Twitterは古くて新しいメディア

ソーシャルメディアでは「インタラクティブ」に情報の交換と共有が行われます。「双方向のコミュニケーション」により言論が構築される点は、情報の流れが一方通行のテレビや新聞との大きな違いです。情報の上流と下流、発信者と受信者、演者と視聴者が常に入れ替わる「ボーダーレス」なメディアです。

……と、カギ括弧で囲った「インタラクティブ」「双方向のコミュニケーション」「ボーダーレス」。いずれも今や昔の20世紀に「インターネット」を紹介する際に使われていた言葉です。つまり、「ソーシャルメディア」とは「インターネット」を呼び替えただけにすぎません。「ジーンズ」を「デニム」、「水玉模様」を「ドット柄」と呼ぶことで、新しさを演出するファッション業界では定番のマーケティング手法で、私はこれを「リパッケージ」と呼んでいます。

リパッケージとは「包み直す」という意味で、包装紙を変えただけで中身は同じということ。Web業界では特に多用されています。「日記型掲示板」を「ブログ」と呼び替えたのもそうですし、利用実態から見たTwitterは「チャット」です。発言せずに見ているだけの利用を「ROM(Read Only Member)」と呼び、離脱時に「落ちます」と、どちらも20世紀のチャット用語がタイムラインに散見するからです。インターネットの世界は「リパッケージ」を繰り返すばかりで、20世紀の昔からあまり進化していません。

地域広告の代換えを目論んだが……

首都郊外にある広告代理店のJ社は昨年来、ソーシャルメディアに取り組んできました。架空の犬をモチーフにしたキャラクター「ジョー」がTwitterでつぶやきます。

街角の広告代理店の経営は、長引く不況に環境の変化から年々苦しくなる一方です。かつてバブル経済の頃は、外の景色が見えないほど貼られていたバスのステッカー広告は減少し、法令遵守から捨て看板は絶滅危惧種に指定され、都市の高層化によりアドバルーンの広告効果は激減しました。

週末になると新聞本紙よりも分厚く折り込まれる「チラシ」も、大規模チェーンストアばかりで、事実上クライアント数は激減しています。大規模チェーン店のチラシは巨大広告代理店が仕切るので、街角の広告代理店におこぼれが廻ることはありません。

そこで、ソーシャルメディアに商機を見つけます。特売や売り出し、イベント情報をTwitterやFacebookで流すことでチラシなどの地域広告の代換えとすることを目論んだのです。

既存メディアと決定的に異なる点

「ジョー」はその試金石です。「ジョー」は気ままにつぶやき続けました。時々、クライアントのヨイショを織り交ぜながら。1年後、まったく広告効果を得られないまま、アカウントは停止され「ジョー」は静かに引退しました。狙いは正しかったのですが、インターネットをソーシャルメディアとした「リパッケージ」に本質を見誤ったのです。

ソーシャルメディアと既存メディアの大きな違いは「インタラクティブ」「双方向のコミュニケーション」「ボーダーレス」……ではありません。実はそのどれもが既存メディアで実現できます。「視聴者参加型番組」や「リクエスト番組」、「素人オーディション番組」などがそうです。ただし、広告媒体としてのソーシャルメディアを活用する際に、決定的な違いが生まれます。それが「観客を集めなければならない媒体(メディア)」だということです。

テレビやラジオのCMに、新聞雑誌への出稿は、それぞれの持つ視聴者や読者に向けてアナウンスします。つまり「集客」は番組制作者や、テレビ局、新聞社、新聞勧誘員の仕事で、広告主が行うものではありません。しかし、ソーシャルメディアという「媒体」は、媒体自体への集客を自分自身で行わなければならないのです。

企業がソーシャルメディアを利用する際に不可欠なこと

これは、インターネットを「ソーシャルメディア」と呼び替えたことにより起きた「リパッケージ0.2」です。「メディア」という単語が「マスメディア」への錯覚を誘い、発信だけを繰り返すその行為は、砂漠の真ん中で愛を叫ぶより虚しく、誰の耳にも声は届きません。しかし裏を返せば、客を集めれば独自の放送網を持てるのがソーシャルメディアです。

また、リアルタイムな情報発信は「タイムセール」などを容易にすることから、地域広告としての大きなポテンシャルを秘めており、これはソーシャルメディアが「インターネット」と呼ばれていた時代から同じです。両者をあえて色分けするなら、グローバルと喧伝されたのが「インターネット」で、地域というローカルに結び付けやすいのが「ソーシャルメディア」です。TwitterやFacebookは活用次第では、地域コミュニティやリアル店舗との親和性が高いからです。もちろんホームページでもできることですが。

「ジョー」はつぶやき続けました、フォロワーも集めずに。ソーシャルメディアは能動的にユーザーが求めなければ情報が届かない「メディア」であり、従来の広告媒体のアプローチは使えません。例えば「チラシ」なら、何十万、何百万枚と数に任せれば、一定の広告効果は得られますが、フォロワーが「0」のTwitterで千億回つぶやいても歯ブラシ1本売れることはありません。ソーシャルメディアで思うような成果を上げられずに「ソーシャル疲れ」となる企業に通底する「0.2」は、ここにもあります。

エンタープライズ1.0への箴言


「ソーシャルメディアでもっとも大切なことは集客」

宮脇 睦(みやわき あつし)
プログラマーを振り出しにさまざまな社会経験を積んだ後、有限会社アズモードを設立。営業の現場を知る強みを生かし、Webとリアルビジネスの融合を目指した「営業戦略付きホームページ」を提供している。コラムニストとして精力的に活動し、「Web担当者Forum(インプレスビジネスメディア)」、「通販支援ブログ(スクロール360)」でも連載しているほか、漫画原作も手がける。著書に『Web2.0が殺すもの』『楽天市場がなくなる日』(ともに洋泉社)がある。

筆者ブログ「マスコミでは言えないこと<イザ!支社>」、ツイッターのアカウントは

@miyawakiatsushi