増税を狙う野田内閣に正当性はあるか?
野田内閣が臨時増税を目論んでいます。発表時の数字では総額9.2兆円。増税とは政権交代を引き起こすほどの劇薬で、消費税導入により「日本新党ブーム」が起こり非自民党政権を生み、3%から5%への税率アップが自民党の弱体化を招き、後の政権交代の布石となりました。今回の検討対象は消費税ではありませんが、「政局」を招きかねない増税に代わりはありません。そして、これを野田内閣が仕切ることに強い違和感を覚えます。
野党時代の民主党は選挙もせずに、党首をすげ替える自民党を「たらい回し」と批判していました。野田さんは民主党政権になってから3人目の党首。己の言葉に誠実であるなら解散総選挙をしなければ筋が通らないところですが、「迅速な復興対策」という大義の前に片目をつぶって見逃され、存在が許された政権です。にもかかわらず、議論が紛糾することが明らかな「増税」に手を出すことをいぶかしがるのです。
また、野田首相は「未来にツケを回せない」と言いますが、来年度予算の概算要求は過去最大で、震災前の今年度の予算では44兆円の国債を発行して借金している国が、9.2兆円だけを未来にツケ回さないと高らかに宣言するのは笑えない冗談です。
品質管理の一括化で事業集約
国会議員と公務員の削減議論が停滞したまま「増税」だけが独り歩きしている状況から、「財務省傀儡内閣」という批判を否定できません。増税したい財務省の言いなりということです。国家も企業も家庭も同じく、入ってきたお金(収入)と、出て行ったお金(支出)を引き算して、残金があれば黒字、逆なら赤字で、赤字が続けば破綻するのは同じです。しかし、国家だけは「増税」により、収入を簡単に増やすことができ、その差配を振るうのが財務省です。「増税」すれば、経費削減もリストラも必要ありません。
T社長の経営するリサイクルチェーンが、ネット通販事業部でネット通販の発送作業を一括して行うことを認めた理由は「品質管理」でした。新規参入が相次ぐリサイクル業界は、もはや安かろう悪かろうでは客が離れてしまいます。清掃や整備など、品質管理は喫緊の課題。店頭業務のない通販事業部なら丹念にチェックできるという理由です。
そして、ネットに注文が入ると、各店からネット通販事業部に商品が運ばれるようになりました。ネット通販事業部は国道沿いの大型テナントを営業店舗と半分に分け合ったオフィスで、作業スペースは十分にあります。
スタッフそのものが既得権
T社長の会社はこの時点ですでに「0.2」です。品質管理の重要性は店頭でも同じです。ならば、店頭から直接発送するほうが合理的です。第一、商品を通販事業部へ移動する際は大手宅配便を利用しており、1回の取引に2度の運賃が発生していたのです。
各店の在庫は買取状況で異なるとともに店ごとの需給ギャップも存在し、ネット通販はこの改善を目的としていました。たまたま併設している営業店舗の商品発送を通販事業部が手伝ったことが、他店の店長の耳に入り「不公平だ」とクレームが上がります。
清掃、点検、梱包、伝票記入、発送を伝えるメールの送信に、到着確認といった通販に不可欠な作業が、営業店舗にとっては負担となっていたのです。また、一般論ですが「店頭」に立つタイプの人種は、こうした事務的な作業を嫌う傾向があることもクレームの根底にあったのでしょう。
そこで何店かの発送作業を手伝ううちに、通販事業部の作業が増大し、人員を増強します。PCしかなく閑散としたオフィスが人と物で溢れ返るまで、さしたる時間は要しませんでした。すると、増えたスタッフそのものが「既得権」となります。
スタッフの雇用確保はネット通販事業部にとっての最優先事項となり、一方の営業店舗は店頭スタッフの嫌がる仕事をネット通販事業部に押しつけたいと両者の利害は一致しました。つまり、両者の組織防衛のための理論武装が「品質管理」だった「組織防衛0.2」です。
そもそも創設の経緯からして問題
さらに、時計の針をネット通販事業部が創設された時まで巻き戻します。T社長の一目惚れで契約した国道沿いの大型のテナント物件ですが、開店当初は在庫の少なさからスカスカで、不渡りを出して商品を引き上げられた倉庫のような閑散とした店内でした。そこで、店舗を半分に間仕切りをし、商品を圧縮して並べることで賑わいを演出したのです。残った半分のスペースを遊ばせておくのがもったいないと、立ち上げたのがネット通販事業部でした。需給ギャップの調整は後付けの理由です。そもそも、無駄な家賃から生まれたネット通販事業部が、組織防衛のために無駄な経費を生み出していたのです。
その姿は、俗に「ハコモノ」と呼ばれる公共施設を作り、それを管理する団体を立ちあげる役人と重なります。仕事を維持するための仕事を増やして、経費を膨らませていきます。それが許されるのは「税金」という強制力のある集金システムがあるからで、今回の「復興増税」にもその影がチラつきます。
民間企業はそうはいきません。間もなくT社長は病に倒れ、跡を継いだ経営者によって、ネット通販事業部だけではなくリサイクルチェーンそのものが売却されてしまったのです。
筆者は増税に反対するわけではありません。しかし、公務員と国会議員の削減議論が進まぬまま「増税」を進めるのは、止血もせずに輸血が必要という医者の言葉を信じろと言うようなものです。また先に指摘したように、復興増税による未来への「ツケ」より、毎年の借金のほうが遥に大きな状態は、闇金で金を借りておきながら、サラ金には手を出すなというようなもので納得などできません。
エンタープライズ1.0への箴言
組織防衛は無駄な経費を必ず生む」
宮脇 睦(みやわき あつし)
プログラマーを振り出しにさまざまな社会経験を積んだ後、有限会社アズモードを設立。営業の現場を知る強みを生かし、Webとリアルビジネスの融合を目指した「営業戦略付きホームページ」を提供している。コラムニストとして精力的に活動し、「Web担当者Forum(インプレスビジネスメディア)」、「通販支援ブログ(スクロール360)」でも連載しているほか、漫画原作も手がける。著書に『Web2.0が殺すもの』『楽天市場がなくなる日』(ともに洋泉社)がある。
筆者ブログ「マスコミでは言えないこと<イザ!支社>」、ツイッターのアカウントは