの圧縮要求は脅迫的な色彩を帯びていきます。そこに加えて原油高の高騰です。物流業界で明るい話題を耳にしなくなり、しばらくの時が過ぎました。創業20年を超えてはじめてA社長が直面する「運営」のストレスを、幹部会議の席で発散します。営業部はそこそこの利益は稼いでいましたが、大口発注の親会社からの値引き分の穴埋めには届きません。ストレスは営業部長にぶつけられます。
Macがある朝、突然に
吊し上げられた営業部長は「ホームページが…」と絞るように声を出します。「なんだ」と咎めるA社長。部長は続けます。営業マンが作った取引先のホームページが売れたと。A社長の目が輝き、吊したロープを弱めその中身を問えば、パソコンの中だけで完結し原価は事実上0円、つまり利益率100%だといいます。激烈な値引き圧力と原油高騰に頭を抱える物流業界にとっては夢のような話が転がり込んできました。
会議からしばしの時が経った朝、ホームページを作った営業マンは出社し、我が目を疑いました。デスクにはパソコン「マッキントッシュ(Mac)」が設置され、「Photoshop」などの各種ソフトが堆く積まれています。営業部長が社長の言葉を述べます。
「機材は用意したからあとは稼げ」
ホームページ制作事業を立ち上げろというのです。まるで「ハコモノ」を作れば商売が成立すると考える役人のようです。いみじくもパソコン業界にはこんな格言があります。
「コンピュータ、ソフトなければ ただの箱」
この格言は20世紀のものですが、21世紀の今、補足する下の句はこうです。
「使えなければ やはり箱なり」
コンピュータはOSも含めソフトがなければ何もできず、その重要性を指摘するものですが、ソフトがあっても使いこなす技術がなければ用を為しません。
公務員と営業マンの共通項
営業マンが納品したホームページは「素人作品」であることは制作者本人が理解しています。取引先は「熱意」に金を払ったのです。さらに、営業マンはWindowsユーザー。Macを選んだのは「デザインならMac」とA社長がどこかで仕入れた知識によります。社長命令に逆らう会社員は希です。彼はPhotoshopなどのソフトとMacの基本操作の習得に連日残業をはじめました。
A社長がホームページに夢を見たのは高い利益率によります。しかし「運営」から見れば間違いです。民間企業の営業マンには個人の裁量で労働時間を調整できる「裁量労働」という雇用契約があり、便宜上「1時間勤務」でも1日の労働と見なせる「裁量」が認められており、これを理由に残業、早朝、休日出勤に手当が出ないのです。彼も「裁量労働」で契約しており、技術の習得や制作時間における彼の残業代がコスト計上されない状態での「利益率100%」だったのです。
ハコモノは作ってからが本番です。設備投資、機械設置は準備に過ぎず「運営」により利益がでます。しかし、ホームページ制作は素人レベルで受注ノウハウは「皆無」です。上がらぬ売り上げにA社長は「機械を買ったのに」と繰り返し営業部長と営業マンを罵ります。これまでのA社長の主な仕事は親会社の仕事量に併せてトラックを買い増すタイミングを考えることだけでした。つまり、機械を買う=儲かるだったのです。それは「ハコモノ」を用意すれば、管理団体という天下り先が増えて潤う霞ヶ関の論理に似ています。
営業部長は社長に「ご指導」を仰ぎますが、知るわけもなく無能を誹るだけです。営業マンは残業と休日出勤を繰り返し、独学でそのノウハウを得たとき、そっと辞表を出しました。これも最近では「優秀な官僚ほど野に下る」という噂に重なります。
エンタープラズ1.0への箴言
「使う人がいての機械。運用をイメージしてから導入する」」